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異世界不死者と六人の弟子  作者: かに
第三章 獅子公ロイアスとカントのはぐれ者
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孤高の枝、リトゥヴァ

ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー


リトゥヴァと名乗った少女は軽やかに体を回転させて地面に着地した。

師匠と最初に出会った時、ぽっかりと穴が空いているかのように希薄な存在と比喩としたことを思い出す。リトゥヴァはまるで巨大な虚がそこにあるようなイメージだ。そこにいるのに存在してない。幽霊とでも言うか。だけど、たしかに存在している。


「君の主には非常に好奇心をくすぐられるが、あいにく今は取り込み中でね。後日改めて、というわけにはいかないだろうか?」

「あたいもそうしたいのは山々なんすけど、もう時間が差し迫ってるっすよねぇ。残念なことなんすけど、みんなに残された道はロイアス様に認められるか、死ぬかっすよ?だから、力いっぱい足止めさせてもらうっす!」


両手に短剣を握り、ジークリットに迫る。

師匠じゃなくジークリットを狙った。この先のことを考えると、彼女に怪我を負わせるのは非常にまずい展開だ。意図的にそうしたのなら、リトゥヴァはそれなりに頭がキレるということだ。

そして、なによりの人数差で攻撃を仕掛けてくる胆力。俺たちを舐めているというより、自分の能力に絶対の自信を持っている。

立ちはだかったのはゼフだ。

ゼフがジークリットを守ろうと動いたことに若干の驚きを感じたけど、その思考を余計なものとして即座に排除した。今は戦闘に集中しなければならない。

盾を中心に光の膜が発生し、リトゥヴァの斬撃を防ぐ。少女の攻撃は、今までゼフが防御したものの中でももっとも軽い一撃に見えた。

その手応えのなさにゼフの目が見開く。だが、油断するわけじゃない。その軽さが逆にゼフの警戒心を煽った。


「アハッ、面白いチカラを持ってるっすね!」


楽しげにおしゃべりするリトゥヴァの背後に回り、テューンが魔鉄の剣で袈裟に斬る。非の打ち所がない完璧な斬撃。リトゥヴァを真っ二つに斬り裂くはずだった。


「お強いっすね」


傷一つない。斬られた部分は服すらもその跡を残していない。

続いて放たれたツェーリの矢も、ブリ大根の火炎召喚の魔力が込められた炎も、ニャルニの生体召喚による狼の牙も、そして最後に踏み込んだ精霊の祝福が込められたヤンの斬撃さえも、リトゥヴァの体をすり抜ける。

まるで幻だ。

そして、盾でガードしていたはずのゼフの喉がリトゥヴァの短剣によって掻っ切られる。ゼフは膝をついてぱっくりと開いた喉を押さえた。その隙に、リトゥヴァは俺たちとの距離をとった。


「なっ!?」


テューンが驚愕の声をあげる。他の人たちも声こそ上げなかったけどテューンと同じ気持ちを抱いただろう。俺もその有り得ない出来事に言葉を失った。


「顔を覚えるのは得意っすけど、覚えたままでいるってのは苦手なんすよねぇ。だって、ほとんど死んでしまうっすから。覚えてても仕方ないっすよね?でも、今ので思い出したっす」


リトゥヴァはニャルニ、ブリ大根の二人に笑いかけた。


「不死ってやつっすか?ロイアス様にやられて生き長らえるなんて、それしか考えられないっすね。なかなかそれ、ポイント高いっすよ。どういう原理か詳しく教えてもらえないっすか?」

「御免被る!」


ブリ大根が全力で拒絶する。ニャルニもヘドバンでもする勢いで首を縦に振った。よほどのトラウマになっているみたいだ。

けたけたと笑うリトゥヴァがその表情を消したのは、ゼフがすっと立ち上がり服が血で汚れた以外はすっかり綺麗になっているのを見てからだった。


「こちらも不死っすか。なんだか……なんというか〜……豊作じゃないっすか!」


俺たちに吸血鬼としての不死性がなければ、このままじわじわと数を減らされ、いずれは全滅の可能性もあった。リトゥヴァは底知れない能力を持っているけど、命が危険に晒されてることはないだろう。

しかし、彼女の役割は単なる足止めに過ぎない。このままじりじりと時間を消費してしまえば、やがてロイアスがここにやってくる。それを避けるために、一刻も早い決着をつけなければ。

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