別視点1.フォーハンド卿以下四名の密談 前編
隠し部屋の存在は『追い剥ぎ』組に知らせていなかった。
そもそも、ソイイーターは卑しい者どもだ。裏切りもたやすく行うだろう。
であれば、安全のため切り札を用意しておく必要がある。
それは、フォーハンド卿にとっては自身そのものだった。
彼は、バーンドチェーン卿、シェイクソード卿、ハングドダック卿の三人を前に語りだす。
「さて、アリス親王廃嫡法案についてだ。先日ビアードアックス卿が心変わりをしおった。下賤なソイイーターどもに脅されてのことだ。成り上がり者はこれだから困る。階位はワシより上だとはいえ、金で勲章を買い続けたと噂されたのは真のことかと思いたくなるわい」
「さよう、あのような下等な人間は抜きにすべきですな」
バーンドチェーン卿が同意した。彼に続いてハングドダッグ卿が、
「然り。我らだけでも事を進めなくてはなりませんぞ。アリス親王なぞは国の恥。ましてや皇帝ともなればブレン皇国は万国の笑いものとなりましょう」
「なればこそ、今回の廃嫡法案は実行せねばなりませぬな。このシェイクソード、粉骨砕身の覚悟で当たるつもりです」
三人の言葉を聞いて、フォーハンド卿は頷いた。
今もっとも皇位に近い皇族である件の女将軍はブレン皇国の威信を無に帰そうとしている。
彼ら四人は確信していた。
しかしながら、彼らは当初彼女に期待していたことがあった。
アリス親王は若くして軍務に就き、ドストル海峡を渡ってフランメ帝国侵攻の指揮を採った。
フォーハンド卿以下四人を含む極右的貴族は、件の帝国をブレン皇国が受けるべき栄光の障害と見た。それと同時に、ブレン皇帝が例の国家の皇統を引いており、今上皇帝は奪われし土地フランメを征服すべしという一種の神話を信じていた。
それゆえ、アリス親王は貴族たちから人気を得ていた。
だが、その評価が逆転する出来事が起こる。
百戦百勝を重ねていたアリス親王が、フランメの帝都を前に進撃を止めた。
そして、フランメの帝王と和平交渉を始めたのである。
彼女の独断であった。
当然、本国からの指示も賛同も得ていない。
突然のこの行為ゆえに、アリス親王は反逆者の汚名を被ることとなった。
しかし、親王はある確信を持って行動していた。
今敵対すべきはフランメではなく、北の国々だと。
急ぎブレン本国へ戻ると大鐘楼議会を近衛兵で包囲させ、入場を拒む極右貴族を威圧し、自らの行動が国益に適っていることを説いた。
多くの貴族が賛同した。もとよりフランメとは睨み合う仲だが、それより恐ろしい国家があることを思い出させられたのである。
これによって、アリス親王はフランメ帝国との全権交渉使節としての役目を担ったのである。
極右貴族にとって面白いことではなかった。
実のところ、彼らの殆どは島北部の国家、アルバ王国より買収されたものが多かったのだ。
つまり、アリス親王が危険を感じている北方の国家の一つより、密かに支援されていた。
これは、ブレン皇国を揺るがしうる、憂慮すべき事態であった。
(中編に続く)




