協力関係
――――――――佐倉涼太――――――――
「だけど、俺は黙って見過ごす気はねえんだわ。もう一度挑むためには戦力を強化しなきゃならん。んで、閃いたのが冒険者ギルドよ」
「えっ、うちは魔物とかダンジョンとかが専門なんですが! 昼夜を逆転させるような超常の存在はどう考えても専門外なんですが!」
「うるせえ! 神様も人間に害をなすなら魔物と変わらん。てめえの国が脅かされてんだ。男なら腹くくれや!」
ギルドマスターはびくりと肩を震わせ、そのまま押し黙った。
彼もゼフに負けず劣らずの筋骨隆々の屈強な男なのだが、先程のエルドリッチ無双が目に焼き付いてるせいで萎縮しっぱなしだ。そうでなくとも大英雄。ギルドマスターとはいえ格の違いは歴然だ。
「しかし、こういうことは先に傭兵ギルドに掛け合ったほうがよかったのでは?」
「ああ、最初から二手に別れて行動してる。本当は俺らが傭兵ギルドに行くはずだったんだがな。冒険者ギルドのほうに不穏な気配が感じられたからこっちにきたってわけだ。その気配を察知して敵さんも俺らへの追撃を一旦切り上げたみてえだし」
不穏な気配ってやつは間違いなく俺らのことだ。そうじゃなければいきなり絡んでくるようなことはしなかっただろう。しかし、ますますエルドリッチの意図がわからない。こちらは争う気がさらさらなかったのだから、最初から友好的な関係を築くよう立ち回ればよかったはずだ。
いくら召喚師を駆逐する目的があったとしてもそのあたりの分別はあるはずだ。
「どっちの味方になるかもわからねえ不安要素なうえに目もあてられん弱さだったら目障りなだけだろう? 切って捨てたほうが気苦労がなくてええ。その点は最低限クリアしてるみたいだから、手を組んでもいいって判断したわけよ。原理は知らねーが涼太が急激に強くなったあと、あんたの存在感も増した。今のままじゃ全然だけど、切り札として見ていていいんだよな?」
「そうだな。あと4人覚醒すれば後れを取ることはない」
師匠がさらっと重い課題を告げた。俺以外の全員が口を結び、俺に視線を集中させた。
いや、そんなに見つめられても俺にはどうすることもできないんですが。第一、覚醒した本人でさえ、「えっ、こんなんでいいの?」と度肝を抜かされたほどだ。
「じゃ、余裕だな」
続いてエルドリッチに視線が集まる。無茶ぶりもいいとこだ。
「じゃなきゃてめえら死ぬぞ? なあ、ギルマスさんよ?」
「えっ、あ、はい」
声をかけながらエルドリッチは立ち上がってギルドマスターの肩をたたいた。顔が笑ってるエルドリッチに対してギルドマスターは引きつっている。
「……間違いがないように確認しますが、今の話を要約すると……王宮に今から傭兵ギルドと冒険者ギルド総出で王宮に攻め込むってことですよね?」
「そうだよ。まさか大英雄様が国家転覆を狙って俺たちを口車に乗せようって企んでるとか、まさかまさかそんなくだらねえ心配してるわけないよなぁ?」
「いえ、滅相もございません! わたくしどもとしてもこの非常事態を解決しないことには住民たちの生活に支障をきたすと苦慮しておりました。突然の提案に驚いただけです。しかし、冒険者全員がというのは難しく……」
「全員じゃなくていい。士気がない奴を連れて行っても混乱するだけだ。それにこっちにはウルリカがいるからな。曲がりなりにも王女様だ。必要ならこいつを使え」
「……これほどまでの事態に陥ったのには我々王族の責任もあります。皆様が元の生活に戻れるよう尽力するのは私の務めです」
エルドリッチの言い草に不服そうな、しかし強い信念を感じさせる表情だった。
この王女様もだいぶ苦労されてきたのだろう。エルドリッチからは王族を敬う態度をほとんど見せていない。それなのに、彼とともに戦うことを選択したのは到底考えも及ばない葛藤があったに違いない。
「大体煮詰まってきたな。しかし、まだ一つ答えていない質問がある。この騒動の張本人は本来どういう手段で神を召喚しようとしていた?」
「……確定じゃねえからそっちで判断してくれると助かる」
「構わんよ」
「ウルリカ以外の王族は今回の召喚で全員生贄にされた。おそらく俺がいなかったらウルリカもその一人に数えられるはずだった。つまるところ、神召喚の最後の鍵はウルリカなのかもしれん」
「それは難儀な話だな。どの道彼女を一人には出来ない」
「理解しております。エルドリッチ様には、一緒についていって最後まで見届けたい、そうすでにお願いしました。私は戦力になりませんが、どう転んだとしても王の血を持つ最後の一人として立ち会わなければならない義務があると考えております」
「覚悟しているならもはや私からは何も言わん。エルドリッチ・エルリック。神討伐までの間、仮の同盟を結ぼう。お互い足手まといにならないよう力の限り戦おう」
「くっくっくっ、俺もあんたと組むのが楽しみで仕方ない。お弟子さんたちは不満みてえだけど?」
「初対面で見るからに怪しい気配を放つ私と契約したんだ。全員本音と建て前は弁えてる」
師匠が差し出した手をエルドリッチは快く握り返した。
あのエルドリッチが勝てないと言わしめる相手。そんな相手に俺たち六人はどれほどのことができるだろうか。不安でたまらない。勝利のカギは明らかに俺たちの誰かの覚醒にかかってる。しかも、一人じゃなく過半数以上だ。弟子になってまだ半日もたっていないのにどんなスパルタだ。だが、やるしかないのも事実だった。