おいしいご飯が食べたい
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
げっそりとした表情のニャルニと、なにやら満喫してきた様子のリュウガとブリ大根。その後ろにいるのはゼフとテューンだ。
このメンツで何をしにいってたのか疑問が尽きない。
「大丈夫ですか?」
「いやー、血は問題ないけど内臓までいくと、こう……くるものがあるよね」
「貴重な体験だった」
「まあ、そうなんだけど……」
気分を悪そうにしているニャルニとは裏腹に、ホクホク顔のブリ大根が、今にも熱弁を振るいそうなほど興奮していた。
どうやら狩りに出かけていたらしい。急に人数が増えたから備蓄が足りなかったと推測される。解体した獲物はゼフかテューンが空間収納スキルで持ち歩いているのだろう。そういうことなら俺もついていきたかった。何かをしていないと、ラルフの言葉が頭の中をぐるぐる回り始めて、世界が傾いていく感覚に囚われる。俺が篠塚を守ろうとする前提が崩れ去ってしまいそうで。
あくまでそれは憶測に過ぎないし、たとえ事実であっても直面してしまえば実はそれほど大したことのないことなのかもしれない。だけど、今の俺にはただただ怖かった。
「もう日が落ちかかってる。早く支度しないと俺の腹の虫が鳴くぞ」
「おまえの腹のことなんぞ知らんが、早くすることには賛成だ」
棘のある視線と言葉を投げかけて、それでもリュウガの意見に賛同するテューン。彼女がここまであからさまに嫌悪感を示すのは珍しいことだ。一方、リュウガはそのことを物ともせず、むしろ悦んでさえいた。
「俺、女剣士に罵られるシチュエーションとかめちゃくちゃ興奮するんだよなー」
後でリュウガがぽろりとこぼしたその言葉に、場の空気が凍りついたのは言うまでもない。
ーーーーーーーーロイアスーーーーーーーー
「がーっははははは!くっそまずいな、この携帯食とやらは!」
「ロイアス様、口にするとさらに不味くなりますよ」
「それもそうだな!がーっはははははは!」
俺様の名前はロイアス。神様ってのをやってる。っても、父親と母親が神ってだけで俺様にはそんなこと知ったことじゃない。気ままに暴れて、うまいもん食って寝て、また暴れる。
戦と豊穣の神とか言われてるが俺様自身どこにそんな要素があるのか見当もつかない。
というわけで、この携帯食とやらがとにかく不味い。これを俺様に持たせた不届き者どもを今からでもぶん殴りに戻りたいぐらいだ。
ちなみに、これを持たせたやつは初対面でいきなり、「なんか頭空っぽそうなやつが出てきた」とか抜かしたが、俺様は寛容だからそいつの部下をボコるだけで許してやった。本当はそいつを泣くまで殴りたかったが、そいつのために身を呈した部下の心意気を讃えた結果そうなった。心が広い俺様はそれだけで許してやったわけだ。
だが、厄介なことにそいつがまたものすげえうまい料理を俺に提供してくれる。俺の胃袋はすっかり掴まれてしまったわけだ。
「さっさとジークリットを捕獲してまたあのヨダレがだだもれる料理にありつきたいもんだ」
「ロイアスさまぁ、前みたいに調子にのって殺しちゃったらダメっすよぉ」
さっきから隣でうるさいこいつらは、頭がかたそうなのがジュウリ、頭が軽そうなのがリトゥヴァという。
「おう、あいつらもそれなりに強かったな。だが、あの程度で死ぬんだったら連れて行くだけ無駄だ。ジークリットもな」
俺様は不本意ながら胃袋を人質にされ、よくわからん森の中で全身黒ずくめの女と追いかけっこをしている。それがもう何日も続いてる。初日に見かけて以来一度も出くわさない。正直もうこの森にはいないんじゃないかとリトゥヴァとジュウリに何度も言われ続けている。
しかし、俺に不可能はないと豪語した手前、手ぶらで帰るのは俺様のプライドが許さない。
「俺はなんとしてもご褒美というものをもらうためにジークリットを見つけねばならん!そして、俺様の胃袋を腹一杯に満たすのだ!がーっはははははは!」