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異世界不死者と六人の弟子  作者: かに
第三章 獅子公ロイアスとカントのはぐれ者
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出発のための準備 その1

――――――――マーリン―――――――――


 ジークリットが保護した女性たちは昨日に比べると格段に体調を良くしていた。彼女たちの中でも特に元気な女性が今リーダーシップを発揮している。早朝だというのに、てきぱきとした動きで他の女性たちの身の回りのお世話をしている。

 元々彼女は率先して手伝ってくれていたんだけど、トモエちゃんが治癒魔術を全員にかけてくれたおかげで生活に支障がない程度に回復したのだ。

 恐るべき治癒魔術。

 今まで本格的な治癒魔術を見ることもなければ、あったとしても吸血鬼になる前の、加えて言えばソフィアに師事する前の、トモエちゃんのつたない治癒しか経験がないので、素直に感動を覚えた。

 魔術や錬金術による治療じゃ絶対にこんなお手軽にはいかない。

 というわけで、今は私とツェーリとトモエちゃんで保護した女性たちのお世話をしている。ジークリットとあの三人は明日の準備に専念してもらうことにした。ジークリットもトモエちゃんの治癒魔術には深い感謝を示していた。

 なんと、ほのかに涙ぐんでさえいたのだ!

 

 「ありがとう。心の底から感謝する。正直俺たちも不安があった。なにせ場当たり的に決めたことだからな」

 「申し訳ございません。私のわがままをお聞きくださって」

 「いいんだよ! 正しいことをしてるんだから。一緒に決めたんだ。何かあったら俺たちにも責任がある」


 普段の言動はヘンタイそのものだけど、こういう真面目な会話の時は頼り甲斐のある兄貴分になるリュウガはものすごく違和感があった。それを口にしたら色々とめんどくさそうなので絶対に言わないけど。

 とにかくあの三人とジークリットは短い付き合いながら多大な信頼を互いに寄せている。それが少し羨ましくもあった。私もツェーリとそういう関係でありたい。そうであるか猛烈な不安に掻き立てられる時がある。そこまで考えて、それがどれだけ不毛な思考であるか自分自身を叱りつける。

 それをツェーリに尋ねるなんてもってのほかだ。恥ずかしすぎる。ツェーリはずいずい来るけど、私はああいう風にできない。


 「東の森ってここみたいなところなの?」


 トモエちゃんが尋ねてきた。容態を一通り見終え、一段落したところだ。

 こんな状態であの村から移動してきたのかと驚くぐらい重篤な人もいたけど、その人も今やすっかり顔色が良くなっている。まだ歩くのは覚束ないけれども、明日になれば周りが支援すれば東の森をどうにか抜けられるぐらいには回復するだろう。


 「ここよりは鬱蒼としているかな? 私もあんま詳しくないけどね。道に迷う旅人が多くて魔境なんて言われてるぐらいだよ」

 「えっ、それってかなりのものじゃない?」

 「でも、ジークリットさんが抜け道を知ってるらしいから、あの人が見立てを甘くするなんて想像もつかないし、なんとかなるんじゃないかなぁ? トモエちゃんの治癒魔術がなかったら厳しかったみたいだけど」


 確証はないけど、ロイアスとかいうやつの邪魔立てがなければおそらく問題ないはずだ。私は物事をかなり楽観的に見るキライがある。しかし、今回に限っては人の命がかかってる。口からでまかせを言ってるわけじゃない。まあ、他の人の頑張りに縋ってるという点じゃ同じだけどね。


 「こう言っちゃなんだけど、私ちょっとワクワクしてる」


 機嫌が良さそうな表情を浮かべてツェーリは言った。鼻歌でも歌いそうなぐらいだ。


 「どうして?」

 「知らない場所を旅するの、私の憧れだったから。魔族領って一体どういうところなんだろ。すっごく気になる」


 トリュン王国のダンジョンに向かう際は私のことをガン見しながら不機嫌そうな顔をしていたくせに、熱を上げながらウキウキした声で語るツェーリ。いや、誰だって第一印象最悪の見ず知らずの人と行動するのは気持ちの良いものじゃない。


 「だったら……私たちのパーティーに入ってずっとずっと一緒に冒険すればいいんだよ」


 私は独り言のように自分の本音を打ち明けた。ツェーリと友達のままでいるにはそれが一番いい。責任とか義務とか全部投げ捨てて私のことを選んでくれたらいいのに。でも、それは叶わないことだと知ってる。ツェーリの夢は『世界樹の担い手』になることだから。


 「それは、きっと素敵なことね」

 

 ツェーリは困ったような笑った。はぐらかすような言葉に,私は激しい後悔を覚えた。

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