000:初めての出会いはフレンドリーファイアーでした
【 六韜学園リンドブルク理事長、ボンド・ライノセラスが冒険者学園アスピドへと宛てた手紙より抜粋 】
ーーーーー・・・・
永きに渡って、様々な武術士を育んできた我々六韜学園だが、今期より我が学園から貴学園への編入が決定されている生徒バース・カブラカン。
何度でも書くが、『アレ』は異常だ。
『アレ』は何百年もの間誰一人として達成されることのなかった編入試験、百職巌武。百人の教員を含む、選出された武術士と同時に戦い、勝利したものだけが『正式』に編入を許されるという、そんな突破不可といわれる試験を見事にクリアしてみせた。
それも十七歳という若さでだ。
そんなこと、私が理事長となって七十年となるが一人としていない。
彼は優秀という域を超え、『危険』と呼べる域にいる。故に彼を我が学園に『返して』ほしい。
これは嘆願ではなく、私からの『警告』だと考えてほしい。
貴学園がこの手紙の文面を信じ、利口な判断ができることを祈る。
【 冒険者学園アスピド理事長、ダハーカ・メリュジーヌが六韜学園リンドブルムへと宛てた手紙より抜粋 】
ーーーーー・・・・
以下の理由より、我々冒険者学園は貴学園の『嘆願』を拒否する。
もとより、バース生徒の編入は両学園によって『正式』に決定している事項であり、それを撤回するということは伝統を重んじる貴学園の歴史を踏みにじることと理解していただきたい。
よって我々冒険者学園は貴学園の伝統を汚さぬ為にも、編入は予定通りに行うこととする。
しかし、ボンド理事長からの警告。
我々はそれを親身に受け止め、より一層の注意のもと、バース生徒の教育を行うことをここに約束する。
序章:初めての出会いはフレンドリーファイアーでした
魔力と今だ解明できていない多くの謎で満ち溢れた世界。
六つの大陸によって構成されているこの世界にはダンジョンと呼ばれる危険区域が何百と存在し、そこで生態系を持っている魔物と呼ばれる生物によってその世界に住まう者たちは常に危険に晒されていた。
その脅威に対抗するための戦力を育む五つの学園。
その学園の一つ、『 冒険者学園アスピド 』が存在する大陸『アスピドケロン』へと向かう客船の遊歩甲板の手摺にバース・カブラカンはもたれかかっていた。
一目で全身筋肉質な肉体であるとわかるほどに盛り上がった肉体に、装備しているだけで十分な防御力がある六韜学園リンドブルム指定の赤く分厚い生地でできた制服を身に着け、四方八方にツンツンと尖り、まるで頭の上で巨大なウニを飼育しているかのような彼は、その引き締まり整った顔貌を白くし、どこともつかない虚空の一点を見つめている。
「 うぅ・・・・船は苦手・・・だ 」
見事に船酔いしたという事実にがっくりと項垂れる。
客船の渡航先である『アスピドケロン大陸』の面積は18.800㎢と、六つある大陸の中で最も狭小な島国で、そこに行くためには船を使う他にない。最も浮遊魔法が使えるのであればそれは別だが、戦闘に関すること以外は特にナニモ学ぶことができない六韜学園リンドブルムで学を得たバースがそんな補助魔法が使える訳もなく。
彼は、『 冒険者学園アスピド 』に編入するために、生まれて初めての船に乗るしかなかったのだ。
最大の誤算であったのが、実は彼は船に弱かったというところであった。
超高難易度編入試験『百職巌武』を突破した彼であったが、今の現状、その際戦った誰よりも、この酔いによる吐き気のほうが強敵であるとしみじみと感じていた。
気を紛らわそうと海の果てへと視線を向け、体を起こす。そして波風からなる爽気な風を全身に浴びた。
魔力機関を動力源としているこの客船は、静かに、そして穏やかに海を航海しており、耳に入る音は空を飛ぶ、鳥たちの泣き声と静かに波を突き進むものとで、船酔いさえしていなければ、とても心地の良いものであっただろう。
空も青々と爽快で、このような気持ちの良い日に新しい学園に編入できるなど、幸先が良い。
心なしか、酔いのほうも楽になってきている気がする。
「 ちょっ・・ちょっと、隣すみませんッ 」
突如、甘い香水を思わせる香が鼻につく。そしてそれと同時に永く艶やかな白髪が視線に入ったと思うと、その持ち主である少女は髪同様に顔を真っ白に手摺へと縋りついた。そして・・・・
「 うぅ・・・うっ!! 」
数分前のバース同様の行動。
おい、やっと酔いがさめようとしてるってのに・・・
「 ちょっ、お前止めろ!!折角少しだけ楽になってたのに!!!・・・うぅ 」
幸先が良い・・・どうやら気のせいであったようだ。
一度落ち着いていたハズの胃が隣で今現在リバースファイアーしている少女によって再び稼働を開始。それによって内部で生成された甘酸っぱい臭いを放つ、次弾が喉元に装填される。
あぁ・・・これは我慢できないタイプですね、分かります・・・・
「 ・・・・そうてん、終了・・・次弾、発射かいししまう・・・・うっ!! 」
手摺を持つ手に力を籠める。・・・・あっ、マジでもう無理ッ!!
結局、しばらくの間、見たものに中級魔法レベルの精神ダメージを与えるであろう二人の”それ”は続き、その間、乗組員の配慮により遊歩甲板は立ち入り禁止となった・・・
次話の投稿は7月4日になります。