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KILLER × KILLER FALLs 【キラ×キラフォール】  作者: 赤澤阿礼
2nd falls 『燃え上がる/闇討ち』
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32話 ラッキースケベはシーツ越しに

「シシノ様、次の学校が決まりましたよ」


「はっや!」


 シシノが「まだ学校に通いたい」と宣言してから、数時間後の昼食の時間だった。四人が食卓を囲む中、ネネさんは世間話でもするかのように、お漬物に箸を伸ばしながら、さらりと言ってのけるのだった。


「って、本当ですかネネさん⁉︎」


 向かい合った位置に座っていたシシノが、テーブルに手をつき前のめりに詰め寄る。その様子を、ネネさんはお漬物をポリポリと頬張りながら、無表情で見つめていた。そして上品に飲み込むと、「お行儀が悪いですよシシノ様、落ち着いて座ってください」と一喝する。


 注意されて元のように座り直すシシノ。それを見て、話を続ける準備が整ったとばかりに、ネネさんは皆を見渡した後、シシノの方へ向き合った。その表情を見るに、どうやら、そう楽しい話ではないようだ。


「はい。本当のことです。申し上げにくい事なのですが……次の学校は、シシノ様ご自身で選んでいただくことが出来ませんでした」


「それは……仕方ないことだと思います。でもネネさんが選んでくれたんなら安心です」


 シシノがそう言うと、ネネさんは少し俯き、申し訳なさそうに呟く。


「それが……決めたのは、私ではないのです」


 シシノはそれで気がついた。いくらネネさんでも、ここまで仕事が早いわけがない。特に今回は、学校を選ぶというのだから、ネネさんならばシシノの意見を汲むはずだ。今回の仕事は早ければいいということではない。


「……それじゃあ次の学校を決めたのは……」


「……はい。機関です。この異常な早さから推測するに、前もってシシノ様が次に通う学校を決めていたのでしょうね。……シシノ様の心境を、考えなかったのでしょうか……私が、もっと出世していればこんなことには……っ」


「そんなことねえよネネさん。ありがとう」


 自責するネネさんを、シシノはそう言って止める。自分のことでこんなにも真剣になってくれるネネさんに、心から感謝していた。


「機関が決めたとか関係ないですよ。そこがどんな学校だろうと、おれは今度こそ楽しみたい。……皆と仲良くしたいです」


 胸を張って言う。そんなシシノの様子を見て、ネネさんの曇っていた表情が、晴れやかなものに変わっていった。


「……本当に、良い心持ちになりましたねシシノ様。そう言っていただけたら、私も安心して送り出せます」


 ネネさんは胸に手を当てそう言った。その声には安堵と、そして温もりが表れていた。


 と、ここまでの会話に気を使っていたのであろう、黙って様子を見ていたシエラとデオドラだったのだが、話がうまくまとまったと見て、デオドラが「パンッ」と一つ手を叩いた。


「ぼくはァ、シシノくんが元気になって、とォっても嬉しいィ。学校に再び通いたいという決意も、とてもいいものだァ。ぼくは心から応援したいィ。……それでここでェ、シエラ様からネネさんに、ひとつお願いがあるそうなのです。聞いてもらえますかァ?」


「はい。何なりと申しつけてほしいですが……改まって、どういうご用件でしょうか?」


 デオドラの言葉に答えるネネさんだったが、このタイミングでお願いごとがあるという話に、少し疑問と困惑を感じているようだった。

 シエラは、隣に座るネネさんの耳元に口を近づける。


「まだシシノにはナイショにしてほしいんだけど、ごにょごにょ……」


 いったい何を内緒にしておきたいというのだろうか。シシノは気になって耳をすませたが、そのひそひそ声は聞き取ることができなかった。

 シエラの言葉を聞いている間、ネネさんの表情はみるみる楽しそうなものになっていく。それを見てシシノは、なおさらその話の内容が気になってきた。


「な、なあ、何をお願いしてるんだ?」


 つい尋ねてしまう。するとそのタイミングで話は終わったようで、シエラはネネさんの耳元から顔を離した。

 二人はシシノを見てクスクス笑っている。


「シエラ様、このお願い、私がなんとかしてみせます。それまではシシノ様には内緒です」


「本当? やったやった! ありがとうネネさん!」


「ふふっ。これは……面白くなりそうですね。きっと驚くと思いますよ……」


 二人は顔を見合わせるたびにクスクスと笑いあい、手やら肩やらを触りあっている。シシノは、なんだか教室でよく見るような光景だなと思った。こういうのを俗に、キャピキャピしていると言うのだろう。

 二人のはしゃぐ様子を、シシノとデオドラはしばらく黙って見つめるのだった。


「なんだかいいですねェシシノくゥん。……僕たちもじゃれあいますゥ?」


「いや、結構だ」


 デオドラの提案をバッサリ切り捨てながら、シエラが何をお願いしたのかが気になって仕方がないシシノだった。


 ~~~


「来週の月曜、か……」


 シシノは庭に寝転がるチャッピーを撫で回しながら、空を見て呟いた。

 何が来週の月曜かといえば、次の学校へ転入する日のことである。あの後ネネさんに告げられたのは、転入の日程と学校の名前と場所、そして制服が週末に届くということだった。

 当然の事ながら、シシノは今から緊張していた。形はどうあれ転校するということは、小中と学校へ通っていなかったシシノにとって、初めての経験だ。心の準備をするという意味では、一週間という期間はちょうどいいかもしれない。


「お前は気楽そうでいいなぁチャッピー」


 ゴロゴロと心地好さそうに喉を鳴らしているチャッピーに、シシノは現実逃避するように語りかける。


 ーーしかし機関が用意した学校か……まともな学校だといいけど……。


『私立螢火(ほたるび)高校』。それがシシノが次に通う学校の名前だった。名前くらいは聞いたことがある。シシノが知る限りは普通の学校で、このアパートからもバスを使えば、そう時間はかからないはずだ。

 だが、やはり不安はある。機関が用意したということは、何か裏があるのではと疑ってしまう。


「って、いけねえいけねえ。そんなの関係ねえって、さっき言ったじゃねえか」


 ぼやいて疑念を払うように首を振る。


 ーーそうだ、次は皆と仲良く、楽しいスクールライフを送るんだ!


 たとえ機関が何かをしていたとしても、それはもう気にしないことにしようと、シシノはそう決めていた。


「それにしても……」と呟きながら、寝転がるチャッピーを見て思う。やはり動物が身近にいるというのは癒される。チャッピーを撫でていると、シシノは心の引っ掛かりが薄らいでいくのを感じていた。これがアニマルセラピーというものなのだろう。


 ーーしかし、こう、なんというか……。


 シシノの気持ちがお分かりだろうか。動物を撫でていると、抱きつきたくなる衝動が襲いかかってくるものである。ムラムラとしたものに近いこの衝動を、シシノは抑えることができなかった。

 「ガバチョ」と一声あげて、チャッピーに飛びかかる。するとチャッピーは「ビャオフっ」と驚いた声をあげ、シシノの顔にネヌパンチ(肉球の感触を感じられるのでネヌ好きにとってはご褒美だ)をかますと、走り去ってしまった。

 衝動を抑えきれなかったことに少し後悔するのと同時に、まあ仕方がないかという気持ちで、走り去るチャッピーを悲しげな目で見つめるシシノ。だが、その走り去る先を見て、これはまずいと感じて、シシノは一気に冷や汗をかいた。

 チャッピーは洗濯物を干すネネさんの後ろ姿に向かって走っていたのだ。

 その気配を感じ取ったのか、素早い動作で振り向くネネさん。その目にチャッピーが突撃してくる姿を確認すると、目を丸くして「ひゃあっ」と一声、そしてバランスを崩し、物干し竿にかけてあった白いシーツを手に掴む。ネネさんはそのシーツを頭から被る形になった。まるで昔ながらのお化けのような姿になってしまったネネさんは、前が見えず、チャッピーが屋根の方へ行ってしまったことに気がついていないようで、パニックになって、シーツを被ったまま走り出した。


「ひいいぃ。シシノ様ああぁ」


 走る方向はシシノの方だった。前が見えていないので、おぼつかない足取りだ。白い塊が(うごめ)きながらこちらへ近づいてくるというのはなかなかの迫力で、シシノは思わずビビって動けなくなった。そしてそのまま、白い塊となったネネさんはシシノに激突し、二人は重なるような形で倒れ込んだ。


「い、痛つつつつ……」


 シシノは、身体の上にのしかかるネネさんの重さから逃れようとして、その手のひらに、指に、力を込める。するとネネさんが甘い声をあげた。


「ひゃんっ。どこを触っているのですシシノ様」


「わかりません! どっ、どこを触ったんですかおれは!」


 どうやらシーツ越しに、とんでもない部位を触ってしまったらしい。すぐさま手を離し、地面を転がり、ネネさんの下から抜け出した。

 下にいたシシノが抜け出たことで、ネネさんは地面に転がったが、どうやら落ち着いたようで、被っていたシーツを自分の手で引き剥がした。


「シシノ様もお年頃ですね……。私は構いませんよ」


 シーツの上にぺたんと座り込み、頬を染めシシノを見つめるネネさん。その様子は本気なのだか、からかっているのだか分からない。


 ーー構いませんよって……なにが⁉︎


 シシノがお年頃だというのはその通りだ。全くもって健全なお年頃ボーイのシシノは、ネネさんの言葉に揺らいでいた。

 手をわきわきと動かしながらネネさんに近づいていく。自制心とお年頃の欲求がせめぎ合い、そして息遣いに上下するネネさんのその胸元へ手を伸ばすとーー。


「うおおおおおおおおっ!」


 と叫び、手を引っ込め自分の顔をぶん殴った。自制心の勝利だ。


「な、なにしてるんですかシシノ様……」


 ネネさんは、目の前のシシノの行動に目を丸くしていた。殴った威力は相当なものだった。商店街で不良をバイクからぶっ飛ばしたときと同じくらいの力だろうか、ともかくシシノは地面に転がっていた。


 ーー危うく手を出すところだった。ネネさんは姉のような存在だというのに、まるで今の自分の行動は獣だ。我は獣なり。我は獣なり。


「我は獣なりいいいい!」


 思わず自責の言葉を口に叫んでしまった。それを聞いてネネさんはビクッと肩を震わせた。


「し、シシノ様、からかってすみません。ですからどうか正気にお戻りください」


 気でも触れたかと思って、倒れ込んだシシノの身体を揺らすネネさん。


 ーーからかってたのか。よかった揉まなくて。


 なにをとは言わないが、とにかく揉まなくてよかったのだ 。

 チャッピーに飛びかかったことが思わぬ騒ぎになってしまった。軽はずみな行動は何につながるか分からない。シシノはこれからの自分の行動は、よく考えてから行おうと心に決めたのだった。


 ~~~


 今日はシシノが夕飯の当番を務める日だった。手際よく準備を進めていくシシノを、シエラとデオドラは感心するように見つめていた。


「シシノ、すごい」


「はいィ。ネネさんに引けを取っていなァい。一家に一台欲しいところですねェ。」


「おれは家電かよ」


 後ろからやいやいと飛んでくる言葉にツッコミを入れる。シシノはやりづらさを感じていた。


「というか、家事は当番制なんだねこの家。そういえばシシノがいろいろしているところをちょくちょく見ていたような気がするよ」


 シエラは壁に掛けられたホワイトボードを見ていた。そこにはシシノとネネさんに振り分けられた、曜日ごとの様々な家事の分担が書かれていた。


「なんとォ、これはいけません。シエラ様ァ、置いてもらっている以上、我々も何かしなければァ」


「だよねデオドラ。よく言いました。今日はこのアパートでの私たちの働きについて話し合おう。シシノ、話が弾む素敵なお料理をお願いね」


「……はいはい、すぐできますよーっと」


 また何やら騒がしい話になりそうだと、シシノは半ば呆れ気味にフライパンを振るのだった。

お読みいただきありがとうございます!


明確なラッキースケベはこれが初めてな気がしますね。記念すべき初ラッキースケベでしょう。



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