5.襲撃者を追え
襲撃があったのは『へっつい猫』がパンの行商へ出かけたあとだった。
だから、彼女は追撃には参加していない。
僕ら三人は、襲撃者を追う。
「どうやら、六人一組のようだよ」
僕が言うと、この中では一番足の速い『鋳掛屋』が、
「なら挟み撃ちができないか試してみよう。それで大丈夫?」
と言った。『うわばみ』と僕は無言で頷き、『鋳掛屋』に別行動を許した。
一方の襲撃者は旧式のピストル――おそらくフリントロック式――で武装していたらしく、一発も撃って来ない。それどころか、ひたすらに逃げるばかりだ。
そろそろ一発手裏剣を打っとこうか?
時は正午前。あまり騒ぎになると煩わしい。とはいえ、襲撃者の正体を知るまでは追わなくちゃね。
僕はスーツの懐に隠した棒手裏剣を一本手にする。
この手裏剣は、もともとは鉄道用の釘で、かなり重みがあり殺傷力も非常に高い。
そのかわり持ち運びにくいという欠点があるけれどね。
ともかく、走りつつ素早くスーツから手を引き頭上へ持ち上げる。
背を向ける襲撃者の一人に狙いを定め。
打ち込む!
ヒャウッ、と音を立て飛んだ手裏剣は、狙い過たず対象を食らった。
「! 緑の血!」
『うわばみ』が言った。確かに倒れた襲撃者からは苦味のある色が流れ出していた。
つまり、連中はホムンクルスだ。まだ全員が全員とわかったわけではないけれど、これはちょっと困ったな。
そう思っていると、
ヒャウッ、と投擲音が三つ。
音の方向を見ると『鋳掛屋』が家屋の屋根を走っている。もうすぐ十分な距離を稼げた頃だ。
ちなみに彼女の投げた手裏剣は、人差指と親指で作れる円よりわずかに小さい鉄の円盤。
殺傷力は低いけれど、持ち運びやすさは抜群。
円盤手裏剣は敵二人の喉を斬り裂いたらしく、緑の血を激しく噴出しながら連中は倒れた。
「ちょうど良くなったな」
『うわばみ』が言った。ちょうど三対三になったからね。
時を同じくして、『鋳掛屋』が屋根からヒラリと道へ降り立ち、敵の行く手を阻んだ。
襲撃者は立ち止まり、うろたえた様子だった。が、意を決したらしく、僕らの方へ三名が振り向いて突進してきた!
「『代筆屋』! 『鋳掛屋』! 俺がやる!」
『うわばみ』が叫ぶと、ナイフを抜いた三人へと近寄る。そして、もう一声、
「忍法【殺大虫】!!」
言い終わるが早いか、彼の口から一本の片鎌槍が吐き出される!
槍はザクリと敵の一人に命中、緑の液体が撒き散らされる!
『うわばみ』はそのまま走り寄り槍を引き抜く。勢いをつけて振り回すと、敵は怯むことなくナイフを低く構え、隙を狙ってゆっくりと動く。
「ふん! 無駄だ!」
『うわばみ』は叫んで、素早く槍の鎌で一人を引き倒す!
そのまま穂先を心の臓へ! 緑血!
そして石突を背後の敵へ! 敵は転倒!
立ち上がろうとするところへ、僕が小刀の背を喉に押し付ける。
「さて、ちょっとだけ教えてくれるかな? 誰に雇われたんだい?」
まあ、これで答えてくれるなら楽なんだけどね。人間でももう少し痛めつけないと駄目だろう。
そしてホムンクルスは忠誠心が強い。拷問しないと無理だろう。
そういうことで、僕の事務所の地下へと運び込もうと方針が決まった。