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KILLER × KILLER FALLs 【キラ×キラフォール】  作者: 赤澤阿礼
3rd falls 『血まみれの日常』
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85話 いつもみたいに騒がしく

「……なあシエラ、シスルゥの『特権』の正体を知ってるか?」


 他愛のない会話を少しして、太陽が降下を始めた頃、シシノはシエラに伝えなければならない話をもう一つ切り出した。


「ううん。それを知ってるのは『四骸(シガイ)』の四人と……お父様だけだよ」


 その声が少し詰まった理由を、シシノは何となく理解した。恐らく彼女は思い出しているのだ。幼いときの歪んだ日々を、歪んでいることも分からずに注がれた愛情を。


 それが分かるということを、シエラに伝えなければならない。


「おれは昨日、シスルゥの『特権』を少し体験したんだ……詳しい能力はまだ分からないけど、あいつは他人の過去を人に見せることができた」


 シシノがそう言うとシエラは少し表情を曇らせた。それはきっと、彼が何を見せられたのかを何となく察してしまったからだろう。


「シシノは、わたしの過去を見たんだね?」


「ああ……短くて断片的なヴィジョンだったけど、おれは小さい頃のシエラを見た。白い部屋を、赤く染めたシエラを」


「そっか……」


 呟いて、シエラは何かを諦めたように空を仰ぎ見る。

 彼女がこの二ヶ月隠してきたものを、ついに知られてしまったから。


 シシノが彼女の過去について多くを尋ねなかったように、彼女も自分の過去について何も言おうとしてこなかった。

 何度も何度も、数え切れないほどに言葉を交わしていながら、彼らはただの一度もそういう話をしようとしなかった。


 二人にとってそれはいつの間にか、触れてはならないタブーになっていたのかもしれない。


 知れば、知られれば、「友達」という関係性が壊れてしまうのではないか――そういう恐怖にも似た感情を、二人はお互いに抱いていたのだろう。


 だが、もう彼はその一部を知って、彼女はその一部を知られた。


「なんだろう……それを知られることはすごく怖くて嫌なことだったはずなのに、今は不思議と落ち着いてる」


 独り言のように呟くシエラの声には、焦りや不安は微塵も感じられない。

 何故ならば――。


「それはきっと、シシノがそれを知ったのに、わたしにここにいてほしいって言ってくれたからなんだろうね」


 過去を知っても、知られても、二人の関係は変わらなかったのだ。

 彼らの友情は、最早そんなことでは壊れないくらいに固く結びついていた。


 そしてシシノは、それを知ったことでより強く、彼女をラッカフルリルから救いたいと思うようになったのだった。


「何度だって言うよ。シエラに、ここにいてほしい」


「えへ……なんでなんだっけ? もう一回言ってよシシノ。わたしのことがす? す……なんなんだっけ?」


「う……、だからあれは言葉のあやだって! ライクの方だったんだっての!」


「もう、照れちゃってかわいいなぁ。やっぱりシシノをからかうのは一番楽しいよ」


「おれは心臓に負担がかかって仕方ねぇけどな!」


 シエラはいつものように、悪戯で意地悪な笑顔を浮かべる。

 シシノもいつものように、それに怒ったフリをする。


 過去を知っても知られても、呪われても――殺しても殺されても、変わらない。


 風が草を揺らす風景の中、いつもの二人がそこにいた。


 ~~~


「お二人ともわたしは怒っていますよまったくどこをほっつき歩いていたんですか。いいですかシエラちゃんは昨日ぐったり倒れ込んでいた病みあがりなんですよ安静にしていなければならないんです。それなのにまたそんな靴に土つけて山に登ったんでしょう分かりますよ。病みあがりに山を登るなんて信じられませんし連れ出すシシノ様にもげんこつの一つでも食らわせないと気が済まないところですよ本当に。それだけではありませんよシシノ様昨日ラッカフルリルと戦ったばかりではないですかもし街中で見つかって戦闘になったらどうするつもりだったのですか。行動に配慮が足りません考えが足りませんまったく浅はかで短絡的です。シエラちゃんに学校を休ませるのは分かりますが外へ連れ出してしまったら元も子もないないでしょう分かりませんか?」


「うわ、久しぶりのマシンガン説教だ」


「すごい……一息もついてないよ」


 五号室の扉を開いた瞬間二人を出迎えたのは、鉄仮面のように冷たい無表情を浮かべたネネさんのマシンガン説教だった。


 しかしその言葉のラッシュはあまりに美しく流れていくので、二人は凹むよりもまず感心してしまう。


「ほう……反省の色なし、ですか」


 無表情で放たれるその落ち着いた声は、鬼の形相を浮かべて怒鳴り散らされることよりもはるかに恐ろしい。

 初夏という季節を無視して部屋の気温が氷点下を下回ったのではないかと錯覚するほどに、二人の背中に悪寒が走った。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! まったく考えがなかったわけではないんです!」


「そうそう! 山道の入り口まではデオドラに送ってもらったし、簡易『必殺領域』でラッカフルリルが近づいてくれば分かるようにはしてあったし! でもごめんなさい! わたしたち浅はかでした!」


 大慌てで謝罪を繰り返すシシノとシエラを、ネネさんは無表情で見下ろしている。


 交互に放たれる「ごめんなさい」コールが五号室に蔓延する地獄のような時間が数秒続いていたその時、どこかからうっすらと声が聞こえることに二人は気がついた。


 “ネネさァーん、二人を許してあげてくださァ〜い”


 耳を澄ましてようやく聞き取れるその声は、どうやら七号室のリビングの方から聞こえるようだった。


「まだ喋る気力が残っているとは……しぶといですね」


 ネネさんの呟きに、なぜかシシノとシエラの身体に戦慄が走る。


 ――おれたちがこれだけ怒られてるってことは……。


 ――わたしたちが外に出ることを許可したデオドラは、もっと怒られたはずじゃ……。


 そして二人は、デオドラがわざわざ部屋を挟んで叫んでいる理由――動けない理由を想像して顔を青くすると、大慌てでリビングへ走った。


「ガチャッ」と音を鳴らしながら、勢いよく扉を開いた二人の目に飛び込んできた光景は――。


「で、デオドラさーーーーーん‼︎」


 蓑虫(みのむし)のようなぐるぐる巻きで天井に吊るされている、死んだように目を閉じるデオドラと、涙を流しながら彼に向かって手を合わせ拝むラビコの姿だった。


「うぅ、お悔やみ申し上げるッス!」


「「死んだの⁉︎」」


「生きてますよォ〜」


 二人の大声に反応して、デオドラはパチリと目を開けた。

 その声はどこか力が抜けているような感じがする。


「いやァやっぱりネネさんに怒られてしまいましたァ。お二人が外へ行くのを許可したのはァ、大人としては不適切な行動だったのかもしれませんねェ……ゲホっ、ゴフっ」


 若干苦しそうなその声を心配して、二人は靴を脱ぎ恐る恐るデオドラへ近づいた。


「デオドラさん……大丈夫か?」


「フフフ……顔は綺麗なもんですがァ、実はボディの方に数発重い攻撃を喰らってましてェ……ゲホゲホっ、未だに痛みまァす」


「ごめんデオドラ……わたしたちのせいで」


 シエラが目を伏せると、デオドラは首を振る。


「謝らないでくださァい。お二人は大事な話をしなければならなかったのでしょォ? だったらァ、これは仕方のないことです」


「デオドラさん……」


「いや、というかお礼をさせてくださァい。わたしネネさんに縛られ殴られ、大興奮のファンタスティックタイムを味わいましたよォ」


「デオドラさん……?」


 殴られすぎて頭がおかしくなったわけではない。ただ単に彼の性癖がややマゾヒスティックに寄っていただけの話だ。


「マゾヒスティックファンタスティックタイムでしたァ」


「いや、これ頭も数発ぶん殴られてるんじゃねえか?」


 恍惚の表情を浮かべるデオドラに、シシノとシエラは可哀想なものを見るような目を向ける。


 そんな中、ラビコはこの状況に飽きたのか、床に寝転ぶチャッピーの腹をシャカシャカと撫で回しながら呟く。


「まったく、いつもいつも騒がしいッスね〜チャッピー?」


 チャッピーは返事をするように「びゃお〜ん」と鳴いた。

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