東の森へ
ーーーーーーーーロイアスーーーーーーーー
「もう明日には戻らないと間に合わないっすよ!」
「むう、手ぶらではやつの溜息が気に食わんが、本来の目的を忘れるわけにはいかんな」
俺様もわかっていることをリトゥヴァはわざわざ口にしたが俺様は寛容だから怒らない。そんなことより大事なのはもう何日もうまいもんを食べてないことだ。
あの口の中を満たす筆舌に尽くしがたい豊かな味わいの料理を想像するとヨダレがだばだばと溢れてくる。空腹を我慢しているのだから尚更である。
「ご褒美に見たこともない豪華な食事を100人前用意すると言っておったが、やむを得まい……99人前で我慢してやる、がーっははははは!」
「それほとんど変わりませんよ……」
「ええい!細かいことは気にするな!そんなもんは何の腹の足しにもならんぞ!」
「そうっすよ!ジュウリは真面目すぎるっす!」
「え、えぇ……そうですかぁ?」
俺様がジュウリに怒らないのも俺様が寛大であることの証明なのだ。
「がーっははははは!さあて、ジークリットの気配がするまでまた森林浴である!」
そして、俺様は多忙なのである。
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
篠塚とまともに話さないまま出発の朝を迎えたのは、我ながら臆病な性格をしていると自嘲するところだ。
彼女が地球人じゃなかったとしても、篠塚が篠塚であることには変わらないし、この世界に転移して怯えていた篠塚を守りたいと決めた心に嘘偽りはない。そのはずなのに、事実から目をそらすように俺の足は遠のいた。
「忘れ物はないか?」
よくお母さんが口にしたセリフを師匠の口から聞く。
あの時は煩わしさもあって素っ気ない返事をしたものだけど、思い出すと郷愁に駆られた。
「何を誰の空間収納に入れたか二度チェックした。全て私とジークリットの頭に完璧に入ってる。つまみ食いなどしてみろ?猟奇的な結末が待ってるぞ」
冗談なのか本気なのか、爽やかな笑顔を浮かべてテューンは言った。テューンの怪力と『原子操作』のスキルから壮絶な未来を描くことができる。
まあ、つまみ食いするのなんてラルフぐらいのものだろう。
師匠と俺たちのパーティー、ヤンとツェーリ、リュウガとニャルニとブリ大根、ジークリットと彼女の庇護下にある女性たち。荷物は俺たちの空間収納スキルがあるので最低限の装備だ。ジークリットだけは非常事態に備えて、ある程度の物資をカバンに詰めている。
万が一、俺たちとはぐれる事態になったら対処できなくなるからだ。
「では、いきましょうか」
ジークリットの声に従い、俺たちは盗賊の元アジトから出発し、東の森を目指した。そこで待ち受ける者が俺たちの運命を分かつとも知らず。