ゼフの胸中
ーーーーーーーーゼフーーーーーーーー
テューンは人を使うのが上手な子供だった。自分のワガママを押し通すためならどんなこともやった。といっても、子供ながらの残酷さで、今にしてみればささやかなものだ。
子供の頃から性分はなかなか変わらないとよく故郷で耳にしたが、テューンはとある冒険者と出会ってから劇的に変わったように見えた。故郷ではテューンを褒める人もいたが、一番付き合いの長い俺はそうじゃなかった。
大きな目標を得て、腐った性根が鳴りを潜めただけだ。どうせすぐに本性をだす。
そうなったところで、テューンは同郷で腐れ縁であることには変わらない。ただ呆れるだけで縁を切るようなことはしない。そういうつもりでいたから、冒険者になるため一緒に村を出たテューンとの約束を平気で破って、居心地の良かった傭兵ギルドの連中とつるんでいた。
だから、部下が全員死んで無気力になった俺のもとに押し入ってきたテューンを、最初は快く思ってなかった。こいつはこんな時でさえ自分のことばかり考えてるのかと怒りすら覚えた。
追い払おうとした時、たまたま辛そうにしているテューンの顔が見えた。
人の心に踏み入ってくる怒りから、そして単なる八つ当たりで、目に焼き付いたそれを振り払うこともできた。だけど、その顔は結局俺の心に残ったままだった。
こいつはこいつなりに苦労しているのかもしれない。ああいう性格だから仲間とうまくやれなかったのかも。そんなことを考えているうちに、結局俺のことを諦めなかったテューンに連れられ、俺は冒険者の道を歩むことにした。
「なんだか……」
「ん?」
「おまえにはなんだかんだ助けられてきたんだなって」
「は? き、急にそんなこと言うな!」
俺からそんなセリフを耳にするとは思ってもみなかったのか、顔を赤く染めて俺からテューンは目を逸らした。昔からの付き合いだが、テューンのそんな顔を見るのは初めてな気がする。
本当に……本当に、彼女が心の支えになってくれるなんてこと思ってもみなかった。さっきにしても、あの場から飛び出した俺を追いかけて傍にいてくれた。変なお説教か、どうでもいい講釈でも垂れるつもりなのかと思いきや、何も言わずに近くにいてくれた。もやもやした気持ちはそれで少しは晴れた。
ジークリットは殺せない。邪魔な要素が多すぎる。そして、それは俺には手に負えないぐらい大きな渦を纏っている。やつはただの庶民の味方じゃない。魔族の王様に仕える重要な人物で、ドロテアとの繋がりもあり、そしてその二人とは違う世界の見方をしている。単なる迷信でしかなかった魔族の存在が、現実となって次々と浮き彫りになる。慎重さを欠くことはできない。
再び燃え上がった復讐心を抑え込めたのは、仲間の存在が大きかった。あいつらのためによりよい未来を選択しなければならなかった。
フーゴ、ヨハン、ルーカス、アルフレッド、ブルーノ、すまない。そして、レベッカ……ごめんな。
かつての部下たちの名前と顔を思い浮かべる。復讐を果たすことは叶わなかった。それを、本当の意味で納得するにはまだ時間がかかる。
「あれー! お邪魔しちゃった?」
突然現れたのはニャルニだった。ものすごい勢いで曲がり角を速度を落とさず曲がりきる。その先にいた俺たちに気付いて急ブレーキをかけたようだ。
「いや……何か用か?」
「いえいえ、ただ通りがかっただけですよっと。ジークちゃんのとこにいたんだけど、夕食が備蓄してた食べ物だけじゃ足りないって気づいて今から狩りにでるとこ!」
「狩り? もう日が沈むぞ」
「平気へーき。あ、でも、獲物の締め方っていうの? 解体とか血抜きとか。そういうの全然やったことないから暇なら手伝ってくれると助かるかも。料理には覚えがあるんだけどね」
「別に……いいが」
テューンは若干不満そうな顔をする。だけど、協力することについては吝かではないらしい。ここで断るのもどうかと俺もついていくことにした。