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KILLER × KILLER FALLs 【キラ×キラフォール】  作者: 赤澤阿礼
3rd falls 『血まみれの日常』
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65話 恋バナは膨らまず――心を隠す

お目に止めていただき、ありがとうございます!


間が開いてしまいました、すみません!

できるだけ頑張りますので、お付き合いいただけると幸いです。

 時が、止まる。


 ――君、シエラさんのこと、好きなのかい?


 何を言われたのかは聞こえた。

 その言葉の意味も分かる。

 問いかけだ。マミヤ・ニトラから、ヒノミヤ・シシノへの単純な問いかけ。


 ――おれが、シエラの事を好きかどうか……だって? なに言ってんだ……? そんなの決まってる。ああ、決まってる。当たり前のことだ。

 だってのに……どうしておれの心臓は、こんなに早く鼓動するんだ――?


 シシノはなるべく平静を装ってニトラを見据えると、考えるまでもないその答えを述べようとした。


「そりゃあ……好きに決まってる。おれはあいつに何度も助けられてるし、世話になってる。勉強熱心なとこもいいと思う。だからおれは人として……そうだ、人としてシエラが――」


「おい、誤魔化すなよ」


 言葉を遮ったニトラがシシノを見る目は、どこか軽蔑を含むようなものに変わっていた。


「言っただろ? 恋バナだってさ。人として好きかどうかなんて訊いてないんだよ。ぼくは、『ヒノミヤ・シシノが、シエラ・ラックを女性として好きかどうか』を尋ねてるんだ」


「――そ、それは……」


 そう、分かっていた。ニトラがどういう意味でそんな事を訊いてきたのか――分かっていて、とぼけたのだ。


 ニトラが問いかけた事は、シシノ自身、以前答えを出そうとした事だ。

 この螢火(ほたるび)高校に転入した初日、ニトラと決闘をした後――シシノは、自分がシエラに抱く特別な感情について答えを出した。

 シエラの隣にいたいという強い想い……その感情を、「友愛」だと決めつけたのだ。


 そのはずなのに、今はニトラに尋ねられて、言葉に詰まっている。

 答える事は簡単で、シエラに抱く想いは単純だというのに、口にするのを躊躇(ためら)っている。

 何故なのか。

 それは、シシノには分からなかった。


「……なに黙ってんの? 答えられないの? 好きじゃないの?」


「いや違っ……!」


 痺れを切らしたニトラの問いかけを、思わず否定したシシノ。

 とっさにその言葉が出てきたことに驚いて、シシノは自分の口を塞ぐ。


「なんだよ、じゃあやっぱり好きなの?」


「ち、違え……」


「どっちなんだよ、イライラするなあ。……あのさあ、じゃあ訊くけど、なんで君は、ぼくがシエラさんに近づこうとするのを邪魔するのかな? 君がシエラさんのことを好きじゃないんだったら、邪魔する理由はないんじゃないのかい?」


 ニトラは苛立ちからか、鋭い目つきでシシノを睨みつけながらそう言った。

 その質問の意図はよく分かる――要するに、「好きでもないなら邪魔するな」と言いたいのだ。


 ――確かにその通りだ。


 シシノはそう思った。

 昔から「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んでしまえ」とはよく言ったもので、今のシシノはニトラにとって、目障りで仕方がないことだろう。

 元より目の敵にしていた相手が、自分の恋路を邪魔してくる――そんなことに腹が立たないわけがない。

 そう思えばニトラがシシノに突っかかってくることにも頷けるが――。


 ――どうしておれはニトラの邪魔をしてる?

 確かに、おれがシエラの事を女の子として好きでもないのなら、人の恋路を邪魔するなんてのは卑劣な行為だ。

 嫌がらせみたいなもんじゃねえか。

 ……だけど、腹が立つんだ。

 ニトラがシエラに言い寄るのを見ると、無性に腹が立つ。

 なんで……なんでだ……?


 答えを探す。

 自分の中に、自分の心の中にあるはずの答えを――断片的に散らばった答えを探す。

 しかし、見つからなかった。

 心に浮かんだ疑問への答えは、自分の中にあるはずなのに、見つからない。

 いや――見つからない、フリをしている。


「おれ、は……シエラを女の子として好きだとは、やっぱり言えねえ」


「じゃあ、やっぱり好きじゃあないんじゃないか」


「いや、少し違うんだ。……おれは、シエラを好きになっちゃあダメだと思うんだ。なんというか、それは……あいつがおれにしてくれた行為に、そして好意に付け入っちまうような気がするからだ」


「はあ……?」


 ニトラは不思議なものを見るような目をシシノに向けたが、目を伏せながら話すシシノの瞳には、そんな姿勢は映っていない。

 構わず話を続ける。


「お前には分かんないだろうけど……おれは、本当にあいつに救われてるんだ。だから――それでおれがシエラを好きになっちまったら、あいつの優しさに甘えちまうことになる。助けてくれたから、救ってくれたから惚れるってのは、何かが違う気がするんだ。それはきっと――迷惑なことだ」


 ――そうだ。

 シエラはおれを救ってくれた。

 塞ぎ込んでいたおれを、人と繋げてくれた。

 だからものすごく感謝してるし、シエラが困っていればおれは助けたいと思う。

 だけど、きっとシエラはおれを助けたなんて思ってない。あいつの言葉に、おれの心が勝手に動かされただけだ。

 そんなおれが……シエラを勝手に好きになっちゃあ、ダメだろ。


 ヒノミヤ・シシノのこんな思考は、長年誰かとの繋がりがなかったことから生じた自分への卑下、劣等感、コンプレックスによるものなのかもしれなかった。

 彼は、自分の心に制限をかけている。

 自分が誰かを好きになってはいけないのだと、そう思っている。

 この思考が普通ではないことも、薄々分かっている。

 そんな誰にも話したことのない思考の片鱗を、よりにもよってニトラに聞かれることになってしまうとは、シシノは露ほど思っていなかった。

 だから、目を伏せていた。

 できれば誰にも話したくないことだった。

 声にするのが、誰かに聞かれることが――怖かったのだ。


 そんな風に意を決して語った話が終わったというのに、視聴覚室の中には沈黙が漂っていた。


 ――なんで黙ってる? こいつは今の話を聞いて何を考えてんだ?


 シシノは気になって、恐る恐る顔を上げる。


「な、なんだよニトラ……その目は……!」


 シシノの目に映ったのは、ニトラがこっちを哀れむような目で見る姿だった。


「……要するに君は、自分の心に嘘をつく卑怯者なんだな」


「な……っ!」


「それにさ、その考えは重いよ。もっとシンプルに考えればいいのに、余計なことばっかり考えてる。そんなんだから友達できないんじゃないの?」


「……………………っ!」


 ニトラの言葉を、否定できなかった。

 いつだか、ラビコのドッペルゲンガーにもそう言われた――「重い」と。

 あの時彼女は「それは悪いことではない」と言ったが、今言われたのはその真逆の意見だ。

 そのニトラの言葉は、シシノの胸に突き刺さった。それが正しい意見なのだと納得してしまうほどに――。


「……そうかもしれねえな。けど、今はこの考えは変えられねえ」


 苦い顔をしながらシシノは呟いた。

 そう、変えられない。

 たとえ重くても、逃げているようでも、自分の心はそう簡単に変えられない。

 ニトラはそんな呟きを聞くと、勝ち誇ったような顔をしながら語り出す。


「あっそ……まあ君がどんな考え方してるかなんて興味ないよ。まあとにかく、そんな曖昧な気持ちな君には、ぼくがシエラさんに近づくのを邪魔する資格はないってことさ」


「資格がない……?」


「ああそうさ。だからこれからは、おとなしく見ていてくれたまえよ。いいね?」


「いやだ」


「はっはっは、じゃあそういうことで……って、んん? 君、今なんて言った?」


 席を立ち上がりかけたニトラは、シシノの答えに耳を疑って訊き直した。

 だが、シシノの回答は変わらない。


「聞こえなかったならもっかい言ってやるよ。嫌だっつってんだよ」


「……今までの話聞いてた? シエラさんを好きだと言えないなら、君にぼくを邪魔する資格は……」


「資格? んなもん、好きだとかそういうこと以前に、おれとシエラは友達なんだよ。友達に悪い虫がつくのを黙って見てるわけにはいかねえだろ?」


 シシノがそう言った瞬間、ニトラの(ひたい)に青筋が浮かぶ。


「……ちょっと待て。悪い虫ってなんのことかな?」


「ニトラ君のことだよ? 分からなかったかい?」


「ぐぬぬ、喋り方真似するな……! 余計なお世話なんだよ、そういうのが重いっていうんだ! 女友達の色恋沙汰に首を突っ込むなよ!」


「重くて結構! しかしお前、もしミナモちゃんが発情期の暴れチンパンジーに求愛されてたら助けねえのか? それを阻止することは間違いか? それとおんなじなんだよ、今の状況は!」


「誰が暴れチンパンジーだ‼︎ 全然違うじゃないか!」


「おんなじだろうが! お前、理性なくして人に襲いかかるようなバーサーカーじゃねえか! そんなやつをシエラに近づけさせるか!」


「あ、あの時は君がムカつくような行動をとったから仕方がなかっただろ!」


「あぁ⁉︎ 人のせいにすんじゃねえよ暴れチンパンジー!」


 ――勝った! 痛いところを突いてやったぜ!


 シシノが言い放つと、ニトラは俯いた。

 突然始まったその激しい口論は、シシノのその一言で終わりを迎えた……と思いきや、そんなことは全然全くなかった。

 ニトラはゆっくりと顔を上げると、小馬鹿にしたような顔でシシノに向かって呟く。


「……うるさいなヘヴィー級メンヘラボッチ。少し静かにしなよ」


「……な、なんつった?」


「ヘヴィー級メンヘラボッチ、だ! いちいち重たいメンヘラ思考の友達いないボッチな君には相応しい称号だろう!」


「そ、そんな悪口初めて聞いたぞこのやろー……!」


「はははァ! 今思いついたからなァ! 光栄に思いなよ……!」


 二人はお互いの胸ぐらを掴み、睨み合った。

 もはや衝突は避けられない、いや、もう衝突してしまっているが、その勢いはヒートアップしていくばかりだ。


「大体、おれのことボッチボッチ言うけどよお! お前友達いんのか⁉︎ お前が友達といるとこ見たことねえぞ⁉︎」


「はっはっはァ! ぼくにはぼくを好いてくれる女の子達がいるから、そんなものは必要ないのさ! 悪いけどぼくはモテるんでね!」


「あぁ⁉︎ シエラが好きなら、その子達をはべらすんじゃねえよ! さっさと振れ!」


「……はははっ!」 


「あ、テメッ、笑って誤魔化すなよ!」


「そんなことより気になってるんだけど、君いつもどこで誰とお弁当食べてるのかなあ⁉︎ シエラさんは他の友達と食べてるよねえ、その間君はどこにいるんだい⁉︎」


「ぬぁぁぁあ! 誰も寄り付かねえ屋上近くの自販機の横だぁ! 文句あっかぁ!」


「あれぇ⁉︎ なんでそんなとこで食べてるのかなあ⁉︎ あ、ごめん友達全くいないからだよね、そうだよねえ!」


「全くじゃねえ! シエラとミナモちゃんと……!」


「と……? あれ? いるのかい? 他にいるの? 本当かい?」


「と……! あ、あと……!」


 言葉に詰まるシシノに、ニトラは猟奇的な笑みを浮かべて問い詰める。

 シシノの脳裏に浮かぶ友達と呼べる人物は、シエラとミナモの二人だけだ。

 勢いと強がりで、もう一人名前を上げようとしてしまったが、それが裏目に出てしまった。

 この口論は(はた)から見ればあまりにくだらないものだが、それでも負けることはシシノにとって屈辱で、今の状況は非常にまずい。


 ――誰か、誰か……助けてくれ……!


 シシノがついに誰かに願った時――視聴覚室の扉が、勢いよく開いた。

 胸ぐらを掴み合っていた二人は、思わずその方向に注目する。


「聞きたまえ二人とも。俺とシシノ君は、確かにまだ友達になれていないかもしれない……だが、今日これからは違うかもしれない」


 廊下の窓から射す陽の光が逆光となって、歩み寄ってくる人物の顔がよく見えない。

 しかし、その目――いや、眼鏡のレンズだけが光輝いている。


「誰だ? 君は……」


 ニトラが尋ねると、目の前で歩みを止めた『彼』は、眼鏡をクイッと上げて名乗りを上げる。

 その顔は、逆光を浴びながらもよく見えるようになっていた。


「俺はエトウ・エイジ。女子からはこう呼ばれている……『エロウ・エロジ』とな」


 二人を見るエイジの堂々とした態度からか、シシノとニトラは、掴み合っていた胸ぐらを放して彼に向き合った。


「エイジ……? 何しに来たんだ?」


 シシノが尋ねると、エイジは呆れたように肩をすくめる。


「何って、今日はシシノ君と仲良くなろうというイベントなのだろう? だから俺も来たのだ」


「おお……! そうだったのか!」


「ああ、それに俺だけではない。……入れ皆んな!」


 エイジが号令をかけると、「ちょっと、ちょっと一人ずつって言ってんじゃん!」というミナモの焦った声と、むさ苦しいざわざわ声とともに、視聴覚室の中にぞろぞろと二年B組の男子生徒達が押し寄せてきた。


 ――な、何事っ……?


「クラスの男子をほとんど全員連れてきた」


 その威圧感にシシノが気圧(けお)されて唖然としていると、エイジは説明し始めた。


「いいかシシノ君。高校生男子というものは、ある話題なら大体大勢で盛り上がれるものなのだ。だから、一人一人などとまどろっこしい真似はせず、今ここで自分を解放すればいい」


「ある話題って……あ、恋バナか?」


 高校生が好む話題――ニトラがさっき言っていたことを思い出してそう答える。

 だがしかし、シシノにはその話題で持ち合わせている話がない。

 今さっきニトラとも噛み合わなかったところなので、シシノは少しばかり焦り始める。

 しかしエイジと、その後ろに並ぶ男子達は、呆れた顔で首を振った。


「おいおい、男子高校生が盛り上がる話といえば、一つしかないだろう。猥談(わいだん)だよ、猥談(わいだん)


「ワイ……?」

「ダン……?」


 シシノとニトラは顔を見合わせ、疑問符を並べた。

 それを見て、エイジは胸を張り高らかに言い直す。


「ああ、すなわち、エッチな話だ」

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