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異世界不死者と六人の弟子  作者: かに
第三章 獅子公ロイアスとカントのはぐれ者
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影が薄いの気にしてたんだ

――――――――マテ――――――――


 「どこに逃げるっすか? そんなに遅かったら撒けないっすよ?」


 速い。速すぎる。何なのこの二人!

 そんな気がしていたけど、引きはがすことができない。

 ツェーリの喉元に滑り込むように突き立てられようとしたリトゥヴァの短剣をヤンが弾く。すかさずジュウリの不可視の斬撃に襲われる。

 ツェーリもヤンもとてつもなく勘が鋭い。ジュウリのどこまで避ければいいか見当もつかない攻撃を何度も躱している。私じゃ絶対できない芸当だ。

 あのきもい目玉の二人は私のことなんて眼中にない。

 エルフという種族を殺しにきている。

 なんなの! ツェーリもヤンもこんなに優しいのに。ヤンはちょっと影薄いけど。とにかく殺されて仕方ない種族なんかじゃない!


 「リトゥヴァ! 突っ込みすぎだ!」

 「このぐらいなんともないっすよ!」


 リトゥヴァの絶え間ない攻めがツェーリを追い詰めようとしている。だけど、そうはならない。


 「マァ!?」


 天空の世界樹に住むエルフは精霊を使役する。ヤンの脇からぬっと現れた雄鹿の突進に、奇声をあげつつ慌てて回避行動をとるリトゥヴァ。その機を逃さず、ヤンが追撃する。

 しかし、それをジュウリに阻まれる。


 「まったく、いつも先走って……その堪え性がないところにイライラさせられますね」

 「ハッハー! ジュウリはもっと冒険心をもったほうがいいっすよ?それに、なんだかんだ守ってくれるのは感謝してるっす」

 「してるならしないでください」

 「ごもっもすぎるっすね。ともかくジュウリ、早くもあたいの能力に対応してきたっす。この男、あたいの数ミリしかない急所を明らかに狙っていたっすよ!」


 リトゥヴァは楽しそうにそう告げた。でも、それを聞いたジュウリは眉間のシワをさらに寄せる。

それもそうだ。彼女からすれば面白くない話だし、リトゥヴァも危機感をもっと表にだすべきだ。


 「ゼフさんのおかげで大体の位置を特定できるようになりました。あちらの反応からしても間違いはないようですね。ラルフにばかり見せ場を与えてしまっては、僕の立場がありませんので……それにここで目立っておかないと影がますます薄く……」


 あ、気にしてたんだ。


 「見せ場なのはヤンだけじゃないから。みんなを置いて逃げるのは私の主義に反するのよね。後のことは目の前のことを片付けてから考えましょ。今はとにかくこの二人を倒す!」

 「ハッハー! 舐められたもんっすね!」


 ツェーリの放った矢を横に躱す。その動作だけでリトゥヴァの急所に正確に飛んでいったのだと理解できる。


 「今のは危なかったっす!」

 「そんな嬉しそうに……まったく、安全志向の私には到底理解の及ばない思考ですね。そういうのはロイアス様だけで間に合ってます」

 「相変わらずお堅いっすねぇ。あたいもロイアス様と同じ特別枠に入れてもらえないんすか?」

 「だってリトゥヴァは死ぬではありませんか」

 「あはは! それは納得っすね!」


 それは逆に言えば、ロイアスとかいうやつに絶対の信頼を寄せているということだ。

 だめだ。頭をよぎるだけで震えがとまらなくなる。王宮で死にかけた時でさえ味わったことのない畏怖だ。

 もし私が何も知らない通りすがりのただの人間で、あれは神様です、と唐突に言われても何の疑問もなく信じる。それほどまでの存在の違いを肌で感じさせられる。


 「おしゃべりしてるなんて随分余裕ね! 貴方はともかく妹さんのほうはだいぶ追い詰めてるつもりなんだけど?」

 「ご心配には及びません。先程までは足止めが目的でしたから。あれが我々の底だと勘違いされてるようでしたら甚だ遺憾でありますね」

 「つまり、本気じゃなかったってこと?」

 「物分かりが良いですね。それでは、ご覧にいれましょう。我々の全力を」


 ジュウリが小剣を構えると、リトゥヴァの飄々とした態度が一変する。二人とも戦闘態勢に入ったということだ。緊迫した空気がさらに重くなる。

 ツェーリとヤンはその雰囲気に呑まれない。

 ちょっとした疎外感を覚える。この戦いは私の実力の一つ上をいっている。それをありありと見せつけられる。私自身それを認めるしかない。

 それでも、私はツェーリのために出来ることなら何でもしてあげたい。

 はやる気持ちに体が追いつかない私を置いて、本当の殺し合いが幕を開けた。




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