15.本格的暗殺実行 前編
「火事だー!!」
「隣が火事だー!!」
やっぱり火をつけるって楽しいね。警備民兵が大慌てでこちらの空き邸宅へやってきている。
東に声して西を撃つ計略はうまくいったというわけだ。
「それでは、我々は適当に雑魚を蹴散らしておくのであります!」
寝返った四人は空き邸宅での騒ぎを大きくする役割を担うこととなった。
今回は手強さがわかりにくかったかもしれないけど、いつも苦戦させられるから味方になったのはありがたい。
さて。
僕たち元々の暗殺実行組はフォーハンド邸に急ぎ侵入した。
ここでちょっと計画外の事態が起きてしまったよ。
なんと警備民兵は全員隣の屋敷の火消しに回ってしまったらしい。
これだと制服を奪うことができない。
まあ、もっとも、手間が省けたとも言えるけどね。
「残るは私兵どもだけか。気を抜くなよ」
『うわばみ』が言った。
僕ら三人は頷いて、フォーハンド卿の居場所を探す。
隣が火事になったということで、慌てふためいている使用人たちが僕らを見て悲鳴を上げたり逃げ出したりするが、なかなか目当ての人物を見つけられない。
……食堂。ここにはいない。
……客間。三つとも探したけれども外れだ。
……ビリヤードルーム。貴族の間で流行っているこのゲーム台を、物珍しそうに見ている『へっつい猫』はどうやって遊ぶのか聞いてきたけど、残念ながら僕も知らなかった。面白そうではあるけどね。ああ、フォーハンド卿たちはいなかった。
……書斎。見せかけの本ばかりで面白くなかった。本を読まないのはマイナスだと思うんだけどねえ。やっぱりここにもいなかった。どこにいるんだろ……?
「うーん……『へっつい猫』、何か考えはない?」
「なんとなくここに入ってきている感じはあるんだけどねえ。『鋳掛屋』の姐さんは?」
「……子供っぽい考えだが。隠し部屋があるのでは?」
そう言うと『鋳掛屋』は本棚に収められた本の背を叩き始めた。
トントン……
トントン……
トントン……
コンコン……
「! ここだ! まさか本当にあるとは!」
小さく叫ぶと『鋳掛屋』はじーっと本棚を観察する。
しばらくすると、彼女は本を何冊かデタラメに引き抜き出した。
ある一冊を――背表紙だけ立派に作った偽物の本だったけど――引き抜くと、機械音がして本棚が横へスライドした。
隠し部屋は存外広い。
オレンジ色のランプに照らされたそこは、密談にはうってつけの場所のようだ。
部屋の隅、それも奥まった所にテーブルと椅子があり、そこに四人の身なりの良い男たちがいた。
どうやら鯛を釣り上げたようだ。
(後編に続く)