表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界不死者と六人の弟子  作者: かに
第三章 獅子公ロイアスとカントのはぐれ者
149/384

精霊の矢

ーーーーーーーーマテーーーーーーーー


 ツェーリが精霊の力を借りて空を飛ばない理由はすぐにわかった。決して森の木々が飛行の邪魔をして飛べないわけじゃない。ツェーリの技術なら木にぶつからずに高速で移動しながら矢を射るなんて造作もない。

それができないのはジュウリのせいだ。

 ジュウリは木々を薙ぎ払いながら目標を両断することができる。ツェーリのありえない軌道を描いて接近する矢をことごとく斬って落としていることからも、それより大きな獲物が飛んでいたらひとたまりもないのは想像に難くない。

 むしろ地上にいたほうが彼女の攻撃は避けられる。無駄に動いて翻弄するよりも、ジュウリの剣の動きを見極めて最小の動作で回避するほうがいい。そう考えるだけなら簡単だ。

 私じゃ絶対に無理!


 「はっはー!」


 無駄口は叩かなくなったがリトゥヴァの癪に障る笑い声が妙に耳に響く。

 早くなんとかしないとジリ貧になる。

 私が言えたことじゃないけど、ジュウリの攻撃を避けることに神経と体力を使っているせいか、ツェーリとヤンの息が上がってきている。

 あの斬撃は魔力が付与されていない武具ぐらいなら平気で無視して斬ってくる。ヤンが何度か剣で受けてた。けど、細身の剣じゃすぐに限界がくる。それはヤン自身が一番理解していることだ。だから、もう剣で受けようとはしてない。

 そのうえ、底なしかと思うほどリトゥヴァもジュウリも顔に疲れが見られない。


 「本気を出すと言った割にはそう大して変わらないようね!」

 

 ツェーリが挑発する。本当は一杯一杯なのに何とか突破口を見つけようと相手を揺さぶる。


 「冷静に戦況を見極めた結果です。与える情報はより少なくするに越したことはありません。先程はリトゥヴァのせいで熱くなってしまいましたが、全力を出さずとも倒せる方法はあります。何しろ私たちにとってこれは前哨戦に過ぎません」

 「私たちの家族に手を出したらタダじゃ済まさない……!」


 ツェーリの射る矢がまたもや空中で叩き斬られる。矢の進行方向を操作することができても、やはり矢じりだけじゃ効力を発揮しないようだ。真っ二つにされた矢はツェーリの操作から離れ、力なく地面に落下していく。


 「まだまだこれからっすよ!」


 ヤンと対峙するのはリトゥヴァ。さっきまでの慢心した動きはなりを潜め、洗練された足運びで迂闊にヤンの間合いに入らぬ様絶妙な距離を保つ。

 私はナイフこそ構えているが、投げあぐねていた。リトゥヴァの弱点を狙うことは私にはできない。狙うならジュウリだ。だけど、ジュウリはこんな私に対しても警戒を怠らない。

 私が攻めようとするたびに視線が重なり、攻撃のタイミングを逸してしまう。

 でも、このままじゃ確実にやられちゃう!

 私はツェーリを見た。こんな劣勢な状況でもツェーリは笑っていた。それが何を意味するのかすぐに知ることになる。

 これまでとは違い、まっすぐにジュウリに向かって飛ぶ矢。ジュウリにとってはどの矢よりも落としやすいであろうその矢が、突然加速した。


 「なっ……!」


 驚きの声を上げ、防御しようと腕を上げるジュウリ。しかし、その矢はあまりにも速すぎた。ジュウリの右肩、ちょうど骨と骨の継ぎ目にあたる部分を射抜いた。

 右手はジュウリが常に小剣を握っていた手。つまり、彼女の利き腕だ。

 やった!あの子の剣を封じた!


 「言ってなかったけど、使役してる精霊は一体や二体じゃないの。切り札はここぞという時に使わないとね」


 ドヤ顔を私に向けるツェーリ。普段ならムッとさせられる顔だけど、この時ばかりはかっこいいと思ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ