今後の方針その1
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
こうして見慣れないメンツと見慣れない場所であまり口にしたことのない料理が並んでいると、なんだか全然違うはずなのに修学旅行を思い出した。
ここには、ジークリットの庇護下にある女性たちを除いた全員が集まっている。彼女たちの中には万全じゃないが動ける方もいて、自分たちのことはなるべく自分たちで出来るようになりたいとの主張を受けて、全員で食卓を囲むことが叶った。
「全員で顔を合わせるのはこれが初めてだな。僭越ながら最初の挨拶は私がさせていただく。私はオーステア。姓はない。この世界とは異なる世界で神鳥とも呼ばれた存在を殺し、戦神と謳われたこともある。だが、今の私は全盛期の一割にも満たない力しか発揮できないだろう」
師匠の言葉は主にリュウガ、ニャルニ、ブリ大根の三人に当てられたものだ。
「なぜ今ここでその話を持ち出したのかは私が説明致します。2日後、魔族の土地に向けて我々はここを発ちます。しかし、それには一つだけ懸念すべき事がございます」
ジークリットの言葉は俺たちに向けられたものだ。
その懸念すべき事が何なのか、三人はピンときたようでブリ大根はしかめっ面をし、ニャル二は恐怖を瞳に宿し、リュウガは憮然とした様子で腕を組んだ。
「東の深い森を抜けた先に魔族領に続く道があるのですが、実はその森でとある人物に遭遇した経緯がございまして……」
「その人物の名前はロイアス。この世界に転移させられた神で、聞くところによると今の私よりも強いらしい。それも、足元に及ばないほどだ。おそらくロイアスは完全なる状態で転移した神である可能性が高い。正直なところ、私はそいつに興味を持った。無論、それだけが理由ではないが、私はジークリットと行動を共にするつもりだ。強制はしない。だが、君たちも付いてきてくれると心強い」
それは明らかに俺たちに向けて発した言葉だった。
俺は師匠の傍を離れるなんて想像もしてなかったから、その発言には違和感しかなかった。だけど、必ずしも全員がそうであるという確証がないということを今になって理解した。それはパーティーメンバーの表情を見たがゆえのことだ。篠塚以外は複雑な表情を浮かべている。
「みずくさいなあ、師匠。ついていかないわけがないじゃないですか」
不安を振り払うように俺は自分の意見を口にした。
「私も同じです」
篠塚が俺の意見に同調してくれる。だが、ゼフは黙ったまま、テューンはその様子を伺っている。彼女にしては珍しい。いつも一番か、その次には自分の考えを表明していたのの、今回ばかりは勝手が違うようだ。
「ついていきますよ」
次にラルフが賛同する。こいつは最初からそのつもりだったけど、わざと間を置いた気がしてならない。ラルフの腹黒い部分を間近で体験してしまったからだ。
ゼフはジークリットと一緒に過ごすことに抵抗があるんだろう。ゼフの気持ちがわからない以上、俺にとやかく言う権利はない。復讐したい気持ちなんて一生わからないほうがいい。それはきっと人によっては死ぬことより辛い日々だ。
そのゼフが深い溜息をついた後、
「異論はない。俺もついてく」
と言った時の安堵は計り知れないものがあった。