詠う心
カラオケボックス・・・
もはや異世界の異次元だよ。
目の前には、僕の好きなお菓子があるのに、選曲といって画面をたたきぴぴぴっと音が鳴ったと思えば、あのテレビが動き出し音楽があらん限りに鳴り響く。
ぽきっと折れたままポッキッキーが空しくテーブルに散らかるけど、彼女たちのこの興奮はどこからくるんだ・・・
『ったい言わせてあげるんだからね! あ・い・し・てるぅ!ふぉ~!』
・・・・・・・・・
見たことがない楽器をリンちゃんがシャリンシャリンと叩いている。タンバリンというらしい・・・
これまた見たことがないカスタネットというものをカンカンと小気味よく叩く静さん。
二人ともこちらと景さんを交互に見ながら笑ってる。
理解不能というわけではない。
戦勝に浮かれた人は、その熱を収めるため、ねぎらうためそして思い偲ぶために、お酒を飲み、篝火をたき、踊り、歌い、泣き、叫び、そして眠る。
そういう文化はどこにでもあると思う。
けど室内で、しかもこんな設備で、素面で興奮できるのか・・・人間半端ないな。
エルフとして育った僕には分からないのか?といわれればそうでもない。
楽しいという雰囲気は十分伝わるし、心なしか音頭は景さんや、みんなにつられ体や首がふりふりと動いているから。
でも、こんなに楽しくて興奮することが許されるの?と思ってしまう。
エルフだって戦勝やお祝いでもやることはやる。
というより歌はエルフは評判が高く、吟遊詩人というジョブはほとんどの上位ランクはエルフというくらいだ。
でも、こんな派手なものではない。
テレビがあってのことだろうと思うけど、その音楽の多さだけではなく、調べも到底理解できるものではない。
癒やされるためなら、学校の掃除の時に流れていた音楽なのだろうと思っていた。
あれは癒やされた。思わず怒られるまで雑巾片手にぼーっとしてたくらい。
興奮するためなら、応援団というものや吹奏楽という部活のかたがた、あれは遠くで聞いていてもまだ理解の範疇であり尊敬に値する文化だった。
でもこれは・・・
「はぁ~すっきりした! 瑠音君、ちゃんときいてる?」
「しょうがないよぉ、初めてだしびっくりするんだよね?」
「外国の田舎のほうならまだないのかもしれない」
「ま~たそうやって甘やかす、静かはお母さんポジ?鈴はその背格好でまさかのお姉さんぽじ?」
「どういう意味・・・景はお兄さんで決定だけど」
「ひど! おれも仲間に入れてよぉ!」
「ねぇ瑠音君? 疲れちゃったかな? こういうの嫌い?」
静さんまでちょっと興奮しているように見える。近い・・・
「いえ、その皆さんの豹変振りに驚いてて・・・こういう場所とは理解しているんですけど、なぜそこまで気を高ぶれるのかが・・・」
「え? そんなのストレス発散もあるけど楽しむために決まってるジャン!」
「楽しむため・・・楽しむためだけですか?」
「いや、友好を深めるということもあるよ、こんな感じで」
「鈴!」
「あ、あの、えっと・・・怒られませんか?こういうのって、不謹慎というか・・」
「あらま、真面目だね!」
「真面目ですむような感じには見えないね」
「瑠音君って普段なにして遊んでいるの?」
「遊ぶ・・・遊んだことはあまりありません。海ではしゃいだことと、とても小さいころままごとや勇者ごっこはしたことありますが、兵暦が長かったこともあるので」
「へいれき? 兵暦って!こと!?」
「やっぱりなぁ~、只者じゃないと見た!」
「それは・・・辛かったね? わ、わたしじゃわからないけど」
「静のそういう分かってますよってのを出さないのは美徳だね!悪く思わないでよ?」
「はい・・・文化が違いますね」
「みんなそうなの?」
「いえ・・・僕は特別に育てられました」
「さっきのすごかったよね! タイルにひびが入ってたし、貫の境地かっておもった! それに見えなかったし!」
「でも、理論的にはおかしかったの・・・」
「体重とスピードだっけ?」
「おお、静、さすがただのお嬢様じゃない、有段者!」
「しー!」
「へいへい」
「瑠音君、子供はね、この国では働くことを禁じられてたり、学校に行く義務があったり。随分違うと思うよ。聞いてなかったけど、どこの国から来たの??」
「アルブのイルです・・・分からないと思うけど」
「聞いたことないけど・・・どこかにありそうね」
「・・・・・検索しないほうがいい」
「え?」
「鈴がそういうなら、静はしないほうがいいよ!」
「そこではないと思いますよ?」
「なら・・・いいけど」
鈴さんは日下部君と同じような仕草で携帯を触っていた。
僕の国を検索?という機能で調べているんだろうけど、無論この世界にはない・・・
「どちらにしてもさ! ここにきたってことは楽しもうよ! 徐々にでいいから!」
「そうだね! どう? 私、歌けっこう評判なんだよ?どうだった?」
「綺麗な歌声でした、少し幼すぎるような気もしましたが、静さんらしいかなと・・・」
「そ、そうかぁ「「わたしは!」」」
「鈴ちゃんは逆に大人びすぎているような気がしたけど、背伸びしてる感じが可愛かったです」
「か、かわいい・・・でも、わたしも17・・・」
「え!?」
「あははは!!わたしはどうだった?」
「景さんは、なんというか・・・景さんでした」
「それじゃわかんないよぉ!」
「なんか歌って・・・年相応ってのを見せてもらいましょう」
「鈴ちゃんナイス」
「ちゃんは瑠音君だけ許してるから景はいわないで」
「あはは!ほらほら!」
「なんでもいいよ! こっちは入力してあげるから!」
ぐいぐい押し付けてくるマイクという魔道具じゃなかった・・それをついに握ってしまった。
「僕の国は入ってないと思いますから・・・あ。掃除の時に聞いたのでいいですか?」
「掃除?学校の?」
「はい、とても綺麗な歌でしたし、意味はわからなかったのですけどジーンとしました」
「カラオケでジーンと来るやつ歌われてもなぁ」
「景!」
「わ~ってるよぉ!もう・・・完全に姉ちゃんかよ・・」
「曲名は?」
「確か、アメイジンググレイスです」
「おお~確かにじーんとガチで来るやつだ、歌詞知らんけど!」
「十分大人びている気がする・・・」
「鈴、気にしてるのね・・・」
「ほい立つ、歌うなら本気で!」
「きびしいぃ!鈴が、お姉ちゃんか妹か!それが今ここで決まる!」
「ふふ、それもいいね!」
本気でかぁ・・・
僕は音魔法(真)の訓練中でもある。
その修練と思えばいいかな?
あの歌詞、音でしか覚えてないけど・・・
「よっ!色男! がんばれぇ!」
「親父くさいってば」
「ぱちぱち~」
舞台は整ったみたいだ。
魔力を意識しつつ、あのときに想像した光景に身をゆだねる。
異世界地球に来てはじめてみた海、夕日。
アルブでお母様を見た時の気持ち・・・。
それから楽しいことがたくさんあった。
新しい発見がいくつもあった。
海で舞さんと遊んだ。
あのときの笑顔も良かった。
僕は、生きている・・・
演奏が始まり力を抜く、意味はわからないけど、音は覚えている。
語学の修練にもなるかもしれない。
イメージするんだ。
ただ、今の思いを吐露するように音を出し、声を落とせばいい・・・
アーメイジン グレイス ハゥ スゥィートゥー ザ サスウンド
Amazing grace how sweet the sound
『綺麗だったんだあの海は、今も聞こえてきそうな波音、鼓動』
ザッ セイビィドアー レッィライクゥミィー
That saved a wretch like me
『美しい世界に迷い込んでしまったが、生きていることに感謝した』
アイ ワンスゥ ゥズロストゥ バット ゥナゥァムファウンド
I once was lost but now am found
『不安な僕を導いてくれたのは舞さんだった』
ワズ ブラインッ バット ナウ アイ シー
Was blind but now I see
『母様に会い素直にもなれたことで覚悟もできた』
ワズ グレイス ザッ トートゥ マイ ハー トゥー フィー
Twas grace that taught my heart to fea
『僕に託された道、仲間たち、新しい出会い、満ちていく心』
アン グレイス マイ ファイアーズ リィーブィ~
And grace my fears relieved
『僕は信じた道を行く』
ハウゥプレシャース ディドゥ ザッ グレイス ァピアー,
How precious did that grace appear
『嗚呼、広い世界だ、でも信じる仲間、友達ができた』
ジィ アワァ アイ ファーストゥ ビリィーゥー
The hour I first believed
『その気持ちが勇気の僕の今を作る・・・感謝を捧げよう』
まだ演奏は続いているけど、僕はここまでしか覚えていなかった。
それに考えすぎると涙が出そうだし、雰囲気が壊れてしまう。
ああ、これが空気?
「「「・・・・・・・」」」
固まっている・・・・
ぶち壊しってやつだろうか、一応最後に頭をさげて最大の感謝を込めて笑ったのだけど・・・
ひそひそ話すのはやめて欲しい・・・
『天使なんだけど・・・おれこういうのわかんないけどうまくねぇ?』
『天使よ。な、涙が出そう・・・召されそう』
『うん、うん・・・わたし変なの。体が癒やされるというか・・・』
『俺もだよ』
『わたしも・・・こんなの初めて』
『『『!?』』』
僕はひそひそしてる中心にぽすっと座った!
ひどくないだろうか・・・無視ですよ。
「ひどいです・・・確かに途中までなのはみとめますがぁ!?」
「このやろう、なんてやつだぁ、抱き抱きサービスだ!」
「ず、ずるい! わたいもぉ!」
「わ、わたしだって」
「何を! うっぷ、ちょっと、女性がそんな男児に触っては、どうしたのです!?」
「ああ~もう終わり!カラオケ終了! ちょっとだきだきチャージ!」
「賛成!」
「賛成!妹でもいいからこれからもよろしく!」
「末永く」
「おいおい!」
一時もみくちゃにされつつ僕は少しずつあたたかいなかにいて、冷静になっていく。
この世界では僕が知るべきことはこういう気持ちなのかもしれない。
そしてアルブへ持って帰るべきは・・・幸せにしたいひとへの感謝、行動で示すことだ。
シンラ様へ会わなければ・・・
逃げていた心に、もみくちゃにされながらも少しずつ芽生えてきた。
誰かを幸せにしたいという気持ち・・・
それが僕の冒険のかなめだと思う。
追記
「あれ・・・何この人たち」
廊下へつづく扉で不審な音がして出てみると・・・
数名の老若男女・・・?なんだ?
特に僕を見てからの彼らの様子がおかしい。
わなわなと手を広げてくる・・・
「テンプレ!! 景、瑠音君を抱えて外へ! 静は会計を!」
「「わかった!」」
『あのそのこは!』
「あばよぉ!」
うお! 景さんが僕をかつぐ!
盗賊みたいだ・・・
『あなたたちには関係がありません』
『ちょっと待ってよ! すごい綺麗な声が』
『空耳です!』
僕はかつがれたまま、外に出されていくのでした・・・
あ、腕が光ってる?
お読みいただきありがとうございます^^
私が前に吟遊詩人の冒険を書こうとしてた時のネタで作っていたものです^^
いい歌ですよね~^^
一人、お気に入りと評価していただきました。本当にありがとうございます><。
切がいいところが近づいてますが、励みになります!
しっかり考えさせていただきます┏○))ペコ




