覚醒(ラルフ)
ーーーーーーーーラルフーーーーーーーー
「おや、こういう形での来訪者は珍しいな。いや、元々私の力を受け継ぐだけの実力は備わっていたか。気持ちの整理がついたというべきか」
そこは神殿のようだった。しかし、奥にある立派な玉座がそれを否定する。その玉座を前に哀愁を漂わせているのは紛うことなき我らが師匠。
「神を崇拝する者たちで建国されたために、玉座の間にしても堅苦しい造りになっている。まったく息苦しいばかりだ。融通がきかないやつばかりでな。よく口論になったものだ」
「師匠、ここは?」
「それはどちらの意味で尋ねたのだ?」
「俺は、エルドリッチと一緒にいたはずです」
「ならば答えはこうだ。君は私との繋がりを深いものとした結果、私の記憶に触れることができた。そして、その記憶というのがちょっとおしゃべりなだけだ」
つまり、ここは現実ではない。師匠の記憶の中にある映像を、あたかも本物のように見て触れて感じることができる。
「私にも人が信じられなくなった時期があった。私の命の恩人が謀略によって惨殺された。復讐を果たしたが、しばらく私は人と関わるのをやめたよ」
師匠は続けた。
「そこの玉座に座っていたバカタレが世界平和のために私に懇願してくるまではな。バカ真面目に平和を願って、死ぬまでそれを貫き通した真性のバカだ。こいつがいなければ、私が再び人間を信じようとはしなかっただろうな」
口は悪いけど、その表情は柔らかなものだった。師匠の心はこの玉座に座る者によって確かに救われたんだ。そして、それが俺がこの場所にいる理由でもある。
師匠の感情が流れ込んでくる。同じではないが、似たような感情が俺の中にもある。
「しかし、君も逆境に好まれる性質があるようだな。この玉座に座った男のスキルはゼフが受け継いだが、君のはその対極にあるスキルだ。あまりお気にめさないかもな」
「それってどういう意味ですか……?」
「目覚めたら分かる」
師匠は意味深な笑みを浮かべた。被害を被る側としては喜ばしくない笑みだ。
「そういうところで悪戯心をださなくてもいいんですよ」
「む、エルドリッチに揉まれて言うようになったな。やはりなんでもかんでも黙って受け流す男より、多少言い返すぐらいの性根がないと面白くない。成長したな、ラルフ」
「……その名前はまだちょっと恥ずかしいですね。まあ、本名なんですけどね」
苦笑して溜息を一つ漏らし、気持ちを改める。
「ありがとう、師匠。気乗りしないけどがんばります。あと、エルドリッチにも恩義があるので師匠の旅路に最後までついていけないかもしれません」
「それは現実世界の私に言ってやるといい。なに、私は最初に言ったはずだ。何をするにしても君たちの自由だ、とな」
景色がぼやけていく。記憶の中の師匠とはこれでお別れのようだ。最後に温かいものが胸に溢れてくる。俺はただひたすらに師匠に感謝の念を送った。