孤高の根、ジュウリ
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
しかし、どうすればいい?
リトゥヴァには物理攻撃どころか魔術すら効果がないように見える。絶対にダメージを受けない。それがリトゥヴァの自信というのなら、それさえへし折ってやれば道は開ける。肝心のその方法がわからないのだからお手上げなんだが。
「さすが異世界のスキルだな。奇天烈このうえない。最初は幻術の類かと疑ったが、なんというか君は……実体がそこにあるにもかかわらず、触れていいモノと触れてはいけないモノとを分別できるわけだ。私こそ君の原理が知りたいね。もしかすると君は、完全には自分を無敵にはできないのでは?」
「……どうしてそう思うっすか?」
師匠の言葉にぴたりとリトゥヴァは動きをとめた。師匠がこんな緊急時にかかわらず、それを一切感じさせない態度なのはいつものことだ。
それよりもリトゥヴァのあの反応。明らかに師匠が核心を突いた質問をしたからに他ならない。
「簡潔に言えば、勘だな。本体は別にいる、という類の敵と何度かやり合ったことがある。そいつらは防御こそするが、それは操っているモノが壊れて動けなくなったり、致命傷を負うことを避けるためだ。君は攻撃の全てを見極め、危険はないと判断してあえて何もしなかったのだろう? 君は君自身の弱点を見抜かれないように演技している」
「アハッ、すごいっすねぇ! あの一瞬だけでそこまで見られてたんすか。油断ならないっすね」
口元は笑っていたが、目は笑っていない。
師匠の勘というのが的中していたのだろう。俺たちにとっては朗報だ。殺せない相手じゃない。だけど、結局どうすればダメージを与えられるというのか。それを探り当てないといけない。
「それならブリちゃんの出番だよ! 高火力広範囲攻撃の強みを活かす時がきた!」
「数うちゃ当たるってのはあんま好きじゃないんだけどな。四の五の言ってる場合じゃないか」
確かにニャルニの言う通りブリ大根の炎火召喚なら敵の全容が把握できていなくても巻き込んでしまえば倒すことができるかもしれない。しかし、大規模な山火事が発生してしまう懸念もあった。それこそ四の五の言ってる場合じゃないのだが、無力な女性たちを抱えている今、彼女たちを守ることを考えたら若干の抵抗があった。
「炎の魔法っすか。それはちょっと厄介っすね」
リトゥヴァがそう言ってブリ大根を指さした。
完全な不意打ちだった。
攻撃する動作は一切なかった。なのに、ブリ大根の胴体は上から下に斬られ、力なく膝をついて地に伏した。その音と風を切る音だけが耳に残った。
「ブリちゃん!」
ニャルニの悲痛な叫びが聞こえる。そっちを向いてる余裕はない。俺たちは一斉に同じ方向を見た。ブリ大根を斬った攻撃の方向に。
そこにはリトゥヴァに似た容姿の女の子がいた。リトゥヴァよりも背は高めで、長い髪をみつあみにしている。茶色の眼に茶色の髪。手には小枝のような細い剣を握っていて、胸に薄い鎧を装着している。まさかあの剣でブリ大根を斬ったというのだろうか。
「リトゥヴァ、どういうわけですか? エルフがいるじゃないですか」
「えー? ロイアス様が来てから言おうと思ったっすよ?」
冷たい声で少女はエルフという単語を口にした。敵意をむき出しにしてツェーリとヤンを睨みつける。そして、溜息をつく。
「お初にお目にかかります。私はジュウリと申します。まずはそちらにいるエルフとの関係について問いただす必要がありますね。ロイアス様からはエルフは全員殲滅せよとのお達しです。返答次第ではご一行ともども死んでいただくことになります」
ジュウリと名乗る少女はそう宣言し、剣を片手で構えた。