今後の方針その2
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
「私も異論はない。だが、強いて言うなら、ロイアスというやつにはバッタリ出くわしただけでまだその森にいるとは限らないのではないか?」
その懸念はごもっともだ。師匠の意向には従うが、時間は無駄にしたくない。テューンらしさが滲み出ている質問だ。
「その可能性は充分にございます。しかし、彼は明らかな目的を持ってあの森にいました」
「目的だと? 一体どういう目的があってあの深い森に入る必要があるんだ?」
「私でございます」
「……なんだって?」
ゼフは仏頂面を若干間抜けなものにした。よほどジークリットの言葉が予想外だったんだろう。
「彼はどういうわけか、私が魔族であること、あの森を通って魔族領と人間の領地を行き来していることを知っていました。そして、目が合った瞬間言われたのです」
「『みつけたぞ! がーっははは!』」
勢いよく立ち上がって椅子を倒しながら高笑いするニャルニ。突然のことに、ラルフがびくっと肩を震わせた。不意打ちにとことん弱いところは相変わらずだ。
残りの二人、ブリ大根とリュウガはあまり機嫌の良い顔をしていない。あの高笑いに良い思い出がないようだ。
「おまえ……頭叩き割られたのによくそんな真似できるな……俺ぜってー無理だわ」
「私も恐怖を振り払うのに必死なのだよ、ブリちゃんよぉ」
なにやら不穏な会話に興味がひかれる。
「頭叩き割られたって……そのままの意味で?」
「そのままの意味だよ」
「そのままだ」
「なかなかグロかったよ」
三人が一斉に口にする。その割には冷静なのでますますこちらが混乱するわけだ。
「彼らには私や君たちとは違う不死性がある」
「この世界に転移させられた地点で肉体が完全に復元されるみたいなのですが、私も詳しいことはお聞きしておりません」
「んー、私たちも一回死んだだけだし、検証もしてないからそれ以上のことはわかんないね」
死んでも蘇ることは事前に師匠には知らされていたようだ。しかし、それがどういう原理なのかはジークリットどころかニャルニも他の二名もよく分かっていないらしい。
ゲームのように復活できるというのは想定してなかったとはいえ、確かにここまであり得ない状況が続くなら逆にあり得なくもないか。実際ゲームというのはそういうものだし。エルドリッチの腕がもげたのに何事もなくくっついた時も度肝を抜かされたけど、まさか命の手綱がきれてもくっついてしまうとは、師匠以上に奇天烈な存在だ。
「ちなみに、復活する地点ってのはどのあたりになるんですか?」
「んー、ここから西へ四百キロメートルぐらいの山の麓だね」
「……結構遠いですね」
「そう! だから、戦闘中に死んだら戦線離脱と変わんないんだよねー」
そこが俺たちと違うところか。もし戦闘が起こったらそのあたりを考慮しなければいけない。
「それで……オーステア殿の問いかけにお答えしてない方々はどうなさいます?」
「もちろん付いていくよ。マーリンもそうだよね?」
「え? あ、そうだね」
ジークリットが話を戻すと、ツェーリが即座に答え、続いてマテが頷いた。
ん? マーリン?
確かマテの本名がマーリンだけど、マテはそう呼ばれるのを嫌っている節があったはずだ。それを許すということは相当ツェーリに信頼を置いている証拠だ。そうであってもマーリンと呼ぶことを拒絶するものだと思っていた。
「僕も問題ないですよ」
そして、最後にヤンが答える。これで全員の意見が出揃ったわけだ。少し不安ではあったけど、意見が割れなかったことにほっと胸を撫でおろす。
「やれやれ、こっちがひやっとしたわ! おまえらほんとは仲悪いのかよって思っちまったよ」
俺たちの間に漂っていた微妙な雰囲気に対して、リュウガがでかい声で溜息交じりに感想を漏らした。それに関しては面目ない気持ちでいっぱいである。その原因の一つがジークリットにあることを置いといてもだ。