露と消えた願い、果たされぬ約束 その1
ーーーーーーーーツェーリーーーーーーーー
「クレイオス様!」
世界樹の元に帰って、休む間もなく私は『世界樹の担い手』であるクレイオス様に謁見を申し出た。生まれた時からお世話になってるお方で、物心ついた頃からずっとお慕いしている。
クレイオス様は私の肩の傷を見るや否や悲壮な顔を浮かべて、私を抱きしめた。
「なんといたわしい姿だ。つらい思いをしてきたんだな」
私の肩にクレイオス様の手が触れると、立ち所に傷は癒え、まるで最初から怪我なんてしてなかったかのように綺麗な肌を覗かせた。
「ありがとうございます」
私は感謝を口にする。だけど、クレイオス様は優しい眼差しで小さく笑うと、感情を押し殺した顔に変わった。
どうしたんだろ?
この世界の観測にでてから世界樹と一度もリンクしてない。だから、クレイオス様の真意を測ることもできなかった。マーリンのことで頭が一杯になってるからかもしれない。
そうだ。クレイオス様に聞いてもらわなきゃ!私の大事な友達が大変なことになってるの!
それを言葉にする前に、ヤンが違和感を感じ取った。
「クレイオス様、どういうことですか?今から戦争でも始めるおつもりですか?」
「ヤン……」
クレイオス様に会う前に、私たちはみんなが武器を掻き集めたり、食料を慌ただしく運んだりしてるのを見た。みんな不安そうな表情で、だけど何かを覚悟していた。
不安に駆られることなら度々あった。かなりの時を私は世界樹で過ごした。世界樹の中が世界の全てで、他には何もない。閉塞感が漠然とした不安を抱かせた。だから、その感情は見慣れていると言ってもいい。
だけど、強い意志を持つ瞳は初めてだった。それが覚悟というものだということは、短い間だけど外の世界を旅してなければ分からなかった感情だ。
そう、みんな何かを覚悟している。それを無視してでも、私はマーリンを助けることを優先したかった。
それが永遠に叶わぬ願いだと誰が知ろうか。
「我々はこの世界に終焉を齎すため、膨大なエネルギーをかかえた一つの国家に宣戦布告した。彼らを撃滅せしめたのち、我々は世界の中心を目指す。そして、この世界に世界樹の根を張り巡らせる」