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ウァンパイア物語3  作者: 衣月美優
3/7

暗い世界


 私は、そんな昨日を終えて今に至る。

 今の私には部屋に閉じ籠ることしかできなかった。私はずっと、毛布を被ってベットに横になっていた。

 たまにお母さんがご飯や飲み物を持ってきてくれたが、私はほとんど口につけなかった。おばあちゃんが持ってきた薬だって、飲んでいない。私の心はそんなものを受け付けなかったのだ。

 もう一生このままでいたい。いっそ、このまま眠って死んでしまいたい。

 そんな想いがずっと渦巻いている。

 でも、どちらも不可能だ。

 眠って死ぬことはできないし、夏休みが終わればこうやっていることもできない。まぁ、こんな気持ちで学校に行くなんて無理だと思うが。こんな、暗い海の底にいるような気持ちじゃ────・・・

 私はあれからずっと、暗い世界に放り出されたような気持ちだった。

 すべて夢だったらいいのに、と何度思ったかわからない。

 ウァンパイアなんかに関わりたくないとずっと思っていたのに、まさかこんなにも深く関わっていたなんて・・・

 そんなこと思いたくなかった。

 信じたくなかった。

 理解できるわけがなかった。

 おばあちゃんの話を聞いたところでそれは変わらない。

 どうして、こんなことに────・・・

 怖い、怖い、怖い。

 でも、この恐怖心は自分にウァンパイアの力が眠っていたことに対してだけじゃない。この先、もし誰かにウァンパイアの血を受け継いでいるとバレたらと思うと、怖くて怖くてたまらない。

 もう、誰とも会いたくない。

 たとえ家族でも────・・・




「ごめんね。聖、誰とも会いたくないって言ってるの」

 私─奏井 由美─は、うちを訪ねてきた亮介くんに言った。

 彼は、そうですか、と言い、そのまま帰っていった。

 私の心は後悔の気持ちでいっぱいだった。

 やっぱりちゃんと話すべきだった。幼い頃から言い聞かせて育てるべきだった。

 そんな想いでいっぱいだった。

 義母の言うことに従う必要なんてなかった。

 でも、できなかった。すべてを話すのが怖かったから。

 私の正体や聖にウァンパイアの血が受け継がれていることを知られるのも、それを知ってショックを受けるあの子を見るのも、怖かった。言えるわけがなかった。

 だけど、こんなことになってしまった今、どうしてもっとはやくに言わなかったのだとやっぱり思ってしまう。どうせ、聖が成人すれば言ったのだからはやく言えばよかったのだと。

 でも、今さらそんなことを言っても遅い。

 私は母親失格だ。いや、私は何もかもを間違えたのかもしれない。

 まさとくんと出会ってはいけなかったのかもしれない。

 結婚してはいけなかったのかもしれない。

 聖を産んではいけなかったのかもしれない。

 ウァンパイアとして生まれてきてはいけなかったのかもしれない。

 人間として生きてはいけなかったのかもしれない。

 そもそも、今の私はウァンパイアとしても人間としても半端者。はやくウァンパイアの力を捨てなければいけない。

 あの薬は聖のためでもあり、同時に私のためでもある。あの薬があればきっと、聖も私も救われる。

 聖がこうなってしまった原因をつくった私は、それを解決する義務がある。

 今、一番辛いのは聖だ。

 だから、私も暗くなっていてはいけない。私は前を向いて、一人娘のために尽力しなければいけない。

 どんな無理をしてでも────・・・




 俺はあれから一週間、由美の様子を見ていた。

 由美は暇さえあれば研究所に行き、薬の開発をしているようだった。夜中だって家を抜け出している。

 たぶん、ろくに寝ていない。聖のためとはいえ、やりすぎだ。やっぱり、母さんが言うように責任を感じているのだろう。

 どうしたらうまく解決できるだろうか。

 由美も聖も、このままだと体を壊してしまう。二人とも重く考えすぎだ。もっと力を抜いて、ポジティブに問題と向き合わなければ。そうすることで、もう少し心が楽になるはずだ。

 そうしなくても、一人で抱え込まず、もっと誰かに頼るべきなんだ。頼るべき相手は誰でもいい。自分が信頼できる人に少しでも話してみたら、きっと何かが変わる。

 もちろん、簡単に相談できる内容じゃない。だったら、家族でいい。俺や母さんや父さんに話したらいい。自分の思っていることを全部。そうしてみんなで協力すればなんとかなる。

 だが、それもあの二人が相談してくれなければ俺たちには何もできない。

 今の俺にできることは何だろうか。


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