襲来
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
俺は自分の考えにかなりの自信を持っている。だけど、それを証明する手段がない。一番可能性として濃厚なのはニャルニの生体召喚による攻撃だ。
しかし、隙が大きすぎるうえに、相手のボロをださせようにも、ちまちました牽制は全て無駄になる。
「リョウタ、今の話確証はあるのか?」
「ないよ。でも、かなり自信がある」
「なんだそれは」
テューンが目を丸くした。
まあ、無理もない。根拠が薄いのは理解している。
「どの道やるしかないな。使う手は限られてるうえにすでに手の内は読まれてるが」
ゼフの戦意はそれでも失われていないようだ。これだけ翻弄されても衰えた様子すらない。心強い限りだ。
「俺の武器は拳だから全然役にたたねえけど、視界の邪魔になるぐれえのことはしてやるぜ!」
リュウガの意気込みは見習わないといけない。こうして思案したはいいが、俺の刀を握る手はそう強いものじゃない。俺一人だったらとっくに折れてた。
「我々も尽力します」
ヤンもまだ諦めてない。ツェーリもだ。
「みなさん健気っすねえ。もうじきロイアス様がお見えになるっす。観念したほうが楽っすよ?」
ひしひしと伝わってくる神の気配。俺でさえ感じ取れるぐらい接近しているということだ。こいつらを倒したあと逃げ切れるかどうかはまた後で考えることだ。だから、今はこいつらを倒すことに専念する。
「じゃ、続きいくっすよ?いやぁ、続きじゃないっすね、正確には」
狙われたのはニャルニだ。彼女がもっともリトゥヴァを倒す可能性を秘めてる。狙われるのは当然だ。
そこにゼフが割って入る。
だけど、リトゥヴァをとめられない。彼女はするりとゼフの守りを抜けてニャルニにたどりつく。
ニャルニはすぐさま反撃にでようとする。しかし、あまりにもリトゥヴァが速すぎた。まるで今までは遊びだったとでも言うような素早さでニャルニの首を掻っ切った。
「そんな……私まだ活躍できてな……」
ニャルニは光の粒子となった。ブリ大根に続き、ニャルニまでも。可能性が次々潰されていく。
「ロイアス様が来るまでに不純物は取り除くっす!」
不純物、師匠と俺たち以外の全員を指し示すものだとすぐに分かった。彼女たちの興味は師匠の不死性に向けられている。
師匠に何かあれば眷属である俺たちもタダじゃ済まない。
いや、今はそんなこと考えてる暇はない。
俺は剣を強く握り直し、リトゥヴァに斬りかかった。
しかし、それよりも早くリトゥヴァに接近した男がいた。ゼフだ。シールドバッシュをリトゥヴァに向けて放ったのだ。
「そんな攻撃無駄っすよ!」
「いや、これでいい」
「へ……?」
『聖気術』、師匠からゼフが受け継いだスキル。光の膜を発生させて強固で広範囲の防御を可能にする。パーティーのバックボーンであるゼフに相応しいスキルだ。
そのスキルが、リトゥヴァを包み込んだ。
「な、なんなんすか、これ!」
「リョウタの考えは正しかったわけだ。そして、どうやらヒットボックスとやらに触れていれば、そいつは体内を移動できないらしい。こいつの急所は俺がおさえてる。右太もも外側だ!そこを狙え!」
「リトゥヴァ!」
姉のジュウリが妹のピンチに声をあげる。
だが、ラルフに抑えられて助けに向かえない。こちらも容赦するつもりはない。みんなが一斉に飛び道具を繰り出す。
正確無比の矢を放つツェーリ。物量で迫るマテ。それで死ななくても、ヤンとテューンとリュウガ、そして、俺が控えている。
勝ちを確信した。
「え……?」
ゼフの胸におおよそ人が扱える代物じゃない巨大な槍が突き刺さった。
投げつけられたそれが飛んできた先に注目が集まった。ゼフの束縛から逃れたリトゥヴァも、悲鳴を上げたジュウリも、そして、俺たちも。
はるか遠くにいるそいつに釘付けだった。