終わりと・・・
終わりと始まり
我ながら綺麗だと思う。
これが魂を削る光、禁忌の魔法にして、守護結界の到達点そして・・・死へ渡る橋。
「リエン!! やめて!! それ以上したらあなたは!」
母は、後方より焼き尽くす炎竜を放つことになっていたはず。
振り返るといるはずのない母、見間違うのが難しい、赤髪のエルフがそこにいた。
お母様・・・なぜここに、ハイエルフであり、この村の族長であるあなたがここにきたら駄目でしょう・・・いや、作戦の成功率をあげるためか・・・ならありえる。
「お、お久しぶりです、そしてさようならです」
「や、やだぁ・・・やだよぉ・・・あなたは私の子供なのよ!」
ここにきてなの!
憤りと喜びと拒否が心をかき乱した気がした。
でも、本当は気づいている。
喜びがそれを教えている。
人間とのハーフの子、禁忌の子の僕に・・・かあさまは。そんな優しい眼で・・・本当に悲しんでくれている。でも今は、必要ない!
でもないと、はちきれそうだ。
だからこそ・・・今は、憤らせてほしい・・・
「でも、わたしはこのために生まれたのですから・・・そうでしょ?」
「ちがうわよぉ! わたしは本当に愛してたの! ゼンは、あなたの父は人間だったけどもそんなの関係ない! だれにもそんなこと否定させない!!」
ならどうして、もっと近くにいてくれなかった。
どうしてこんな状況になってる。
どうしてこんなふうに育てられた。
どうして・・・どうして・・・今・・!っぐ
集中が乱れそうになると、とたんに魂化していた体が拒否反応を起こし、結界と魂の融合、導火の魂の魔法に亀裂が入る。
一瞬、50体ほどが横に並ぶ敵を完全に抑えていた結界が、ゆらりと凪ぐ。
すぐに冷静さを取り戻し進入を許さないことはもちろん、導火の魂を後方何列かもしれない群れへ北へ北へと、香のように渡す。
強い因果を求める香だ、魂と結界が飽和しながら魂の因香を追う。後に残っていくのはマナの暴走兆候。僕の体の残滓を求めてマナがさまよい、狂騒する。
汚いよだれをたらしながら、しわがれた化鳥のような声をしたゴブリンは、横へ展開しようと棍棒をふりあげ叩いてはこけ、その後ろからやってきたオークに踏まれて死んだりもしている。
どけといわんばかりに、横へ進路を広げようと試みるが、森はそれを許さない。
もともとあった不可侵の結界は起動したままだからだ。
そしてここは村のめったに使わない勝手口のような場所なのだ。
狭くて当然だ。
ざまぁみろ。
進入路はここしかない。
突破口はここしかない。
ビンのふたを外から内がわへねじ込むなど、力がいるのは当然だ。
次から次へと駆けつけたイルの精鋭が弓と風の魔法で押し返し、切り裂き、貫いている。
この程度なら勇者様とシンラ様の大結界の布陣で応戦のみですみそうだと、こんなことしなくてすんだだろうと思えた。
でも、可能にする危険なやつが迫っている。
初級冒険者でも討伐可能なゴブリン、オークはいい。
そもそもそれだけなら、普段の幻影に騙されるだけだし、ばれても結界契約のトレントの迎撃する柵をあけきれるはずもない。
ただそれに迫る、後ろの面々。
オーガにブラックウルフ、そして氾濫の元凶になったフォモールとなるとさすがに無理だ。
エルフの第一防衛拠点にして最終拠点として役割を持つ北端のイルならまだしも、隠居の村ニル、しかもその間への侵攻はかつてなかったことだ。
エルフの大きな集落は、大森林の中にあり、不可侵だ。
シンラと名づけられた中央の都にその名もシンラ様が居られ、もう数百年も寝ているらしい。
ただ寝ているだけではない。
シンラの都は高い反り立つ崖に登っていけば行くほど崖に聳える居城に近づく。
そして、そのそびえ立つ居城の天辺と同じ高さの世界樹があるのだ。
世界樹は、お城の先、崖下から生えているから驚きだ。
崖下は湖になっていて、シンラの都を囲うように、湖から川、水路が張り巡らされている。
御伽噺の勇者とシンラ様が築いたこの都は、大森林に流れる水とところどこに植えられた世界樹の苗木によって、囲われる。
不可侵の隠れ里。シンラ。大森林のバンショウと名づけられた万象の森。
イル、ニル、ソル、スーの四つの村は、イルは北、ニルは西、ソルは南(崖下よりさらに南)、スーは東に位置している。
その中でイルだけが、バンショウの森と人族、亜族、魔獣が住む領域と接続した入り口なのだ。
だけど、今回はイルとの半ばだったことだ。
どう考えてもおかしい。
ニルとイルの森の境は、ワイバーンの住みかになっている、渓谷がある。
そこからの進入なのだ。
僕は頭がいいらしい。
お母様は気づいているのかな・・・伝えたほうがいい。
でも、今はもっと・・・聞きたい。
さっきからずっと叫んでくれている。
リエン、僕の名前だ。
今まで隔離されて、万が一の為の教育という名の過酷な訓練の下で育った。
かあ様の声、綺麗だな、とっても、まさに今、一生分を聞いている。
「リエン! 聞いているの! もういいの!やめなさい!」
次第に、頭がボーっとなる。
みんなが驚いた表情でこっちを見ている。
そう、体が完全に香としていきわたり、思念体になったんだ。
もう、痛くも、かゆくもない。完全に飽和状態。
わざと体に宿る魔力を、魂へ宿る魔力へ変換させた香、導火線もいきわたっている。
あとは打ち込んでくれればそれでいい。
それで僕は、消滅する。
「リエン、あなた・・・そんあ・・・」
「僕の思念、この見える体が消える前にお願いします」
「エレナ様、これ以上は・・・打ち込んでください。どうか・・・」
「うるさい! 黙れよ、小僧どもが・・・わたしはこの子を助けたい・・まだあるはずよ、何か手が」
「ないですよ、『ありがとう、!声まで、かあさま。最後にお願いです。最初で最後です』
「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」
膝を突き、絶望した表情で僕を見ている。
元気にしてあげたいけど、今は時間もないし、余裕・・・理性がもたない。
『かあさま。族長がそんなこといったら、僕は犬死です。妹なら、きっとこの国の・・・いい跡継ぎに、それ以前に・・・かわいいのでしょ?』
だから僕要らない、そうでしょう、ソウだといってほしい。アナタはずるい・・・
「で、でも・・・」
もともと魂より体へと因果を求める魔力、マナがその合わない器に気づいたように因果を探し回るように暴走していく。
これ以上暴走すると、指向性をもった導火均衡が保てなくなる。
縦に香を求めて広がったマナが根本を逆流し始めている。
理性が飛びそうだ。この理性がなくなったとき、僕は完全に消滅する。
その前に! 冷静に! そして、美しく!
『いいのですか? 蹂躙されちゃいますよ・・・かあさま、そろそろ僕の最後の光・・・見届けてくださいね、そして皆様・・・汚らわしき忌子に救われたことその感謝は全て、人間であった父、ゼンと母エレナ、そして名も知らない妹への私の愛に注ぎ込んでください、それで勘弁しましょう・・カラっ!・っはやくしてッヨ」
「り、り・・・リエン・・・りぃえぇん・・・りぃええええ!」
「さらばだよ!かあさま・・・無駄死には嫌だぁ! ・・送火、特大のを!!お願いしま・・・」
「エレナ様! どうか・・・・偉大なるリエン様の御遺志をかなえてくださいませ! お前たち!」
「「「「どうか・・・・」」」」
「・・・早く・・・英雄にしてください、父さんもそこに迎え!! はやくしてよぉおおお!」
「ぜ、ゼン・・・まで、嫌いよ、わがままな男は! 精霊よ・・・火の源たる精霊王イブル、風の源たる精霊リプル、契約によりて顕現せよ、そしてくらいたまえ・・・」
嗚呼・・・
綺麗だよぉ、青い光が、夕日に染められていく。
僕は、母さんの火の光に包まれて、闇に・・・星になる。
きっと照らすんだろうな・・・
かっこ悪かったけど・・・暖かい。
「インフェルノォ!」
マナが消費されていく。
少しだけ理性が戻る。
「「「「「「「全ては残り行くシンラのために! エンゲージ!!」」」」」
僕の魂の香に導かれて充満した危険なマナ。
インフェルノはそれを飲み込み大蛇と化し、そして御伽噺の龍のように舐めていく。
Sランク認定されているフォモールもなるほど牛のように咆哮して跳躍し迫っている。
でも、無駄だ、強力な結界発動エンゲージによってもう、この勝手口は100年は開く術も使えない。
結界が発動され指向性をもった炎、そして導く火の線も完璧だ。
侵略者たちを縦に空にと燃やしていく。
「りえん! まだ、大丈夫! こっちへ! わたしがなんとかする! ね、ほら、せめて、だかせてよぉ」
大結界で逆流のマナが強制的に切り離されたからか、思念がまだ残っている。
安定への力か、さすが勇者の力か・・・マナの一部が結晶へなっている。
これじゃ魔物みたいだな僕・・・でも、この頬を伝うような、一粒一粒が・・・・
最後言葉をつむぐ.
『願わくば・・・・今度生まれ変わるときは、美味しいものがありますように、魔物がいませんように、誰かをまた守れますように・・・母さんに会えます・・・ようにぃ・・もっと素直に受け入れ・・あれ、あははやっぱり本能にウソハツケナイカ・ダイスキ、アリガとう・・カアさマぁあああああ」
「りぇええええええええええええええええええええーーーー」
終わる、禁忌の魔法に回想はない。
あらゆる感情が母の叫びで爆発するも、あっというまに掻き消えていく。
こうして僕は・・・立ち昇った。