18話 四人の決意表明
「えェ、正直に言いましょォ。追っ手は確実に来ます。シエラ様は、この先も狙われ続けます。ホムラノミヤ機関のこともありますがァ……象徴であり、優秀なメンバーであるシエラ様がいなくなったと広まれば、ラッカフルリルはその信用を失います」
一切の誤魔化しなく、デオドラはネネさんの質問に答えた。
「その追っ手は、シエラ様の居場所を特定できるのですか? まず、デオドラさんは、どうやってシエラ様を見つけたのです?」
ネネさんの疑問はもっともだった。この広い世界中でたった一人の人間を探し出すことなど、元々居場所が分かっていなければ不可能に近い。
逆に言えば、ラッカフルリルがシエラの居場所をさっぱり把握できないとなれば、シエラはほとんど自由の身と言える。シシノはデオドラの答えに淡い期待をしてしまう。
「お答えしましょォ。……まず、ボクがなぜこの町を特定できたか、というお話です。実はシエラ様がラッカフルリルから逃げ出す際に使った船は、元々行き先があの山の山頂に設定されていたのです。ですからァ、ボクも続いてこの町にやって来ることができたというわけなのですよォ」
「それで、どうやってシエラを見つけられたんだ?」
デオドラがこの町にやって来られた理由は分かった。だが、着陸の場所が特定できていたからと言って、せいぜい二日程度で町中から一人の人間を探しだすことも、相当に困難であるはずだ。
しかしデオドラはシシノの疑問に少し呆れたような表情をして答える。
「あのォ……あなたたちねェ、かくれんぼやら鬼ごっこやらしてたでしょォ。あれ、めちゃくちゃ目立ってましたからねェ。町の人たちが噂してましたからァ。簡単に見つけられましたよォ」
「「しまった! あれかぁ!」」
シシノとシエラは、口を揃える。確かに人目をはばかることなく二人は遊びに没頭していたのだが、まさかご近隣の方々の噂になってしまっていたとは思いもよらなかった。
「シエラ様もォ、はしゃいで技をお使いになっていたそうですねェ。いやはやァ、少しは警戒してくださいよォ。ビュンビュン飛び回ってちゃァ、そりゃァ目立ちますってェ」
「う……ごめんなさい。シシノに負けたくなくて……」
シエラはシュンと縮こまる。
いやはや、なんとも間抜けな理由で見つかってしまったものである。
と、コミカルな雰囲気に飲まれることなく、ネネさんはそんな話を聞き、何かを思案していた様子で口を開いた。
「シエラ様の着陸地点が特定されていたということは、今後やって来るラッカフルリルの方々も、まずはあの山の山頂に降り立つということになりますよね。それではやはり危険ではないですか?」
ネネさんの今後の展開の核心をつく一言に、場の空気は一瞬、絶望的なものへと変わった。
だが、デオドラはその答えも予想済みだというように、高らかにその意見を述べる。
「えェ、ですがァ、追っ手を撹乱する手立てはあるのですよォ」
「えっ!? マジかデオドラさん! どうやって!?」
デオドラの意見はまさに朗報と言える。シシノは否応無しに飛びついた。
「まァ慌てないでください。……ボクは実は、シエラ様を追うためにナヴァロッカから飛び出した際に、発信機のようなものを持たされたのです」
「そ、それじゃ、余計に細かくここが特定されちゃうんじゃねえか?」
朗報かと思いきやさらに追い詰められてしまうではないかと、シシノは疑問を露わにする。
「いえシシノ様、それを使えば追っ手を撹乱することができます」
ネネさんはその話の行き着く先を導き出したのか、手を突き出して得意げに語りだす。
ちなみにネネさんの趣味は、推理物小説を読むことだったりする。影響を受けやすい人なのだ。
「というのもその発信機、持たされたと言うからには、持ち運びができる物なのでしょう。つまり、その発信機をいろいろな所へ持って行きめちゃくちゃに移動してしまえば、居場所の特定はかなり難しいものになるということです」
「ご名答ォ! いやァさすがネネさん……。聡明でいらっしゃる」
まるで名探偵のように部屋をぐるぐると歩き回りながら語ったネネさんに、デオドラは拍手を交え、賞賛の言葉を送る。
「ですがァ、この案が実現できるかということにボクは少しィ心配がありますゥ。ネネさん、この星ではァ、海外へ自由に行き来できるのですかァ?」
一転デオドラは真面目な表情で質問を投げかけた。無理もない。彼はこの星のことを、ほとんどと言っていいほどに知らないのだ。この星の人々がどれほど自由なのかも、当然知らない。
ネネさんは、そんなデオドラの疑問に答える。
「ええ、そう厳しく取りしまわれてはいません。海外へ行くならば、基本は飛行機ですね。パスポートという、身分証明書のようなものが必要ですが、あとはその他になにか問題がなければ、割と自由に海外へ旅行することも可能です」
「ふゥむ……でしたら、ネネさんに折り入ってお願いがあるのですがァ、この発信機、いろいろな所へ持って行っていただくことは可能でしょうか? なるべく撹乱させられるよう、行動パターンも後々考えますので」
「そうですね、撹乱するのであれば、海外へ持っていくのも手です。ですが、パスポートを持っていないデオドラさんが飛行機を使うという状況も怪しまれてしまう可能性があるので、まあそれはこちらでいろいろ考えましょう。機関の者以外で動かせる人間に、持って行ってもらいます」
「なんとォ、ネネさんは、そんなにもいろいろな人間を動かせるお立場にいるのですかァ?」
ネネさんの口ぶりに、デオドラは驚きを隠せない様子だ。
「えぇ。先ほども言った通り、結構偉いですからね、私」
シシノは心強さを感じていた。やはり、ネネさんにも事実を伝えて正解だった。頼ってしまうのは申し訳ないが、それでも頼るのなら、やはりネネさんに並ぶほど心強い人はいない。
「ありがとうネネさん。それに、ごめんなさい。わたし達のために、そこまでしていただけるなんて……」
シシノが達成感のようなものを感じていた裏で、シエラはどうやら、肩身の狭い思いをしていた様子だ。申し訳なさげに、ネネさんに頭を下げていた。
「シエラ様、頭をお上げください。あなたはシシノ様のお友達なのですから、これくらいのことはさせていただきます」
頭を下げるシエラに、ネネさんはそんな言葉をかけた。
「ですが――」
何かを続けて言おうとするネネさんに、全員の視線が集まった。
「――ですが、追っ手を撹乱しても、ここへ辿り着く可能性は、ゼロではありません。そうなったとき、シエラ様はどうするおつもりですか?」
厳しい言葉を、シエラを真っ直ぐに見据えて投げかける。場の空気は凍りついたように冷たくなった。
だがシエラはそんなネネさんから目を逸らさず、真っ直ぐと見つめ返す。
「もちろんそのときは、わたしがシシノを守ります。ネネさんも守ります。守られるだけじゃダメだってことは分かっています。会ったばかりのわたしにここまでしてくれる二人を、傷つけたくありません」
ネネさんは見定めるように、シエラを見つめ続ける。
「何が返せるか分からないけど、わたしにできることなら、なんでもします。ネネさんのお手伝いだって、シシノのお手伝いだって、なんでもします。だから……」
「お風呂も一緒に入ってくれます?」
「は、えぇっ? いや、その、は、はい。それはもちろんですけど」
唐突なネネさんの質問に、シエラは調子を狂わされた様子だ。シシノとデオドラも耳を疑っていた。
一方ネネさんは、シエラの答えに満足した様子で、ニコニコと良い笑顔をしていた。本当に何を考えているのかわからない人である。
「はい、私はそれで納得しました」
ーーお風呂で納得しちゃうんだ。
シシノが半ば絶句していると、今度はデオドラが真面目な口ぶりで言葉を発した。
「ネネさんがご納得されたことは嬉しいですがァ、そもそも、シエラ様をここに留まらせようしたのは、シシノ君です。ですからボクからもォ、シシノ君に確認したいことがあります」
その剣幕にシシノは唾を飲み込む。だが、圧倒されてはいけないと心に言い聞かせ、デオドラの目を真っ直ぐに見る。
「はい。デオドラさん、なんでも言ってくれ」
「貴方はァ、シエラ様を守ってくれますか? 山での言葉通り、何があっても、貴方の身が傷ついても、守ってくれるのですかァ?」
覚悟は、とっくに決まっていた。だから、ただ決めたことを言うのみだ。
「おれはシエラを守る。死んでもだ」
死んでも。自分が死ぬ姿など想像もつかないが、その覚悟を示すためにそう言うのだった。
「んン、よろしいィ。ありがとうシシノ君」
そう言うとデオドラは立ち上がり、高らかに声を上げた。
「それではァ、ボクはシエラ様の味方であり、そしてシシノ君の味方にもなりましょォ」
その宣言に続くようにネネさんも立ち上がる。
「私も、シシノ様に仕えると共に、シエラ様の身の安全を守りましょう」
そこまでくると、シエラとシシノも立ち上がり、宣言する。
「おれはシエラを守る」
「そしてわたしがシシノを守ります」
四人はそれぞれ顔を見渡しあい、決意を固めあった。その表情は、それぞれへの信頼を示すかのように、笑顔の中に強さがあるものだった。
この夜の話し合いは、こうして終幕を迎えたのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
長い話し合いにお付き合いいただき、ありがとうございました。
ここらでひと段落して、章を作ろうと思っていたりします。
またこれからも、お付き合いいただけたら幸いです!




