救いの光
明日は夏休み最後の日。つまり、赤い月の日だ。
明日また、私の中のウァンパイアの力が目覚める。
怖い・・・
それしか考えられない。
でも、明日が終わったら学校が始まってしまう。こんな状態じゃ、学校なんて行けるわけがない。
だから、これは最後のチャンスだ。私が暗い世界から抜け出すための。
夕方、私は友達にメールを送っていた。ずっと携帯を触っていなかったから、あれ以来メールが溜まっていた。
私は当たり障りのないことを連ねていたが、また明日、という言葉を打つことはできなかった。
それに、亮介にメールを送ることもできなかった。亮介には何を打ったらいいのかわからなかった。
ひたすらに、携帯とにらめっこする。
亮介だけは私に毎日連絡をくれていた。
だから、ほかの友達と同じような文面は送れない。それでなくても、亮介をみんなと同じようには扱えない。
そんなとき、亮介からメールが来た。今、家ノ前にいるというものだった。それにももちろん驚いたが、何より次に来たメールが衝撃だった。
それはたった一行。
『会いたい』
そう書かれていた。
私は何が何だかわからず、フリーズしてしまった。
そして、私の中の何かが重たくなってしまった体を動かした。
私は勢いよく部屋のカーテンを開けた。久しぶりに日の光を浴びて思わず目を細める。
私は太陽から目を逸らすように下を見た。そこには亮介が立っていた。
亮介もこちらに気づいたようで、顔をあげていた。
誰かと顔を合わせたのは久しぶりだと思った。それと同時に、恐怖が心を支配した。その瞬間、私はカーテンを閉めてしまった。
また携帯が鳴った。今度はメールではなく、電話だった。もちろん相手は亮介だ。
私はしばらく携帯を見つめていたが、思いきって電話に出た。
「・・・もしもし」
「よぉ、聖。久しぶりだな」
亮介の声。久しぶりに聞いた。安心する声、私の大好きな声だ。
私は目に涙を溜めていた。
「どうしたんだ?この間の登校日も休んで、部屋に閉じ籠ってよ。何かあったんなら言えよ。話くらい聞けるしよ」
亮介の言葉に、私は何も答える言葉が思いつかなかった。
しばらくの沈黙のあと、亮介は言った。
「ま、どうしても話せないなら無理に話さなくてもいいけどよ。明日は学校来れるのか?何があったかは知らないけど、俺は聖の味方だからな」
味方、という言葉に私は反応した。
「味方・・・?」
「あぁ。俺はどんなときでも聖の味方だよ」
亮介は力強く言った。
「ありがとう・・・でも、ごめんね。私、亮介のことはいつだって信じてるけど、今回ばかりは信じられないの。亮介だけじゃなく、ほかの誰であっても」
私の言葉に、亮介は少々驚いたようだった。
「そうか。でもそれでもいいよ。お前に信じてもらえるように、俺が頑張るから」
今度は私が亮介の言葉に驚かされた。
まさかそんな風に返されるとは思ってなかった。
「どうして・・・?どうしてそこまで・・・」
「さっきも言っただろ?俺は聖の味方だって。俺は聖の味方でいたいんだよ。そのためには、お前に信じてもらわなくちゃいけないだろ?それに────・・・」
亮介は躊躇うように続けた。
「俺は聖のことが好きだから」
突然の亮介からの告白に、私は何て答えたらいいのかわからなかった。
だけど、すぐにウァンパイアのことが頭を過って、私も好きだとは言えなかった。それどころか、否定的な言葉がたくさん出てきた。
「ごめん、なさい。きっと、本当の私を知ったら亮介でも離れていくと思う・・・私は亮介と付き合えない。付き合っちゃいけない・・・!私は亮介たちを信じられないんじゃない。私自身を信じられないの!今までどうやって過ごしてきたのか、わからないの・・・!私は私のことがわからない・・・!もう何が何だかわからなくてこわいの・・・っ!」
泣きながら感情のままに言葉を放ったから、何をいっているのかよくわからなかったかもしれない。
でも、ありったけの私の想いをぶつけることができた。
だけど、スッキリするはずがない。
亮介にこんな八つ当たりみないなことして、最低だ。亮介は何も悪くないのに。
自分を責めていたときだった。
「大丈夫だよ」
亮介がそう言った。それはお母さん言った言葉だ。
「そう言う時期ってきっと、誰だって少しはあるさ。俺は気にしないよ」
亮介は続けて言った。
私は亮介が何を言っているのかわからなかった。
「何言ってるの・・・?っていうか、私のはそんな単純な話じゃない。私は────・・・!」
思わず、ウァンパイアハーフだということを言ってしまいそうになり、慌てて口を閉じる。
「じゃあ話してくれよ。何もかもを。どんな話だったとしても、俺は聖から離れたりしないから」
私は何だかその言葉に安心してしまった。亮介なら大丈夫だと思った。
だから、私は言葉にした。
「今日、何の日か知ってる?」
「え?」
突然の質問に、亮介は困惑しているようだった。
だけど、私は構わず続ける。
「今日は赤い月の日。ウァンパイアたちの力が強くなる日なの」
「それがどうしたんだ・・・?」
亮介は私の言葉の意図が飲み込めないようだった。
「何が言いたいかっていうとね、私、ウァンパイアハーフなの。お母さんがウァンパイアなの。普通の人間じゃないの」
「は・・・?え・・・?ウァンパイアハーフ?」
亮介はかなり混乱しているようだった。
当然だ。急にこんなことを言われて、すぐに納得できるわけがない。私だってそうだったのだから。
「ちょうど日も暮れてきたし、少しはわかると思うよ。私の言っていること」
私はカーテンを開けて、空を見上げた。
だんだんと暗くなり、赤い月が見えてきた。それと同時に、私の目が赤くなるのを感じた。
「これが私だよ、亮介。これでも私の味方だって言える?私のことを好きだって言える?」
少しの沈黙のあと、亮介が答えた。
「言える。ウァンパイアハーフでも何でも、聖は聖だろ?」
嬉しかった。ウァンパイアハーフだと知っても、私を認めてくれたことが。
そして何より────・・・
「ありがとう。私を暗い世界から救い出してくれて」
私は呟くようにそう言って、窓を開けた。
そして、最高の笑顔で答えた。
「私も、亮介が好き。大好き!」