7.潜入、錬金術ギルド 前編
『へっつい猫』の店の襲撃から三日後、集会から二日後。
『鋳掛屋』の手に入れた情報から、敵の錬金術師はアイザック・ハルバードと知れた。
この人物は弱冠二十二歳で第二階梯に達した男だ。
潜入は手こずるかもしれない。
だけど、僕の忍法であれば、意外とスムーズに事が運ぶ可能性もある。
ともかく、僕は錬金術ギルドへと忍び込んだ。
この施設は皇都の東郊外にある。非常に広大な敷地面積を誇っており、もし同等の面積を畑とすれば、考えられないほど多量の農産物が得られるだろう。もっとわかりやすく言えば、皇帝の本宮城や二つの離宮を合わせて初めて釣り合う、といったところか。
変な説明になってしまったが、僕がブレン皇国の度量衡に詳しくないので致し方ない。
いずれにせよ、錬金術ギルドは広すぎて所属している錬金術師たちの中にも迷子になる者が多い。未熟な者に限っての話だが。
起伏の多い地形の上にいくつもの建物が散在しているのも、内部がわかりにくい原因だ。
ではどうやってアイザック・ハルバードの研究室に行くか?
彼の後を気づかれぬようついていけばいいだけの話だ。
もっとも、アイザック博士とて警戒を怠っていないらしく、四体のホムンクルスが――彼の趣味なのか、名前をもじっているのか、いずれもハルバードを持っている――彼の周囲を守っていた。
とはいえ、ソイイーターへの用心はそれだけでは不十分だ。
ほら、現に僕があと三歩で手を掛けられそうな距離だと言うのに、博士もホムンクルスたちも気づいていない。
時折、ホムンクルスが枝を踏んで乾いた音を立てると、わずかに緊張した様子を見せるが、すぐに元通りに進んでいく。
「アイザック先生!」
突如背後から声がした。心の臓が一瞬大きく膨れたが、僕もソイイーターのはしくれ、素早く近くにあった大理石の像に身を隠した。
背後から声をかけた人物はどうやら錬金術師の卵らしく、アイザック博士に質問を浴びせていた。
「それは明日教えよう、もう遅い、帰り給え」
とうとう、うんざりした調子で博士はひよっこ錬金術師を追いやって、帰路に戻ろうとする。
ひよっこが見えなくなってから、再び僕は後をつけ始めようと、
彼がピタと足を止めた。何やら呟いている……。
僕は耳をそばだてる。
「あれは……で……しかし……ならば……」
何か錬金術の問題でも考えているのだろうか? ともかく、言語性の錬金術ではなさそうである。
博士はしばらくブツブツと言っていたが、ついに歩みを進め始めた。
ふう。バレていないようだ。僕は尾行を再開した。
しかし、美しいと言われているギルド内部をよく観察できないのは残念だ。
もう午後十時で真っ暗だし、少しでも気を緩められる状況ではない。
まあ、ともかく、ここまでは順調だ。気を抜くな。黒幕がわかるまでは、どこから襲われてもおかしくないのだから。
(中編へ続く)