4.フォーハンド卿暗殺依頼
ビアードアックス卿脅迫依頼の完了から二日。
僕ら四人は、『へっつい猫』の仕事場――貧民街で格安のパンを行商するため、安価なパン窯がある――に集まっていた。
『うわばみ』が新しい仕事を持ってきたからだ。
「フォーハンド卿の暗殺~?」
平ぺったいパンを焼きながら、『へっつい猫』が聞き返す。フォーハンド卿は、アリス親王の廃嫡に熱心な貴族院議員の一人だ。しかし、ビアードアックス卿の脅迫だけでも法案の取り消しには十分なはず、と彼女は考えているのだろう。
「そうだ。どうも、フォーハンド卿はビアードアックス卿抜きでやり通すつもりらしい」
『うわばみ』が言った。僕は、うーん、と唸って、
「ということは、フォーハンド卿以外の議員も襲撃する必要があるんじゃない?」
「私もそう思う。『うわばみ』の兄さん、そこら辺、依頼人は何て言ってた?」
『鋳掛屋』が尋ねた。『うわばみ』は懐から依頼書だろう紙を取り出し、読み上げる。
「ソイイーター諸君へ。
先日の依頼完遂、誠に感謝する。
しかしながら、事態は私の予想通りには行かなかった。
フォーハンド卿を中心として、バーンドチェーン卿、シェイクソード卿、ハングドダック卿がアリス親王廃嫡に向け暗躍している。
そこで諸君へ新たに依頼する。
近日中に先に挙げた四名は秘密集会を開く可能性がある。
諸君にはその集会に潜入し、フォーハンド卿の暗殺を謀ってほしい。
可能ならば、他の三名の前で件の男を倒してもらいたい。
君たちなら可能だと確信している。
The C」
『うわばみ』が読み終えると、『鋳掛屋』が口を開いた。
「ということは、まず集会の場所と日時を調べる必要があるな……」
「それよりまず依頼の諾否だ。皆、受けるつもりは?」
『うわばみ』が言うと、『へっつい猫』が、
「依頼金は前払い? 後払い? そいでもっていくらなの?」
と言った。もっともだ、と『うわばみ』は頷き、
「前回同様だ。つまり前払いの一万BC」
「太っ腹だな。まあいい、私は受けよう」
と言ったのは『鋳掛屋』。僕も頷いて、
「受けるよ。僕の持ってる情報からすると、暗殺ぐらいで怯むとは思えないけどね。ともかく、仕事をしないと体がなまりそうだ」
「じゃあ私も受けよっかな。ああ、今からパンの行商に行くからね」
そう言うと『へっつい猫』は平たいパンを外の猫車へと運び始めた。
『うわばみ』は、あごヒゲをいじりながら、承諾の返事を書いてくれ、と僕に頼んだ。
『代筆屋』の名のとおり、僕は手紙の代筆を仕事としている。この四人の中ではペンに触れる機会が最も多いだろう。そういうわけで、僕は『うわばみ』が差し出した紙に下書きをした。
しばらく経って、依頼受諾の文章ができ上がった。
『うわばみ』に渡したその瞬間、
銃声がいくつも重なった。安物のガラス窓が砕け散る。
「襲撃か!?」
「そうみたいだな、『うわばみ』の兄さん!」
「このまま逃がすか! 『うわばみ』さん! 『鋳掛屋』! 追うよ!」
僕らは手裏剣と小刀だけという、ちょっと物足りない武装で、謎の襲撃者を追いかけることとなった。
『へっつい猫』には後でガラス代をカンパしておこう。