涼太の心境
――――――――佐倉涼太――――――――
違う異世界から来たという事実に対しての認識が甘かったせいもある。まさか生態系自体が違うのは考えもしなかった。彼らは母親の腹の中から生まれるのではなく、生命の営みが全て世界樹によって完結させられているのだ。
まあ、それはそれだ。彼らと協力関係にあるのは変わらない。ただ、どう反応するのが正しいのか分からなかっただけだ。
「それでも、相手に向ける感情には違いがあるんだろ?相方がツェーリじゃなかったらそこまでのこと言えた?」
「それは……」
ラルフの問いに言い淀むヤン。
「そうかもしれませんね。でも、本当にそれがどういうことなのか分からないんです。僕がツェーリをそういう意味で好きだったとしてもそうでなかったとしても、これからもずっと一緒にいるわけだからそこに何か変化があるんでしょうか?」
「……うーん、童貞だからわからない」
「俺も童貞だからなあ」
じゃあ三人とも童貞だ。
知りたくもない事実を知ってしまった。なんという非生産的な会話なんだ。これじゃ建設的な意見は見込めない。誰も見当違いであるかも理解できないんだから。
「そもそもなぜそんな話題を?」
「あー、ヤンともっと仲良くなりたかったってのと」
「リョウタの直球でそういうこと言えるとこすげーと思う」
なんか知らんけどラルフに褒められた。まあ、たしかにラルフは大分マシになってはいるけど、コミュ症のイメージがまだ拭えない。もしかしたら、自分の感情を直接口にすることに抵抗があるのかもしれない。
「それと、お酒を飲んでた時に言われたことが気になってた」
「僕なにか不味いこと言いました……? 正直なところ全く記憶にないんですよね。というか、全く記憶がないというか」
「俺と篠塚との関係に口出しされたよ」
「……あー、そんなことを」
申し訳なさそうにヤンは体を縮こまらせた。
「いや、図星だったし、いつか解決しないといけない問題だったから、むしろ言ってくれてよかったと思ってるよ。間違ってると気づいていてもそうせざるを得なかったというか……その問題を避けてた」
「その問題というと……差し支えなければ教えてくれないか、リョウタ?」
興味津々な顔つきでラルフが尋ねてきた。少し恥ずかしくもあったけど、ラルフを巻き込んで会話を進めたこともあるので素直に話すことにした。
「俺が篠塚を守りたい理由は、篠塚が唯一元いた世界に俺が存在していた証明だから。この世界に来たときは、こんな訳のわからない世界に飛ばされて、家に帰れなくて家族に会えなくて……なんとしても地球に戻りたかった。篠塚に恋心を寄せていたこともあったけど、俺にはそれを意識している余裕がなかった。自分勝手で独りよがりな自己犠牲だ。でも、止められなかった。友達も家族も見慣れた光景の一つさえない世界で、自分がその日常の中にいたと確認できるものが、妄想なんかじゃないって昔の自分を知ってる人がいることが、あの時の俺の唯一の救いだった。段々と罪悪感が膨らんでいく感じがした。師匠から力をもらった後も、むしろ段々と酷くなってく感じがする。能力は覚醒したはずなのに、その原動力となった根幹が揺らいでる。色んなことが重なって……あー、ここまで言うつもりなかったんだけどなあ」
いざ自分の心境を口にすると、心の奥に沈んでいた感情がふつふつと湧きだしてきた。抑えようにも抑えきれず、口早に飛び出した言葉に後悔がよぎった。