人間に愛されたウァンパイア
おじいちゃんのおかげで、真っ暗だった私の心に一筋の光が見えた。
だけど、その光に私は踏み込むことができない。
まだ、私は暗い世界にいる。
まだ、私の心に何か重いものがのしかかっている。
こんな状態で、本当に前に進むことができるのだろうか?
おじいちゃんやおばあちゃん、お父さんやお母さんは闘ったのだ。なのに、私は何もできていない。闘えていない。
どうしたらいいんだろう?
「聖、ちょっと話をしない?」
お母さんはドアの向こうでそう言った。その声には、何か覚悟のようなものを感じた。
私は少し躊躇ってから答えた。
「このままでいいなら、いいよ」
お母さんはホッとしたように息を吐いたようだった。
そして、ゆっくりと話し出した。
「この間、おじいちゃんが来て昔話をしてくれたでしょう?それで、お母さんも少し昔のことを話そうと思って」
昔のこと────・・・
そういえば、お母さんたちの話も聞いたことがない気がする。私も両親の馴れ初めを訊こうと思ったこともないし、当然だろう。
「お母さん、初めはね、お父さんたち家族を殺そうと思って人間の世界にやって来たの」
お母さんから出た言葉は衝撃的なものだった。
「それなのに結婚して子供までいるなんて、ちょっと信じられないでしょ?お母さんもあの頃はこんな風になるなんて、思っていなかったわ」
少し笑いながら、お母さんは話す。
「最初は偶然を装ってお父さんに接触したわ。そして、お父さんの家に入り込むことができた」
────私、逃げてきたんです。ウァンパイアの巣から
「おばあちゃんにはすぐにお母さんの正体がバレてしまったけどね。でも、別にそれは構わなかったの。どうせ殺してしまうのだからってね。一番殺したかったのはおばあちゃんだったし。ウァンパイアを捨てて人間に成り下がったやつなんて、生きている価値がないってね」
────ウァンパイアだったくせに、人間に恋をするなんてありえないわ!
「そんなお母さんが今、こうしているのはお父さんのおかげよ。お母さんにとってお父さんは、いつしかとても大切な人になっていたの。お父さんはお母さんがウァンパイアだと初めて話したときも怖がったりはしなかったし、諦めずにお母さんに抗ってきたの。お母さんにそんなことできるはずがないってね」
────俺がお前を救い出す
────心は嘘をつかない。それが由美の本当の気持ちだよ
「結局、お母さんはおばあちゃんと同じような道を辿ったの。だけど、それでよかった。お母さんは幸せになれた。お父さんと結婚して、そして、あなたが生まれて。お母さんは聖も幸せになれるって信じてるよ。きっと聖の前にも現れるよ。聖を救い出してくれる人が」
お母さんの言葉は熱を持っていた。
私は何だか泣きそうになった。
お母さんもおばあちゃんも、ウァンパイアだったけれど幸せになった。
お母さんの話を聞いて、私も幸せになれるのかなって、救い出してくれる人が現れるのかなって、信じたくなる。
ううん、信じるんだ。だって、こうして幸せになった二人がいるんだ。私もきっと、幸せになれる。
「私も、信じるよ」
私はそう言った。
「私をこの状態から救い出してくれる人が現れるって・・・私も幸せになれるって、信じるよ」
「聖・・・じゃあ────・・・」
「でもまだダメなの」
私はお母さんの言葉を遮って言った。
「ダメなの。怖いの。信じたって、私の中に流れるウァンパイアの血を受け入れてくれる人なんていないんじゃないかって・・・ここから出たら、私が私じゃなくなっちゃうんじゃないかって・・・怖くて怖くてたまらないの・・・!」
掠れるような声で私は想いをぶつける。
少しの間、沈黙が流れた。
そのあと、お母さんははっきりと言った。
「大丈夫だよ」
私は思わずドアを見つめた。
「お母さんたちは聖の見方だから。・・・こんなことしか言えないけど、だけど、お母さんたちが聖を見放したりすることは絶対にないから。だから、心配しないで。お母さんたちがいるから大丈夫」
お母さんの言葉は当たり前なのだけれど、なぜか心に染みた。安心できる口調や温かさがあったからかもしれない。
私は改めて感じた。私を心配してくれる家族がいることを。
お母さんもお父さんも、おばあちゃんもおじいちゃんも、私を心配している。とくにお母さんとおばあちゃんは、私と同じウァンパイアだからよけいに心配してくれているのだろう。それだけでも、私は十分に幸せなのかもしれない。
だけど、心配してくれているのに私はまだここから抜け出せない。これ以上、心配をかけたくないのに。
────きっと聖の前にも現れるよ。聖を救い出してくれる人が
そんな人がいるのなら、はやく現れてほしい。私も、いつまでもこうしていたくない。
誰か、私を助けて。