イナズマ
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
勢いを完全に殺された?
リトゥヴァもジュウリも異次元のチカラだったが、ロイアスのそれはさらに不可解さを増した。
まるで鉄壁の壁がそこにあるようだった。いや、その表現は正しくない。だって、ラルフの剣はロイアスに触れてもいないのだ。
「がーっはははは!よいぞ!見事な太刀筋だ。だが、それだけでは足りん。生かすに値せんぞ?もっと俺様に己の強さというものを証明してみろ」
「バケモノか!」
ブリ大根とやり合った時も、ジュウリと戦った時も余裕のあったラルフが初めて悪態をつく。
「うらぁ!ロイアスさんよぉ!リベンジしにきてやったぜぇ!あんときはよくもやってくれたな!ぎったきだのばっこばこにしてやんよ!」
「……誰だおまえは」
振り上げたロイアスの腕がラルフに迫る直前で停止する。代わりに啖呵を切ったリュウガに視線が集まる。その隙にラルフはロイアスと距離をとった。
意図したかどうかはわからないけど、リュウガに助けられたわけだ。
「ロイアス様、ジークリットと一緒にいた変な三人組の一人です」
「……まあ、そんなことは些細なことだ」
思い出せなかったらしい。
リュウガの安っぽい売り言葉にも原因があったに違いない。
「それよりおまえ、俺様に様をつけないとは何事だ!」
「今から倒す相手に様付けなんて格好がつかねえだろ?」
「それもそうだな……がーっはははは!気に入ったぞ!気に入った分、簡単に潰れてくれるなよ?」
「一瞬物分かりがよくなったのかと思ったけど、やっぱてめえはてめえだな。安心しろよ。俺のとっておきをしこたまぶちこんでやっからよ!」
「ほう……ならば、見せてみろ」
ロイアスは両手を広げた。無防備だった。もしかしなくても、やつはリュウガの全力を何の抵抗もせずに受け切るつもりでいる。
「……なめてんのか?」
「そういう次元の話ではない。俺様は試す側で、おまえは試される側なのだ。人間と神は昔からそういうものである。例外などありはしない。ただ唯一、俺様を傷つけることが出来るとするならば、それは英雄である。そしてそれこそが、俺様に殺されずに済む最低限のレベルだ」
冗談なんて一つもない。ロイアスは終始真顔で述べた。
英雄であることが唯一の生かす条件。そして、それを証明する方法はほんの僅かなダメージでもヤツに与えること。容易いようで何よりも難しい課題に思えた。
リトゥヴァなら、結局ゼフに頼る形にはなったけど、工夫を凝らせば攻略の糸口を掴めるかもしれないという望みがあった。
ロイアスにはそれが一切ない。
「いいぜ、だったら見せてやんよ。俺のスキルの中で一番痺れるやつをよぉ!」
途端にリュウガの両腕がバチバチと音を立て雷を帯びる。そして、現れたのは拳まですっぽり覆った青白く発光した絢爛豪華な手甲だった。
おおよそ実戦向きじゃないそれは、しかし膨大な魔力を感じさせ、リュウガの全身を駆け巡る。それはさながら稲妻のごとく。
そこで俺は思い出した。ラルフがブリ大根と戦った後、師匠が言った言葉だ。
ブリ大根の炎は、吸血鬼の不死性を打ち消せるモノだと。だったら、リュウガのスキルも、それと同等のチカラを持ち合わせていてもおかしくない。
だったら、その拳はロイアスに届きうる。
「これが俺の全力だぁ!」
迸る魔力の奔流が雷撃となって、リュウガの拳とともに叩きつけられる。まばゆい光が森の隅々まで照らす。
これほどとは!
間違いなくこの一撃はトリュン王国に厄災をまき散らしたあの神の一撃に匹敵する。それほどまでに強力な攻撃だった。
「がーっはははは!見事だ。久しぶりに骨のある一撃を見ることができた。俺様の世界でもこれほどの使い手はそうおらんぞ。だが、それだけだ。結局俺様にかすり傷一つ負わせることはできなかった。これで終わりなら、潔く死ね」
称賛からの冷めた言葉と視線に、リュウガはまともに動くことができなかった。
リュウガの顔面に向けられたただのパンチは、たった一撃でリュウガを光の粒子にして飛散させた。あれほどの攻撃をもってしてもロイアスは無傷であるという結果だけを残して。