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KILLER × KILLER FALLs 【キラ×キラフォール】  作者: 赤澤阿礼
2nd falls 『燃え上がる/闇討ち』
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49話 ラビコとの休日

お目に止めていただき、ありがとうございます。

突然の大雪に見舞われた方、大丈夫だったでしょうか。外に出るときはお気をつけください。自分は滑って転びました。

 シシノが暮らす町の最寄駅から三駅、電車に揺られたところに繁華街はある。ソウフ線シバ駅を下りると、すぐにメインストリートが見え、その先には大型ショッピングモール「カホン」があるのだった。


「ほえ〜、賑やかッスね〜……」


 ラビコは物珍しそうに辺りを見回しながら、メインストリートを歩いていく。不安なのかシシノの服の裾を掴んで離さなかった。


「休日だからなぁ。ここには若者から家族連れまでいろんな人が集まるんだ。服屋もレストランも充実してるし……何よりここだ。ここに来りゃあ、なんでもできる」


 シシノとラビコは目の前の巨大な建物を見上げた。五階建てはありそうな高さで、横を見ても、その奥行きが見えない程に巨大なこの建物こそが「カホン」なのだった。


「でっかいッスね! これ全部お店なんスか⁉︎」


「おう。この中に服屋やら食べ物屋やらゲーセンやら映画館やら、はたまたちっちゃい遊園地まであるんだぜ」


 外観を眺めているだけでも、ラビコはとても楽しそうだ。瞳を輝かせ感嘆の声を上げている。


「そんなにいろいろあるんじゃ、どこへ行けばいいのか分かんないッスよお!」


 困ったように足踏みしながら、シシノの方を見るラビコ。やりたいことがたくさんあるのだろう。

 だが、ここはカホンで、時間はたっぷりあるのだ。シシノはやれやれと首を振りーー。


「ラビコ、やりたいことは全部やっちまおう。今日は休日で、お前は自由だ。時間もたっぷりあるんだぜ」


 不敵な笑みでラビコを見下ろし、ラビコの欲を刺激した。

 その言葉にラビコは「ふんっ」と大きく鼻から息を吐き出し、気合が入ったような素振りをする。


「じゃあ、じゃあ! まずはその、ゲーセンってやつに行ってみたいッス!」


「おうよ! じゃあ早速乗り込もうぜ!」


 シシノはラビコの手を引いて、カホンの中へ入っていく。

 ここはワンダーランド。なんでも揃う夢のデパート。しかしここでの買い物は、遊戯は、決して夢なんかではない。

 楽しい休日を約束するーー。それがカホンのキャッチフレーズなのだった。


 ~~~


 それは、本当に楽しいひと時だった。

 ゲームセンターでは様々なゲームをプレイした。エアホッケーで競い合い、ガンシューティングゲームで協力し合い、クレーンゲームで一喜一憂したりした。

 ラビコの表情はコロコロ変わる。競い合えばムキになって頰を膨らませ、協力プレイがうまくいけば笑顔が弾ける。クレーンゲームの景品が惜しいところで落ちてしまうと、世界の終わりのような落胆を見せてくれた。

 シシノもムキになって、クレーンゲームで散財した。普段の節約でたまりにたまった財産を、ここで使い切らんとする勢いだった。

 やっとの思いで取れた小さなネヌの人形に、ラビコは今までで一番の笑顔を見せてくれた。だから、その笑顔を買えたと思えば、消えていった(さつ)の数枚など安いものだった。


 他にもいろいろなところを見て回った。

 服屋に連れていくと、ラビコはキョロキョロと目を回した。「おしゃれなんてしたことがないから、分からないッス」と照れるように笑うラビコに、シシノも知識が無いながら、いろいろな服を選んでラビコに試着させた。そのダボダボの外套(がいとう)以外にも、服を持っているべきだと思ったのだ。そしてどうせなら、ラビコに似合う服を買ってやりたかった。

 途中から店員さんも交えて、何度も何度も試着を繰り返し、ラビコに似合う服を探した。

 最初は戸惑っていたラビコだったが、次第に楽しくなってきたのか、カーテンを開けて服を披露するたびに得意げに笑みを浮かべるようになった。

 どうやらボーイッシュなものを好むようで、ラビコが気に入ったものを数着購入した。

 そこからは早速新しい服に着替えて、専門店を回り始めた。


 中でもラビコが特に楽しそうにしていたのは、ペットショップだった。

 犬や猫、金魚から爬虫類まで、様々な動物がいるカホンのペットショップは、まるで動物園のようだ。


「ラビコ、動物好きなのか?」


「はいっ! アニマル大好きッス! 特にもふもふしてる動物が大好きッス! この子みたいに!」


 ラビコはその腕に抱きかかえている、さっきのクレーンゲームで取った人形をシシノに突き出す。


「でもこの子、なんの動物なんスか? 犬にしても猫にしても、なんか違うッスよ」


「ああ、そいつはネヌだ。ナヴァロッカにはいないんだよな。ほら、そこのケージにもいるぞ」


 シシノは様々な品種のネヌが並ぶケージを指差した。

 ラビコは小走りでそのケージまで近づくと、驚きと感動が入り混じった表情で、ケージの中にいるネヌを見た。


「な、なんスかこの子たちはっ! 猫のようであり犬のようでもある……欲張りアニマルッス!」


「それがネヌだ。うちのアパートにもいるぞ」


「本当ッスか? 帰ったらもふもふさせてくださいッス!」


「ああ。気まぐれなやつだから、いたりいなかったりするけど、ご飯を皿に盛れば確実にやってくる。腹を撫でられるのが好きなんだぜ」


 ラビコはふんふんと興奮気味に頷いて、再びペットショップを回り始めた。

 動物を見るラビコの表情は、とても優しく、慈悲に溢れている。

 動物に優しい人間は、きっと心の根っこの部分から優しいのだと、シシノはそう思っている。だからそんなラビコに、シシノはより一層の好感を持つのだった。


 ~~~


 遊んだ。遊び尽くした。

 ゲームセンター、ショッピング、ペットショップ、屋上のミニ遊園地、本屋、楽器屋、エトセトラエトセトラ……。映画館はまた今度ということにしたが、シシノとラビコは、このカホン内で楽しめる娯楽を、ほとんどと言っていいほど制覇した。

 遊び疲れた二人は、フードコートで一服しているところだ。


「いやあ、楽しんだッスよ。本当に、本当に楽しんだッス」


 クレープを頬張りながら、満足そうに笑うラビコに、シシノの表情も(ほころ)んだ。


「そりゃよかったな」


「はいッス! こんな可愛い服まで買ってくれて、ありがとうッス!」


 クレープを持ったまま立ち上がり、ラビコはくるりとその場で一回転する。

 頭にはふんわりと乗ったキャップ、オーバーサイズのTシャツを、口の広いハーフパンツにインして、薄手のデニムコートを羽織るファッションは、ボーイッシュながらも女の子らしさを失っておらず、可愛らしい。そしてなによりラビコに似合っている。


「キッズサイズだけどな」


「んぎゃっ、それは言わないでほしいッス」


 ラビコはとても十四歳には見えない程小さい。そのため当然服のサイズも、小学校五年生くらいの子供にオススメのキッズサイズなのだった。


「これからなんス……! 自分はこれから成長するんス……! 女性ホルモンが頑張ってくれるはずッス……!」


 座り直して机に突っ伏し、クレープをパクつくラビコ。


「ホイップクリームの乳成分で、成長を促すッス。特におっぱい」


「おっ……⁉︎ お前、そんなの気にしてんのか?」


「気にするッス……。シエラちゃんくらいには大きくなりたいッスね」


 シシノはシエラの胸の大きさを思い出し、頭の中に描き出す。


 ーーなるほど、思い返してみれば確かに、割と()()ほうだな……。


「お兄さんもシエラちゃんのおっぱい好きでしょ?」


「確かに、あれはいいものだ……って、はっ⁉︎」


 自分がまた口走ってしまっていることに気がついて顔を上げる。また口車に乗せられてしまった。

 ラビコがシシノを見る目は、痛々しいものを見るような、別の生き物を見るような、そんな目だった。


「やっぱお兄さん、スケベッスね……」


「目的はなんだ……? おれにスケベな発言を誘導する目的は……? 気まずくなるだけだと気づかないのか?」


「いや、誘導も何もただ訊いただけじゃないッスか……お兄さんが普段からスケベなこと考えてるからそんな答えになるんスよ」


「ぐぬぬ……」


 ぐうの音も出ないとはまさにこの状態の事だ。シシノは自分自身のスケべさに腹立たしささえ覚えていた。


 ーーそれも、シエラに対して変な想像をしてしまうとは……。おれは最低だ。


 自分の顔面にパンチを食らわせてやりたい気持ちを抑える。公衆の面前で血を流すわけにはいかないからだ。


「まあそれは置いといて、とにかく今日はありがとうッスよお兄さん。自分はお礼しか言えないッス」


 置いといてくれるというラビコに、シシノは感謝した。しかしそういうラビコもシシノに感謝してると言う。


 ーー感謝のループ。美しいね。


「って、おれの方こそ、こんなに遊んだのは初めてだ。楽しかったぜラビコ、ありがとな」


「へえ、以外ッスね。お兄さん、遊び慣れてるのかと思ったッス」


「いやいや、だっておれ今まで友達なんていなかったからな。今だってシエラと、あと高校に一人いるぐらいだ」


「えっ……。なんか、ごめんなさいッス……」


 ラビコは憐れむような目をシシノに向けた。

 割と笑い話になるかと思ったのだが、全くならず、ラビコはとても申し訳なさそうにしている。


「ちょ、ちょいちょい、そんなにマジになるなよ。いや、友達いないのはマジだけど、ほらほら、おれ今楽しいぜ?」


 必死にフォローするも、強がりにしか聞こえない。ラビコは依然、シシノに憐れみの目を向けている。


「あー、ほら、おれの話はいいから、そうだ、ラビコは? ラビコの友達は……」


 言いかけて、「しまった」と、自分の口を手で塞いだ。

 これは、そんなに簡単に訊いていい事なのか。

 あのシエラですら、ナヴァロッカにいた時には友達がいなかったのだ。ラッカフルリルという集団の中にいる人間は、もしかしたら孤独なのかもしれない。

 それに、もしナヴァロッカに友達がいたとしても、今ここに、ラビコが野強羅(やごうら)の地に立っているということは、その友達とは二度と会えないかもしれないではないか。だとしたら、それほど悲しいことはない。

 自分の質問の浅はかさに、シシノは悔いるばかりだった。

 しかしラビコはそんな質問に気分を悪くした様子もなくーー。


「自分に友達ッスか? いやあ、いたんスけど、みんな死んじゃったッス」


 からからと、笑いながら、そんなことを言うのだった。

 当たり前のように、軽い笑い話のように語る様が、酷く(いびつ)で、悲しく思えた。


「いや、ごめんラビコ。悲しいことを思い出させたな……」


 嫌な汗が噴き出す。動悸がしてくる。

 だって、悲しくないはずがない。友達が死んだなどと、そんなことを笑って言えるはずがない。

 しかしそんなシシノの考えは、この一見平和な星で暮らしているからこそなのだった。


「謝ることないッスよ、お兄さん。ナヴァロッカじゃよくあることッス。自分の住んでた町に、なんか悪い人がいたんですって。それで町ごと、粛清されたんスよ。……だから、自分の命があるだけでも奇跡なんス」


 それは、そんなのは強がりだと、シシノはまた悲しくなった。

 それでもラビコは笑っている。優しい笑顔を浮かべて、何かを思い出すように語り出す。


「それに、それでも自分は一人じゃないんス。友達がいなくても、ナヴァロッカを離れても、違う星にいても、自分には繋がりがあるんス」


「繋がり……?」


「はいッス。……信じてもらえないかもしれないッスけど、えっと……言いづらいッスね」


 言いかけて、ラビコは照れるように笑う。そんなことをされたら、シシノはその言葉の先が気になってしまう。


「なんだよ、大丈夫だって、言ってみろよ」


 ーー何を言われても信じよう。


 ラビコがこんなに躊躇(ためら)って言おうとしていることが、嘘のはずがない。そう信じて疑わなかった。

 ラビコはその言葉に安心したように笑うと、内緒話をするように、シシノの耳元に口を近づける。


「実は自分、神様の声が聞こえるんスよ」


 それはあまりにぶっ飛んだ発言で、シシノの思考はほんの一瞬、フリーズした。

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