男三人何気ない会話の中で
――――――――佐藤涼太――――――――
ヤンとラルフを連れて適当な部屋で腰を下ろす。
盗賊団のアジトは結構な大所帯だったらしく、あの三人組とジークリット、そして十数名の……おそらく奴隷だった少女たちだけじゃ持てあます広さを有していた。天然の要塞であるにも関わらずかなり立派な造りをしているところからも相当な組織力があったことを想像させる。
「半ば予想していたとはいえ、不思議な感じだね。ゼフの復讐相手と一時的に屋根を共にする流れになるなんて」
ラルフの言う通り、レナート卿からの情報提供からもそういう懸念はあった。
傭兵ギルドはギルドメンバーを守るために依頼の内容を厳密に精査する必要がある。胡散臭い依頼人や、きな臭い内容に対して構成員を差し出すわけにはいかないからだ。にもかかわらず、傭兵ギルドは魔族を見世物にしようと企てる商人の護衛依頼を受諾し、ゼフの部隊が火の海に投げ込まれた。
確かに傭兵ギルドにも落ち度があるけど、元凶をジークリットが殺した今、ゼフの復讐はやり場のないものになってしまった。もちろん、そんなことどうでもいいというなら、ジークリットを殺せばそれで済む話だ。実際何割かは頭の中でそのルートを描いていたかもしれない。でも、そうはならなかった。
「ままならないなぁ……」
ままならないと言えば、ヤンの指摘に対してまだ何もアクションを起こせていない。酔った勢いで口走っただけで本人は覚えているかも怪しい。だけど、俺の胸にはしっかりとこびりついてる。
「何か悩み事でもあるんですか?」
「え?」
「いえ、ちらちらと僕のほうを見てたので、何か言いたいことがあるのかと思いまして」
無意識だけどヤンのことを見ていたらしい。まあ、気になっていないと言えば嘘になる。変な意味じゃない。ツェーリのインパクトが強すぎて、正直ヤンは影が薄い。あんなことを言われてからヤンがどんな人物か知りたい気持ちが芽生えた。
「ヤンってさ、ツェーリはやりたいようにやってる感じがするけど、なんか目標というか目的というか、個人的なことであったりする?」
「個人的、ですか……」
何気ない質問だったけど、ヤンは随分考え込むような仕草を見せた。
「僕はツェーリが楽しいならそれでいいと思ってます」
「それは……」
主体性がないというかなんというか。
しばらく行動を共にしていたけど、ヤンはどこか一歩引いたような発言や行動がある。ツェーリと違ってまだこの世界に対して身構えてるのかもしれない。この世界に対して親近感をもつことを自制している。それか、本当に自分というものがないか。
「ツェーリみたいに誰かと仲良くなろうとか、そういう些細なこともない?」
「考えてもみませんでしたね。ツェーリと違って僕はこの世界に飛ばされた時、怖かったんです。他の仲間たちに会えるなら嬉しかった。だけど、目の前に広がってたのは何も知らない世界。正直足がすくんじゃって、一歩も動けませんでした。その時、ツェーリが手を引っ張ってくれたんです。僕に勇気を与えてくれたんです。だから、僕はツェーリがこの世界で悲しむことがないように見守ってあげたい。それが僕の願いです」
それって、恋してるんじゃ……。
「ツェーリのことが好きなんだね」
ラルフさん直球すぎない?
「好き、ですか?」
「もちろん、恋愛対象として」
「それはつまり、結婚や交尾を行う相手ということですよね?」
「こここ、こうび!?」
童貞がバレてしまう動揺具合を晒してしまう。イケメンでありながら同類でありそうなラルフは動じた素振りを見せない。エルドリッチに色街に強制的に連行されて卒業済みなのだろうか。
「長い目で見るとそうだね」
「……僕たちにはそういうものが存在しません。肉体も魂も、死ねば世界樹に還るんです。そして、世界樹によってまた新たな命が生まれます。だから、僕たちにはそういう感情は必要ないんです」
結構衝撃的な告白に俺は言葉を詰まらせた。