6.敵の正体を追え
『へっつい猫』の店が襲撃された翌日。
僕の事務所に、仲間の三人が集まった。
『鋳掛屋』は緑の液体にまみれた白衣を着ている。
「悪いね、『鋳掛屋』。僕は解剖すのが苦手だから」
「いいんですよ、腑分けは私の得意分野です!」
そう言って『鋳掛屋』は胸を張った。形の良い巨乳がタプンと揺れる。
それを『へっつい猫』が嫉妬の眼差しで睨みつけたが、まあそれはいいとしよう。
問題は今回の敵の正体だ。
襲撃された日のうちに、捕まえたホムンクルスだけでなく、他五つの死体も――ホムンクルスの場合は残骸という人もいるけど――僕の事務所の地下室に運び込んだ。
無論、情報調査のため。できれば拷問で明白な敵の名を聞き出しておきたかったけど、自殺機構が仕込んであったらしく、捕らえた奴は椅子に縛り付けようとした段階で絶命していた。
ならば、ホムンクルスは六体全部解剖すしかない。
ということで、『鋳掛屋』に頼んでやってもらった。
「それで、腑分けの結果は?」
『うわばみ』がヒゲをいじりながら言った。『鋳掛屋』は頷いて、箱を机の上に置くと、説明を始める。
「まず六体とも同じ術式基盤が入っていた。つまり同一人物による創造物です」
箱の中に置かれた、円盤状の六枚、魔法陣めいた刻み目付き金属板を指さして彼女は言った。金属はおそらく真鍮だろう。確かにいずれも同じ文様が描かれている。『鋳掛屋』は続けて、
「次に自殺機構が仕込んであったことはご存知でしょう、この仕組みから最低でも第三階梯の錬金術師が創造者だと言えます」
さらに、拳の大きさほどある石を手にとって説明を続ける。箱の中にはまだ五つある石だ。エメラルドだろうか、いや、あれは非常にもろい石だ、では翡翠か、しかし緑ではあるものの脂のような光を持っていない、だとしたら、この鮮やかな緑の煙を固めたような不思議な石は一体……
「そして、頭脳に当たる部分、識玉はサイフ・アル・ヒクマ、つまり海外産の高価な宝石が用いられていました。六体ともです。ということは、敵は少なくとも大金を用意できる身分か資産家であることは間違いないでしょう」
そう言って『鋳掛屋』は石を箱に戻し、説明を終えた。
「第三階梯以上の錬金術師が一人。そしてそいつ本人か雇い主が富豪というわけか。……情報が足らんな」
『うわばみ』が唸った。『へっつい猫』は石を取り出して、
「これ売ったらいくらぐらいになりそう? ちょっと貧民街で病気の子供が何人かいるんだよね」
「宝石の値段鑑定までは手が回らないな……だが、上等の薬を買うには十分すぎる値で売れるはずだ。『へっつい猫』、このサイフ・アル・ヒクマは全部お前にやろう。善行に使われるなら、私も文句は言わない」
『鋳掛屋』は言った。
「ありがと! ドクターも喜ぶよ!」
『へっつい猫』が耳をピコピコさせて感謝の言葉を放った。『うわばみ』も彼女の宝石の使い道を正しいことだと褒めた。
「さて……おそらく三割しか敵の情報は集まってない。誰か、錬金術ギルドに潜入できる? もっと絞り込みを加えないと」
僕が言うと、『鋳掛屋』が答える。
「そこは『代筆屋』の兄さんに任せたいんですが。というのも、私は別の方向から探りを入れたいんで」
「別の方向?」
「ええ。サイフ・アル・ヒクマは今現在、東洋株式会社の独占状態です。そこの注文記録を確認しようかと」
「それじゃあ、そっちのほうを先にしたほうがいいね。錬金術師の名前もわかるかも」
「しかし、質流れの品だという可能性はないのか?」
『うわばみ』が尋ねると、『鋳掛屋』は、
「見たところこの石は、宝飾品としてはほとんど未加工のものです。質流れではないでしょう。ああ、『うわばみ』の兄さんには別にお願いしたいことが」
「何だ?」
「奴らの持っていたピストルの出処です。もしかしたら一番早く黒幕を探り当てられるかも」
「わかった。任せてくれ」
『うわばみ』が言った。すると、『へっつい猫』が、
「私は何したらいい?」
「ああ、君は僕らの代わりに善行を積んでくれ。ドクターが忙しいみたいで手伝いたい、って前に言ってたよね」
僕が言うと、彼女は、
「いいの? 私だけ自分のことして」
「大丈夫さ。むしろ、貧民街の人々と協力関係を作ってくれ。いつか役に立つかもしれない」
「……ありがとう!」
『へっつい猫』は爽やかに微笑んだ。
さて、方針は決まった。敵の正体を探ろう。誰が相手でも、僕らの仕事の邪魔はさせない。