38話 喧嘩宣言
お目に止めていただきありがとうございます。
また、お待ちいただいていた方々、お待たせしました。
しかし今回は短めです。というのも、月曜に始まった体調不良(頭痛)が未だ続いておりまして、普段の文字量で書くことが困難だったためです。すみません。。
早く治します!
皆さんも風邪など、お気をつけください。手洗いうがいをしっかりして、あったかいものを食べてください!
正直なところ、シシノはニトラの事をよく思っていない。それどころか嫌いだと言えるかもしれない。
それは単に殺されかけたからではなく、むしろその事についてはあまり関係がないところで、シシノはニトラに対して敵対心が湧くのだった。
それがニトラの喋り方なのか、性格なのか、何がそう思わせるのかは分からないが、なんにせよ「こいつには負けたくない」という敵対心、いや対抗心がシシノの胸の内に沸々と湧き上がるのだ。
シシノとニトラは依然睨み合い、今にも殴り合いでも始まりそうな緊張感が続いていた。
だが、そのときーー。
「はいは〜い、なんかよくわかんないけど喧嘩しないの」
二人の間にミナモが割って入った。
「ニトラ、シエラちゃんと喋りに来たんでしょ? 昼休みももう終わりそうだし、喧嘩売ってる場合じゃないんじゃない?」
凛とした表情でニトラを見据えるミナモ。殺伐とした空気に支配されていた場は、ミナモの言動によってその主導権を変えられた。
ニトラを呼び捨てにしているのを見るに、二人はどうやら見知った顔同士のようだ。その関係性やパワーバランスは良く分からないが、ミナモに睨まれて、ニトラが一歩後ろへ下がったことから見るに、どうやら少しばかりミナモの方が優位に立った関係だと推測できる。
「相変わらず怖いなミナモちゃん。そうとも、ぼくはシエラちゃんの噂を聞きつけてやって来ただけさ。……シエラちゃんの隣に凶悪な顔の転校生がくっついているなんて噂を聞いて、気になってやってきたなんてわけでは、決して、決してないんだからな」
「…………」
シシノ、シエラ、ミナモの三人は、その言葉に目を細めた。いわゆるジト目というものである。その下手な誤魔化し方は、どう聞いても、後から言ったことが本当の理由にしか聞こえない。
「わたし知ってるこういうの。テレビで見たよ、確か……ツン、デレ?」
人差し指を突き立て、思い出すような仕草をするシエラ。
シシノはそんなシエラの言葉に、「うげっ」と一言、舌を出し胸を押さえ、気分が悪いという態度をとった。
一方でニトラは、張り付いたような笑顔を引きつらせ、眉毛をひくひくと動かしていた。
「シエラさん、それは違うよ。本当に違うまったくもって違う。ぼくはデレてなんかない。こんなやつに媚びることなんてするもんか」
そんなニトラの発言を聞いて、怒り心頭、シシノの額に血管が浮き上がる。
「こっちこそ願い下げだ。お前みたいなやつに懐かれたらたまったもんじゃねえ」
両者は再び睨み合い、肩と頭を上下させながらお互いの距離を縮めていった。再び、一触即発という雰囲気が拡がった。
その様子をキョトンとした表情で見るシエラと、呆れたように手で頭を押さえ、ため息をつくミナモ。
「はあ……もうなんなのあんた達。喧嘩なら他所でやってよね。ニトラさ、シエラちゃんに用がないならさっさと教室戻んなよ」
「しっしっ」と追い払う仕草をするミナモ。場を収めようとした発言だったが、しかしそれは火種に油を注ぐ結果となった。
「ごめんねミナモちゃん、シエラさん! ぼくは本当にシエラさんに会いにきたんだけど、このヤンキーくずれが突っかかってくるもんだからさぁ!」
その白と黒が入り混じった頭部をシシノの額にグリグリと押し付けながら、ドスのきいた声で言葉を発するニトラ。
当然シシノはニトラの言葉に噛み付いた。
「あぁ⁉︎ 突っかかってきてんのはお前の方だろうが、シマウマみてえな頭しやがって」
「し、シマウマだとぉ? その例えは美しくない。ホワイトタイガーのようだと言え!」
「言わねえ〜よ、シマウマ野郎ォ」
「あ?」とシシノの胸ぐらを掴むニトラ。
そして「お?」とニトラの胸ぐらを掴み返すシシノ。
ついに取っ組み合いの喧嘩が始まるかと思われたそのときーー。
ーーキーンコーンカーンコーン。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。五分後には授業が始まってしまう。
「……どうするヒノミヤ・シシノ。ぼくはもはや五限目の授業などどうでもいい。すぐにでもこの間の決着をつけてやってもいいぞ」
シシノの胸ぐらを掴む手の力を強めるニトラ。その目には隠すつもりもない敵意が込められている。
それはシシノも同じだった。目の前のニトラを、通常の三倍増しで厳しい目つきで睨みつける。
「上等だ。屋上出るかマミヤ・ニトラ。今度は一発ですまさな痛ぁあっ!」
突然頭頂部に衝撃が走って、シシノの啖呵は遮られた。
シエラがシシノの頭頂部にチョップを喰らわせたのである。その勢いは凄まじく、目を凝らせばチョップされた箇所から煙が昇っているようにも見えるほどだった。
「いってててて、何すんだよシエラ」
「何すんだよじゃなーい!」
頭を押さえるシシノの顔に、ずずいと顔を近づけ詰め寄るシエラ。
「シシノさっき自分で言ってたでしょ、授業をサボるのはダメだって!」
「いやでもよ……」
「でもも桃もなーい! シシノは一時の感情で、自分の言った事を捻じ曲げるような人間なの?」
確かにそうだ。先ほどシエラに偉そうに言ってしまったばかりだった。シエラがその言葉を守ろうとしているのに、自分が守れなくてどうするのかと、シシノは考えて、冷静さを取り戻した。
「そうだな、ありがとよ」と、シエラに一言礼を言って、ニトラの方へ振り向くシシノ。
「てな訳で喧嘩はお預けだ。お前も授業ちゃんと受けろよ。……じゃあシエラ、ミナモちゃん、教室戻ろうぜ」
そう言ってシエラ、ミナモとともに視聴覚室を後にしようとする。
だが、ニトラの目には未だ敵意が燃え上がっている。
「ちょっと待てヒノミヤ・シシノ。ぼくはこのままじゃ気が収まらない」
扉に手をかけた背中に声をかけられて、シシノは再び敵意を浮かべ、ニトラの方へ振り向いた。
「だったら放課後だ。放課後校門で待つ。どこかで白黒つけるぞ」
「望むところだよ。……逃げるんじゃないぞ」
「それはこっちのセリフだこの野郎」
開いた扉をわざと勢いよく閉め、大きな音を立てる。最後までニトラに嫌な思いをさせてやりたかった。
ーー今のは嫌だったろ、しめしめ。
そんな事を考えて凶悪な笑みを浮かべるシシノ。
「ほんと、どこで何があってそんな仲悪いのよあんた達……」
そんなシシノを見て、ミナモは頭を押さえるのだった。




