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KILLER × KILLER FALLs 【キラ×キラフォール】  作者: 赤澤阿礼
3rd falls 『血まみれの日常』
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67話 帰り道、彼女はまるで子供のようだった

お目に止めていただき、ありがとうございます。


更新が遅れたことをお詫びします。

頑張ります!

 六月は日が長い。

 午後六時を回りそうな時間だったが、空はまだ明るかった。

 少し湿った風が吹く河川敷を、シシノとシエラは話に花を咲かせながら、ゆっくりと歩いていたのだが……。


「……シシノ、疲れてない? 結構歩かせちゃったけど」


「いいや全然。話しながらだと疲れなんて感じねえよ。……それよりも、なんで今日バスを使わなかったのか、そろそろ教えてくれねえか?」


 そう、いつもならば、二人は校門のすぐ側に立てられているバス停から、シジョー商店街までバスを使う。そこからアパートまで歩いているのだが、今日はバスを使わず、学校から歩いて帰路についているのだった。


 シシノがいつものようにバスを待とうとしたところに、シエラが理由も言わず「今日は歩いて帰ろう」とシシノの腕を引っ張ったことが現状の原因なのだが――別段シシノは悪い気はしていなかった。

 学校からアパートまでは七キロメートル近くの距離があり、歩くとなると結構な距離だが、シエラとの会話はシシノにとってやっぱり楽しいもので、どれだけ歩いても疲れを感じない。

 だからシエラへの質問には、ただ単に理由が知りたいという意図しかなかった。

 そんななんの思惑もない純粋な疑問だったのだが、シエラは答えづらそうに目を泳がせている。

 よく見ると頬が少しだけ赤らんでいるような気がするが――。


「? 答えづらいことか? あ、まさかシエラ、またなんか悪いこと企んでおれを歩かせたのか? へへ、だとしたら見破っちまったぜ。そう何度もからかわれるおれじゃないぞ!」


「ち、違うよっ! それに、「また」って、わたしいつもそんなにシシノをからかったりしてないもん!」


 慌てて首を振るシエラ。

 どうやらシシノが言ったように何かを企んでいるようなことは「今日は」なさそうなのだが、「いつもは」からかっていないというのは間違いだ。

 現にシシノは何度もからかわれ心臓に悪い思いをしている。


 ――まあここは大人の対応で流してやるか。


「そういうことにしといてやろう。……じゃあどんな理由なんだ? なんか思惑があるとしか思えないんだが……」


「もうっ。シシノはわたしをなんだと思ってんの。思惑なんてないよ……ただ、シシノと話がしたかっただけ」


「えっ?」


 意外なその答えに、思わず立ち止まって声を出してしまったシシノ。

 シエラも立ち止まりシシノに向き合ったが、すぐに顔を赤くして目を伏せた。


「……昼休みにも言ったけど、最近シシノと話す機会減っちゃったから、なんとか時間作れないかなって思って、それで……とにかくたくさん話がしたくて。ごめん、迷惑だったよね……」


「い、いや! 迷惑なんてことねえよ! むしろ、なんか、その……嬉しいよ」


 恥ずかしそうなシエラの言葉に、シシノの顔も赤くなる。

 いつもシエラにからかわれては赤くなる顔だが、その顔の熱はいつにも増して熱く感じた。

 面と向かってそんな真っ直ぐな気持ちを言われてしまっては、からかわれることなどよりもずっと心が動いてしまう。

 そんなシシノの言葉を聞いて、シエラは少し安心したようだ。


「えへ。よかった、嬉しいんだ……えへへ」


 そんな風に笑うシエラを見て、シシノは胸にときめきを覚えてしまう。


 心臓が、激しく動く。

 顔もみるみる熱くなっていく。

 それはまさに、思春期特有の甘酸っぱい恋のような心の動きだったが――しかし、自分に言い聞かせた。


 ――落ち着け、落ち着けおれ! シエラは友達、シエラは友達、シエラは友達……。おれを頼りにしてくれてる友達だ……!


 そんな気持ちを誤魔化すように、シシノはこほんと咳払いをすると、シエラをちらりと見る。


「あのよ……嬉しいんだけど、そんなに話す機会減ったかな? 晩飯の時も喋ってるし、リビングでも、休みの時も――」


「そ、それでも足りないんだよっ!」


 言い終わる前に、シエラはシシノに急接近すると、シシノの胸に手を触れ、顔を覗き込む。


「足りないの……っ。それに家にいたらもう、二人になることは少なくなっちゃったし……。全然足りない……っ。シシノ成分が足りないよぅ」


 すがりつくようなシエラの動きと言葉に、シシノの感情のキャパシティは限界を迎えようとしていた。


「う、わ、分かった分かった! 分かったから……! ちょっと離れてくれ!」


 シエラの肩を掴み無理やり引き剥がすと、シシノは顔を真っ赤にして息切れを起こす。


「あぅ、どうしたのシシノ、具合悪いの?」


「はあっ、はあ……っ! いや、なんでもねえ、なんでもないぞ……!」


 不安げに見つめてくるシエラを安心させるために深呼吸をして、なんとか平静を取り戻そうとするシシノ。


 ――ああ、毎度毎度情けねえなあ……近づかれるたびにこうなっちまうんじゃ、身体ももたねえし……。


 いくら肉体が『拒死身(きょじみ)』でも、精神的なダメージには耐性がない。

 身体をいくら傷つけられても回復するが、感じた痛みや恐怖を忘れることができないように、精神的な疲れが癒えることもない。

 とにかく、シエラに接近されても落ち着いていられるように、心を鍛えようと決心したのと同時に、シシノは今この時間、家に帰るまでにどうするのかを決めた。

 呼吸を整えて、不安げに見つめてくるシエラの目を見る。


「確かに、二人きりってのは登下校の時くらいだな」


「うん……だからシシノ……」


 言いづらそうに顔を伏せもじもじしているシエラに、シシノは思わず微笑みをこぼした。


「おう、今日はゆっくり帰ろう。晩飯の当番はネネさんだしな……そうだな、ちょっとその辺に――」


「うわぁい! シシノだいすき!」


 言葉を聞き終わる前に、シエラはシシノに飛びついた。

 両腕でしっかりシシノの胴体をホールドアップし、頭をぐりぐりと擦り付ける。


「は、はぁっ⁉︎ だ、だいすき――?」


「えへへっ! おうおう、だいすきだぜー!」


「ま、真似すんな! 子供かおまえは――」


 あまりに無邪気な振る舞いをするシエラを見て、シシノは気がついた。


 ――あぁそうか。子供、なんだ。


 いつか見せてもらった、シエラの『やりたいことリスト』を思い出す。

 やりたいこと――そのどれもが大切な願いだとシエラが言ったあのリストには、まるで子供が思い描くようなことばかり書かれていた。

 それはきっとどれも、シエラが体験したことがないことだったはずだ。

 隠れんぼも、鬼ごっこも、料理も、学校へ行くこともできなかったということは――もしかしたらシエラは、閉じ込められていたのかもしれない。


 何も知らず。

 何も教えられず。

 ラッカフルリルという檻の中で、人を殺すという仕事だけを与えられ――無邪気なままに大きくなったのかもしれない。

 そしたらシエラはまるで、大きな子供だ。


 もちろんこれは推測だ。

 間違っていてほしいと思う推測なのだ。


 それでも、日々眼に映る全てに感動しているシエラを見ていると、どうしようもなく思ってしまう。


 ――まるで子供みたいだな、と。


 だとしたら、今の「だいすき」という発言も、純粋で無邪気な、ただの形だけの言葉のはずだ。

 子供が、親やペットを「だいすき」だというようなものなのだろう。

 そう思えばドギマギしてしまうこともなく、シエラに普通に接することができる気がした。


「……シエラ」


「えへ、なになに?」


 覗き込んでくるシエラの瞳は、何かを期待するようにキラキラと輝いている。


 ――子供というより、動物みたいだな。


 ご飯をねだって尻尾を振るチャッピーを思い出して、その姿を今のシエラに重ねた。

 思わず噴き出してしまいそうになるのを我慢して微笑みを浮かべると、シシノはすぐ目の下にいるシエラの白銀の髪に、優しく手を触れる。


「週末、二人でどっか遊びに行くか?」


 なんの恥ずかしげもなく、自分の口からそんな言葉が自然と出たことにシシノは驚いた。

 言い終わった瞬間、突然の誘いにシエラが戸惑ってしまうのではないかとも思ったが、しかしシエラの瞳はますます輝きを増していき――。


「本当⁉︎ 行く! 絶対行く! マジめっちゃ超行く!」


 歓喜しながら、ぴょんぴょん飛び跳ねてシシノの手を押し返した。

 その手に伝わる感触と、あまりに嬉しそうなシエラの様子に、シシノは改めてこう思う。


 ――シエラには、ずっとここにいてほしい。

 楽しいことを、したいことを、全部やってほしい。

 幸せに生きて、ずっと幸せでいてほしい。


 それはもしかしたら独りよがりな考えで、また誰かしらに「重い」と言われそうな想いだった。

 だが、これがシシノの正直な想いなのだ。

 シエラには、悲しい顔などしてほしくない。

 今みたいに、楽しそうに笑っていてほしい。

 そのために、とりあえず今、自分に何ができるのか――。


「決まりだな。じゃあどこに行くか、ゆっくり考えながら帰ろうぜ」


「うん! えーっとね、じゃあ――」


 ゆっくりと、なるべく長くシエラと話ができるように歩き出す。

 今が何時だとか、夕食の時間がいつだとか、そんなことも考えずに、ただシエラと話すことを楽しんだ。

 そうすればシエラも楽しくお喋りしてくれて、お互いが楽しくなれるはずだ。


 帰路には言葉が尽きず、笑顔が溢れる。


 ――ずっと家に着かなければいいのに。


 そんなことを、ほんの少しだけシシノは考えた。

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