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SOYEATERSプロトタイプ  作者: 木倉兵馬
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1.ビアードアックス卿襲撃事件

 午後の日差しが皇都を照らしていた。

 大鐘楼議会の時計を見ると、長針の指すところ十一と十二の間、短針は二の近くを示している。

 もうちょうど頃合いだろう。僕は刀を差して屋根を駆ける。

 狙うは貴族院議員であるビアードアックス卿。今の議会でのキーパーソンだ。


 その彼を白昼堂々脅迫する。

 

 それが僕『代筆屋』と仲間が請け負った仕事だ。

 依頼人は匿名だったけど、まあだいたい予測はつく。

 しかしそれはどうでもいい。依頼金はたっぷりもらってるしね。

 適切なお金を頂戴できれば詮索不要。

 さて、議会前広場がよく観察できる邸宅の上に伏せる。

 見れば、ちょうど狙いのお方が歩いている。

 ふーむ、


「ちょいと守りが堅いかな?」


 僕は貴族殿の周囲を見回す。銃剣付きマスケットを持った十人の私兵。一人ではさすがにきついか。

 とりあえず、連絡鏡を取り出して皆が来ているか確かめる。

 太陽光に晒したり隠したりして、メッセージを鏡で送る。

『うわばみ』、『鋳掛屋』、『へっつい猫』。それが僕の仲間たちだ。

 北から二つの、南から一つの反射光が返ってくる。

 どうやら、集合できたようだ。


『誰が先にやる?』


 南からの光はそう語った。一人ずつというのはちょっと無謀かも、と返す。


『なら一気にやろう』


 南からの返信。


『ちょうど時鐘がなる、それが合図だ』


 北からの光が語る。


『了解』『了解』


 僕らは待つ。一秒、二秒、三秒――


 ボーン ボーン ボーン……


 鐘が鳴った。僕らは一気に屋根から飛び降り、一直線に貴族殿へ突進する!


「ソイイーターだ!」


 誰かが叫ぶ。まあ、邪魔しなければ誰でもいいけど。ともかく、


「ちぃっ、構わん、撃て、撃て!」


 ビアードアックス卿が叫んだ。私兵たちはやや緩慢な――僕らにとっては、ね――動きで長銃を構える。

 動きから察するに、出来の悪いホムンクルスらしい。これならアルラウネを使ったほうが安上がりで量も揃えやすい、少なくとも僕が彼だったらそうするね。もっとも、見栄というのもあるか。


「早くせんか!」


 貴族殿が叫ぶ。撃つより銃剣突撃させたほうが良かったんじゃないかなあ? 確か元大佐なんでしょ?

 面頬の下で思わず僕は苦笑した。

 しかし、マスケットの用意はできていたらしく。


 十の轟音が響いた。


 僕を狙った銃口は三つ。すなわち来る弾丸も三つ、それを素早く前転で回避!


「!?」


 貴族殿、驚いたご様子。愉快愉快、と思いつつ、一気にホムンクルス兵に近寄り跳躍、そのまま抜刀し、


「チェェェェェェェストォォォォォォォォォ!!」


 絶叫して袈裟の形に一刀両断! 返す刀で横一人の首を斬り飛ばす!

 ちら、と見ると皆も無事に相手の懐へたどり着けたようだ。

 『へっつい猫』の鉄爪。『うわばみ』の短槍。『鋳掛屋』の鎖鎌。

 それぞれが各々のやりかたで人造生命を天へと送り返していた。


「な……」


 どうかな? 思考もできないかな? もう一人の――防御行動も緩慢すぎて抵抗できなかった哀れな――ホムンクルスを斬り裂いて僕は貴族殿に歩み寄る。

 仲間たちも敵兵の処理を終え、対象へ近寄る。

 そして、彼の前で全員ひざまずき、僕らの兄貴分、『うわばみ』が口を開く。


「さて、ビアードアックス卿。いかがなされますかな」


「貴様ら……!」


「ああ、抵抗なさるなど愚かなことはなさらないよう。もっとも、貴方様の命を奪えとまでは依頼されていませんがね」


 不敵な笑みで『鋳掛屋』が言った。このの笑みは深みがあって怖い。貴族殿もそう感じたらしく、悔しげに唸った。


「ま、一つ言っとくとねー、貴方、今の議会でアリス親王の廃嫡やろうとしてるでしょー? それ、やめて、だってさ」


 馴れ馴れしく『へっつい猫』が言った。可愛らしいだけど、だからこそ彼女は何をするかわからない、そういう怖さがある。ビアードアックス卿は苛立った様子で、


「一体、何の権限があってワシに命令を……!」


「権限はありませんが、武力ですよ、武力による威圧。元軍人の貴方ならおわかりでしょう?」

 

 僕はできるだけ可愛げのある笑みを見せつけて言った。もっとも、面頬で口元は隠れていたけど。


「と、いう訳でですね、もし今後アリス親王の廃嫡を進めるおつもりなら、僕らの依頼人は容赦しないでしょうね。お分かりいただけましたか?」


 僕の言葉に、彼は怒号を返した。


「舐めるなよソイイーターども!! ワシは第二位階貴族! 卑しい貴様らに屈すると思ったら……!!」


「にゃーん♪ これなーんだ♪」


 『へっつい猫』が紙切れを五枚取り出して見せつけた。写真だ。ビアードアックス卿が賄賂を受け取るところを写した、決定的場面の写真だ。卿は顔面蒼白となって態度を変えた。


「な、なぜそれを……!?」


「ま、そうですな、匿名のさるお方から、としか言えませんな。どうなさいます? 要求を受け入れてくださいますか?」


 『鋳掛屋』はしっかと卿を見つめる。いやあ、怖いねえ。蛇の一睨みみたいだよ、まったく。


「ぐぐ……」


 『うわばみ』がさらに追い打ちをかける。


「お嫌なら新聞社に売りつけるまでですが……」


 卿はか細い声で、


「……わかった……、貴様らの言うとおりにしよう……」

 

 と言った。よし、これで仕事は完了。帰るとしようか。

 目配せをすると、僕らは襲撃のときよりも素早く撤収した。

 広場には、がっくりと肩を落とすビアードアックス卿と、彼の私兵の死体が残された。

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