別れ
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
「ジークリット、優先すべきことを忘れるな。君との時間は非常に有意義で名残惜しいが、安全である保障はどこにもない。行くべきだ」
躊躇っていたジークリットは師匠の言葉を耳に行動を開始した。怯えていた女性たちはジークリットが振り向いた瞬間、顔に少しだけ安堵の色を見せた。彼女たちがジークリットに信頼を寄せている証拠だろう。
「行きましょう。必ず私が守ってみせます」
戦いの最中、その後ろ姿を見送ることはできない。
リトゥヴァとジュウリは今まで戦ってきた敵の中でももっとも奇妙なスキルを使う。
攻撃が当たらないリトゥヴァ。そして、ラルフが言うことが本当ならジュウリは真逆の性質をもつ。それはつまり、攻撃を必ず当てられるということ。その一撃をラルフはガードした。
なんにせよ、リトゥヴァの謎を解き明かさないといけない。
「いやー、なんか気に食わないっすねえ。あたいはエルフのことなんてどうでもいいって思ってるっすけど、仲間とか友情とかそういうの虫酸が走るんすよね」
「おまえにも仲間がいるじゃないか」
とテューンが言うとリトゥヴァは反論した。
「ジュウリはあたいの姉さんっすから。ロイアス様はロイアス様っすから。そもそもあんなお堅い石頭、家族じゃなかったら相手もしたくないっすよ」
「相変わらず私を不快にさせることが得意ですね。エルフごと叩き斬りますよ?」
リトゥヴァはけたけたと笑った。こんな調子でいつもおちょくられてるのだろう。
「ところで、姉さん」
「やめてください。姉さんと呼ぶのは決まって私をからかう時でしょう?」
「まあ、そうっすね」
「そこは肯定しないでください」
「こいつらの何人かは不死っすよ。似たオーラがちらほらいるみたいっす。たぶんロイアス様が感じ取った面白そうな気配ってこれじゃないっすか?」
「……ふむ。では、彼ら以外を殺しましょう。覚えのある顔もいますが、今の調子を見ると使い物にはならないみたいですし」
「はあ?てめえら俺らのどこが使い物にならないってぇ?」
こめかみに青筋を立て憤るリュウガ。それを興味がない眼で一瞥し、ため息をつくジュウリ。
「さて、ラルフさん。私のお相手をしてくださるんですよね?がなるだけが取り柄のブタと違うところを見せてください」
「おいおいおい!スルーしたうえに悪口聞こえたよ?俺泣いちゃうよ?」
「……知らないです。こっち見ないでくれません?視線で汚れますから」
「視線で汚れる!?視線で何か汚れんの!?」
「リュウガちょっと黙って!ただでさえ時間との勝負なのに会話で潰すな!」
暴走しだしたリュウガを諌めるニャルニ。
ごもっともです。
今はロイアスがここに来る前にあの二人をなんとかしなければならない。正直全然あの二人を、特にリトゥヴァを倒せるビジョンが思い浮かばないんだけど。