緊張感のない二人
ーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
犬耳をつけた男は紺のコートに身を包み、首には白のファーでできたマフラーを巻いている。
猫耳をつけた少女が着ているのは和装束を動きやすいように改良した白とピンクの服だ。無駄に肌を露出しているので目のやり場に非常に困る。特に太もも。というか、和服は個人的に肌を見せないほうが好みなのでどうかと思った。
今はそういう話をしてる場合じゃない。
「おまえら何が目的なんだ?」
「ゼフって人をジークちゃんに会わせるわけにはいかないんだニャン」
……ニャン?
やはりさっきのは聞き間違いじゃなかったみたいだ。語尾にまたそんなチープなものをつけるとは、もしや中身はかなり年を取ってるのでは。彼らはゲームのキャラクターの外見をしているが、中身の年齢はまったく別だ。推測するだけ無駄なんだけど、どうにも勘繰ってしまう。
「……俺がゼフだ。ジークリットと会うのがどう不味いのか、白状してもらおうか」
「……あの人の顔怖すぎるニャン。ブリちゃん、代わりに説明するニャン」
「たしかにあれは……ものすごいな」
失礼だぞ、あんたら。
ブリちゃんと呼ばれた男が木の上、太い枝から飛び降りて咳ばらいをした。
「まずは名乗らせてもらう。俺の名前は、『水を得たブリ大根』だ。よろしくな」
「……ブリ大根が水を得たら何かあるんですかね?」
「そんなことはどうでもいい。適当につけたキャラ名に口だしするな! 人の痛いとこ突くなんておまえ最低だな。そのへんの犬のほうが俺に優しいぞ。さてはおまえクズだな?」
俺の純粋な質問が逆ギレで返される。というか、なんでそこまで言われないといけないのか。散々な言われようだ。
「ちょっと待って、ブリちゃん。あれ……日本人だよ!?」
「え? あ? はぁ? んなわけあるかよ……ほんとだ! ステータスに日本人って書いてある!」
「どどどどどどどうしよう! 不測の事態だよ! 私たち以外で日本から転移した人間がいるなんて! しかも、生身の状態で!」
「お、おち、お、落ち着け! あわ、あわわわわ、あわ、慌てたところで事態はよくなるわけじゃないぞ!」
動揺しすぎて舌が回らない二人。慌てるな、と言ってる男のほうが慌てている。女の子のほうも語尾にニャンをつけ忘れている。エルドリッチはそれほど俺と篠塚が日本人であることに過剰な反応は示さなかった。目をかけてくれているのは確かだけど。だからこそ、二人の反応が大袈裟に映ってしまったのかもしれない。
「ここに日本人がいる。それは重大なことだ。だけど、俺たちの目的はなんだ?」
「……ジークリットにゼフを近づかせないことニャン!」
「だったらやることは変わらん! どうやってこいつらが俺たちの後をつけてきたのかは知らんがここを通すわけにはいかんのですよ! さあ、武器をとれ! 俺たちが相手だ!」
「はあ、結局こうなっちゃうわけ?」
この二人のテンポに調子を崩されがちだ。戦いに勝つことができたら少しは大人しくしてくれることを期待して俺は武器を取った。