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異世界不死者と六人の弟子  作者: かに
第三章 獅子公ロイアスとカントのはぐれ者
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とある疑惑、揺らぐ想い

――――――――佐倉涼太――――――――


 「自分を顧みようとすることは良いことだよ。満足できたことより後悔したことのほうが多い俺が言うのも説得力に欠けるけどね。リョウタがトモエとの関係について誠実であろうとするなら、今はつらくても正しい答えを得られる時がくる。俺が出来ることなんて限られてるし、結局最後は自分で考えるしかないけど、頼ってくれてもいいんだよ?」


 最後らへんは気恥ずかしそうにラルフが言う。ラルフからそういうセリフが聞けたことは意外だった。彼は事あるごとにふざけた態度をとって、煙に巻いたり話を本筋から逸らそうとする傾向があった。簡単に言えば、誠実さからは程遠い人間だった。

 ゼフとは対照的で、何度かヒヤヒヤとさせられたものだ。


 「僕もリョウタの境遇に共感……ですかね。親しみを感じてるので、力になれることがあれば一助になりますよ。まあ、僕の場合ツェーリのほうがやんちゃなのでどっちが守られる側なのか怪しいですけど」

 「なんて言うか……二人ともありがとう」


 成り行きで悩みを打ち明けたわけだけど、二人の温かさに少しだけ涙腺が緩んだ。

 そのあとすぐにラルフによって複雑な心境にさせられるとはつゆともしらずに。いや、複雑なんてもんじゃない。俺の悩みなんて些末なことに過ぎない爆弾発言を投下してくれたのだ。


 「リョウタ……かなり悪いタイミングかもしれないし、もしかしたら絶妙なのかもしれない。人の感情の機微に疎い俺には、いきなり空気を読むってのはレベルが高すぎる」

 「なに?どゆこと?」

 「トモエのことで言っておかなければならないことがある」


 篠塚のことで?ラルフは一旦俺たちと離れてエルドリッチの下に身を置いていた。篠塚と何か特別な絡みがあったなんてことはありえないはずだ。


 「俺は師匠の弟子であると同時に、トリュンの騎士という立場もある。今からする発言は後者の立場からさせてもらうよ。だから、不快にさせてしまったらすまない」

 「……よくわからないけど分かった」


 正直唐突過ぎて受け身をとれる自信がない。だけど、これだけ前置きを並べられて、やっぱ聞きたくない、とも切り出しにくい。どんなことであれ、精一杯受け止める覚悟をなるべくする努力をした。


 「ソフィアがトモエに治癒魔術のノウハウを叩き込んだのは、純粋に彼女の庇護欲が掻き立てられたからでもある。だけど、大前提としてもう一つ理由があるんだよ。フリージアがそうソフィアに指示した。トモエのもつ治癒魔術が本当にこの世界の、正真正銘の治癒魔術であるかを調査するためにね」

 「意味がわからない。それを調べてフリージアはどうするつもりなんだ?」

 「リョウタ、この世界の人間は異世界人の超常的能力を身につけることができない。ゲルシュで錬金術が発展したのは、異世界の文明をこちらに応用できたからだ。そして、逆に言えば……異世界人はこの世界のスキルを覚えることができないんだよ」

 「待って……俺も多少魔術を使えた、師匠の眷属になる前に!」


 なにを否定したいのか、俺の心臓は早鐘を打った。ラルフの言葉がタチの悪い冗談だと信じたかった。導き出される結論に到達しまいと矛盾を懸命に探した。


 「魔力のない世界から飛ばされた異世界人が本来備わってないはずの力を獲得するのは珍しくない話らしい。フリージアいわく、度々観測されている、と。だけど、それはこの世界の魔術や治癒魔術とは似て非なるものだとも言ってた。その個人が潜在的に持っていた能力が表にでただけで、その力も大抵は微弱なものらしい。俺もゼフも、みんな知らなかったんだよ。そういうものなんだって」

 「……そんなの、フリージアの話を鵜呑みにしただけの話じゃん」

 「そうだね。そのとおりだ」


 すんなりとラルフは俺の反論を受け入れた。なんだか肩透かしをくらった気分になる。


 「でも、トモエと本気で向き合うつもりなら、その可能性について避けることはできないよね?」

 「……」


 俺は答えられなかった。ラルフの言ってることは正しい。さっきとは打って変わって、温度を感じない言葉が俺の胸に刺さった。


 「これはあくまでフリージアの見解だし、どう解釈するかはリョウタ次第だからね。トモエが何者であろうと同じパーティーの仲間として俺は態度を変えるつもりはない。彼女はリョウタと同じ日本人ではなく、この世界の人間であること。そして、転移した時期を考えたら彼女は召喚士としてこの世界に呼び戻された可能性がある」


 それが意味するところとは、俺は篠塚の巻き添えでこの世界にやってきたということ。そして、俺がここで話したことの前提が崩壊するということ。簡単に認められない。認められるはずがなかった。

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