不可避の攻撃
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
先陣を切ったのは、すでに地面に降り立っているブリちゃんじゃなく、枝から飛翔した和装束の少女だ。
「申し遅れたニャン。私はニャルニだニャン。よろしくだニャン!」
態勢を転換できない空中からの襲撃。武器を何ももたずに一直線に向かってくる。普通なら悪手だ。
だけど、俺たちは知っている。この二人と同じ出自をもつエルドリッチが、魔力をもつ剣をいくつも召喚することを。
前にでたゼフに抜かりはない。いかなる攻撃も防ぎ切る気概で挑む。だけど、ニャルニの召喚したものが予想を遥かに上回った。
それは巨大な、見上げる高さのクマだった。
それがゼフの上にのしかかる。突然の質量による攻撃にスキルを使う暇もなく圧殺される。初見殺しもいいとこだ。
「私の特性は『生体召喚』だニャン。タイマンは最弱だけど、条件が揃えば誰も手が出せない凶暴性を秘めてるニャン!」
「なあ、そろそろニャンニャン言うのやめね?俺うすら寒くなってきた」
「ブリちゃんこのタイミングでそれ言う!?」
ふざけた奴らだけどやはり侮れない。師匠の血の恩恵を受けている以上ゼフに命の危険はないにしろ、あの寝そべっているクマの下でもがき苦しんでるなら直ちに助けなきゃいけない。
「わかってると思うが、あんなとぼけた奴らでもサージェスの崇める神や、世界樹の守り手であるヤンたちと同列の存在である可能性が極めて高い。信じがたいがな」
「師匠、俺一人にやらせてもらえませんか?」
そう切り出したのはラフィカだ。
以前の彼は実力はあるものの相当に適当で無責任な人物という印象を抱いていた。だけど、エルドリッチと過ごす日々の中で何かしらの心変わりがあったんだろう。消極的で自己主張せず、冗談を言う時だけは饒舌。そんな彼を微塵も感じさせない戦士の姿がそこにあった。
「一人で本当に大丈夫なのか?」
「安心していい、リョウタ。ラフィカはすでに覚醒している」
師匠の衝撃の発言に息をするのも忘れてしまった。
ラフィカが覚醒しているだって? そんな大事な情報、先に言ってほしかった。
ゼフは『聖気術』、聖なるオーラを膜のように身に纏って攻撃を防ぐ障壁となったり、押し出して敵にぶつけたりできる防御よりのスキル。テューンは『原子操作』、残念ながら師匠の技量でさえ鉄しか自在に操ることができない下手をすれば産廃になりえたスキルだが、『魔鉄錬成』との相性は絶妙で魔鉄を液体のように操り、さらに切れ味を上げることもできる攻撃型のスキルだ。そして、俺は『竜体化』のスキルを持つ。竜のもつ特性を身に宿すことができるんだけど、俺はまだ未熟でその力の半分も引き出すことができていない。
四人目であるラフィカは一体どんなスキルを得たというんだろう。
「それと、みんな揃ってから言うつもりだったことがある。俺はラフィカという名前を捨てる。ラルフ・カールソン。それが俺の名前だ」
一度耳にしたことのあるラフィカの本名だ。自分の家柄も経歴も全て投げ捨てた彼がそれらと一緒に捨てたもの。それをラフィカはもう一度拾い上げた。その名前を名乗るということの重みを、彼自身の言葉や表情から汲み取ることができた。