別視点2.フォーハンド卿以下四名の密談 中編
アルバ王国。
ブレン皇国の北方に位置する国家だ。
前編においてこの国がアリス親王の憂慮要因であると述べた。
しかしながら、アルバ王国を名指しして批判することを親王は避けた。
というのも、件の国は現在では皇国の従属国であり、皇弟の治める重要な同盟相手であったからだ。
ではなぜアルバ王国が脅威であるのか?
それは皇弟の野心によるものだ。これについての詳細は後々語ることにしよう。
今は、王国の統治者が皇国をも支配しようと目論んでいる、とだけ述べておく。
さて、フォーハンド卿はアルバ王国の皇弟が皇位を継ぐことを望んでいた。
「ゆえに、何があってもアリス親王は廃嫡せねばならぬ。国民の人気が高かろうが、何としてもやり通さねば」
彼は三人に向かって言った。
ハングドダック卿が激しく頷いた。
「親王が恥ずべき女と我々が明かしても、愚民どもは擁護しおった。ワシの命をかけてでもやらねばならぬ」
他の二人は黙って頷くのみであった。
フランメ帝国との和平条約を見事に締結させた後のことだが、アリス親王は醜聞を暴露された。彼女は自身の指揮や参謀の活動を見て学ばせるという名目で十五歳から十九歳までの少年を集めた。だが、実際の目的は少年愛者である彼女の欲望を満たすというものだったのだ。親王は少年たちと隙を見つけては淫らな行為に耽った。この事実をハングドダック卿が黙って見逃すわけがなかった。記者を使って行為中の親王をカメラに収めさせ、ゴシップ新聞に掲載せしめたのである。
アリス親王はパニックに陥った。突然泣きだしたり、失神したり、笑いだしたりと発狂寸前だったという。連日、彼女の邸宅には勢いを得た批判者が――もっとも、極右派閥に雇われた輩しかいなかったが――集まって、恥を知れ淫乱なるアリス、淫売のアリスを廃嫡せよ、と叫び回った。精神的に追い詰められた彼女だったが、奇人の名で知られるゴッドハンマー卿の演説によって――「英雄たる者は色欲が強い、これまでに名高い将軍たちもそうであった、であればアリス親王も淫欲には抗えなかったのだ。むしろ、この事実は彼女が英雄であることの動かぬ証である」――幾分か支持を取り戻せた。さらに、今上皇帝の前で、囚人の白衣を着て鞭を差し出し罰を乞うパフォーマンスを行うようにとの助言を匿名の人物から得た。それを実行に移すことで、彼女は多くの同情を受け、廃嫡を免れたのである。代わりに、彼女は様々な特権を放棄せしめられたけれども。
とはいえ、今なお彼女が皇位継承者の一人としてふさわしいかどうか議論されている。それほど彼女の醜聞は重いものだった。
ハングドダック卿が苦々しげに言葉を続ける。
「あの時に自殺しておられれば楽だったと言うのに。ああ、発狂して病院送りになるのも良いな。ともかく、廃嫡は実行されねばならぬ」
「ハングドダック卿、やはりソイイーターで暗殺したほうが早くはないか?」
ふと、シェイクソード卿が言った。
「何を言うか!?」
「気でも狂ったか!!」
「淫蕩な女とはいえ親王、ソイイーターごときに殺されたとあっては皇帝、皇国の権威に傷がつくわ!!」
三人は激高してシェイクソード卿に言い返した。
(後編に続く)




