ジークリットのアジトへ
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
ラフィカ改めラルフの活躍は鮮烈だった。
いつもどこかトボけた感じで真面目なのかどうか分からない彼は綺麗さっぱり消失していた。敵の策を看破し、外堀を埋めてジリジリとにじり寄る様は喉を唸らせた。
少しだけ妬けてしまう。
地力は間違いなくパーティーの中でトップだったが、頼り甲斐がなさそうなイメージを完全に払拭したのだ。血の覚醒だけじゃない。ラルフの意識すら覚醒していると言える。
俺たちは十日と離れていない。そんな短期間で一体エルドリッチとの間に何があったっていうんだ?
「なかなか肝が冷えたぞ、ラルフ」
「そうですか?割と余裕を持って制圧できたと思うんですけど」
手をロープで縛り、ブリ大根とニャルニを先頭に歩かせながら足を進める。そんな中、師匠が安堵の色を滲ませてラルフの無事を喜んだ。
心配をかけさせたことにラルフは微妙な顔をする。手際よくやれたはずなのに師匠の反応が芳しくない。俺だって不安になるだろう。
「あの黒い炎、下手をすると私の不死性を貫いたかもしれん。全ての力を取り戻せたら相手するほどのものでもないが、今の私や君たちだったら……危なかっただろうな」
その発言にギョッとしたのは、ラルフだけではなく、ブリ大根やニャルニもだった。
どうやら彼らは俺たちが不死であることを知った上で、普通の人なら即死する攻撃をしたらしい。加えて、エルドリッチにも言えたことだけど、彼らは自分自身について不明瞭な点が多々ある。普通の生活を送っていた日本人がいきなり行き過ぎた力を得てしまったのだから仕方ないことなんだろう。だけど、それがあまりにも危うい。
「そ……そうだと思ってました」
めっちゃ上ずった声でラルフが得意げに言う。説得力が皆無である。
「俺も必ず避けてくれると思ってた」
ブリ大根も便乗して何やらほざいてる。ニャルニが信じられないものを見る目つきでブリ大根を見ている。
お互い通じ合うものがあったのか、ラルフとブリ大根は目を合わせて引きつった笑みを浮かべた。意外なところで友情が生まれたわけだ。
「おいおいおいおいおい!なんじゃい、その有様はぁ!」
やけにノリノリの頭に響く大声とともにそいつは現れた。浅黒い肌に金髪。隆々とした筋肉を誇示したポージングをとってる。あまりにも隙だらけで、むしろこちらが躊躇してしまうほど堂々としていた。
「オレサマァ!の名前は……」
「バカ!ふざけてる場合か!私たち捕まってるんだけど?」
「あ?ロールプレイは大事だぞ?フン!」
「鼻息漏らす度にポーズ変えるのやめろ!自己主張が激しいのはロールプレイじゃないぞ、バカ!」
「ええい!お前ら二人してバカバカ言うんじゃないよ!バカって言ったほうがバカなんだからな!」
子供の喧嘩を見てる気分になった。
ちなみに俺たちの目の前には岩壁で作られた天然の要塞の入り口がある。どうやらここをジークリットは根城にしているようだ。仲間らしき奴が立ちふさがってきたのもそのせいだ。
「しかし、どうやってここを突き止めたんだ?かなり大規模な盗賊集団のアジトを皆殺しにして奪った場所だぞ。あの村からも相当離れていたはず」
距離にして大体三時間の道のりだった。しかも、慎重に行動したとはいえ吸血鬼の足を使っての移動だ。ここはもうゲルシュの国境付近、もしくはゲルシュ国内に入ったと見ていいだろう。
「たぶんステータスから察するに、エルフさんのほうに仲間の位置を知る能力があるのかと」
推測だが的を射ているニャルニの意見に、彼らのステータスを表示できるデフォルトの能力の評価を、さらに一段階あげる必要性を感じた。事前に敵の情報をそこまで収集できるというのはやはりそれだけで脅威である。
「まあ、それはいいけど。俺たちはあんたらと敵対する気はねえ。だけど、ゼフとやらがジークに危害を加える気でいるなら話は別だ!」
「あんたらなんでそんなにジークリットに加担するんだ?あんたらだって会って間もない相手のはずだ」
「それはな……俺らがジークの親衛隊だからだ!」
そうだそうだ、と拘束されてる外野二名が相槌を打つ。
だめだ、話が噛み合わない。本当に同じ日本人なのかと頭を抱えたくなる。まったくもって理路整然としてなかった。
「しかしだ。その二人はジークを守ろうとあんたらに挑んだわけだが……俺はジークの意思を尊重する。あんたらを案内するよ、ジークに会わせてやる」
「そんな!リュウガ!この裏切り者!はげ!」
「裏切ってねーし、ハゲじゃねえよ!」
ハゲの部分だけ語気が強かった。気にしてるのだろうか?
なんにせよ、ニャルニとブリ大根は落胆しながらリュウガに罵声を浴びせているが、リュウガはアジトに俺たちを受け入れるつもりがあるようだ。そして、それはジークリットがゼフと対面することを望んでいるということに他ならない。
ジークリットの名を聞いてからほとんど表情を露わにしなかったゼフからは、今も感情を読み取ることができない。
傭兵時代の仲間はゼフにとってどれほどの存在なのだろう。彼にとって初めての部下であったことを差し引いても、並大抵のものじゃないことは確かだ。