妹
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
金色の鎧に金色の刺繍が施された金色の腰布、獅子のような剛毛の金髪に鋭い金色の眼光。ゼフを貫いた槍でさえ金色だった。
その男は豆粒のように遠く離れた位置にいても圧倒的な存在感を俺たちに見せつけた。サージェスの時より遥かに深い絶望感。あれが神という存在であるという現状を否が応でも押し付けられる。
「がーっはははは!」
ロイアスの高笑いがこれほど遠くにいてもうるさく響いた。なんという声量。それすらも圧倒的。多神教の神々は古今東西いい加減なのが多いと聞くが、まさにそういう印象を受ける神だった。
「妹たちよ!そいつらは俺様のものだ!これ以上戦うことは断じて許さん!抜け駆けはいかんのだ!」
「足止めしてただけなんすけどね」
「いつもどおりのロイアス様です」
リトゥヴァとジュウリの二人は武装を解き、俺たちから距離をとった。
「大丈夫か、ゼフ?」
「生きては、いる……だが、この槍案外深く地面に刺さってるみたいだ。びくともしない」
ロイアスが投擲した槍はゼフを貫いて、穂先を地面にめり込ませていた。相当に長く、重量がある逸品らしく、師匠が抜こうにも少しも動く気配がなかった。
「いや、魔力がかかっている。腕力でどうこうなる代物ではない」
俺の予想ははずれたみたいだ。槍には魔力が込められていて、それはおそらくロイアスのものだ。ただでさえ、リトゥヴァとジュウリに手を焼いているというのに、さらにその二人を上回る者が立ちはだかったわけだ。
近くにつれ、その巨大な体躯に唾を飲む。
三メートルはある。そして、見惚れるほどの筋肉の量。まさに戦うために生まれてきた体と言わしめる完璧な肉体だ。
「おまえ、俺様と同じだな?俺様と同じってことはオヤジと同じってことだ。オヤジと同じってことは神様だってことだ。しかも、つわものの匂いがぷんぷんする。さあ、俺様と戦え!」
「ロイアス様、ジークリットに逃げられました」
「誰だ、それは!そんなものはどうでもいい!目の前の女に比べれば些末なもんだ。ちんちくりんななりをして尋常ではないパワーを秘めているではないか!がーっはははは!たぎるな、これはたぎるぞ!」
一歩、一歩。どしどしと不遜に歩くロイアスは、それが当然と言わしめるカリスマ性を持っていた。たった一人だというのにまるで千の兵士を率いているような圧迫感に襲われる。
しかし、その足がぴたりと止まる。そして、眼光を鋭いものにする。
「なぜエルフがいるのだ?エルフは殺さねばならん。事情によってはおまえらも殺さねばならなくなる。せっかくまともにやりあえそうなやつに会ったのだ。俺様の気分がよくなる返事を聞かせてほしいもんだ」
びっしりと額に汗が浮かぶ。さっきまでの漠然とした恐怖ではない。巨大で明確な殺意に精神が押しつぶされそうになる。
「君の質問に答える代わりに私も君に答えてほしいことがある。交換条件としたいがどうだろう?」
「がーっはははは!少し脅しただけで大抵の野郎はちびるもんだが、おまえは違うらしい。よかろう!なんでも聞くがよい!」
師匠がビビらなかったことに気分をよくして、押し付けられていた殺意が急に消え失せた。俺たちの命がこいつの気分次第で簡単に消し炭になるような感覚にひどく憂鬱になる。マテはもちろん、ヤンやテューンまでもが顔を青ざめさせていた。
「リトゥヴァとジュウリを妹と呼んだが、似ても似つかぬ。本当に妹なのか?」
「……は?」
なんでこんな状況でそんなどうでもいい質問をするのか。いや、もしかしたら俺たちでは到底理解が追いつかない駆け引きが繰り広げられているのかもしれない。
ともかく師匠の場違いな発言に一同首を傾げた。ただ一人を除いて。
「そうだ。二人は血の繋がっていない腹違いの妹なのだ!」
ちょっと意味のわからない発言をロイアスとかいう神からいただくことになった。