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新米勇者のマネジメント講座(ドラッカー理論)  作者: 佐藤コウキ
第1章 ドラッカーって何? それおいしいの?
8/27

8話、勇者タカシは魔法使い少女を仲間にした

 夕暮れ、町の東にあるベルギー商会に着いた。

 それはレンガ造りの大きな雑貨店で、スライムの買い取りもしている。タカシは荷車のスライムを裏にある大きな箱に移した。もうグッタリとしているので、網ですくっても噛まれる心配はない。

 店の主人を呼んで納入したスライムを見せた。

 店主はタカシが見上げるほどの身長で頭はツルツル、あごひげを伸ばしている。

「102匹だよ。数えてみて」

 仕事用のエプロンを付けた店主は箱の中を除きこんだ。

「おお、ボウズ。今日も良く働いたじゃねえか」

 振り向いて屈託のない笑顔。タカシと店主は顔なじみだ。店主は店の中に入ると、タカシに代金を手渡した。

「サービスだ。1万1000リラにしておくぜ」

 タカシは店主のごつい手から数枚の硬貨を受け取った。

「ありがとう、おじさん。また頼むよ」

 そう言ってタカシは片手を上げて店を出て行った。


 町の中に入り、大衆食堂で夕食を頼んだ。

 その食堂は夜になると酒場も兼ねている。中では、他の冒険者たちが騒いでいた。

「やあ、スライマー。今日もスライム退治かよ」

 タカシをバカにしたのは、女剣士のカリーナだった。モンスター退治の帰りで、露出の高い革の防具をまとい、腰の両脇にはダガーナイフが取り付けてあった。

「なんとか言えよ。タカシ」

 近づいてきて、酒の入ったジョッキを頭の上に乗せる。周りでタカシを笑う声が聞こえた。

「よせよ」

 身をよじって頭上のジョッキから逃れる。タカシの目前にはカリーナのへそがアップになっている。上を見ると酒で顔を染めているボーイッシュな顔があった。黒髪を短く切りそろえ、日焼けをして浅黒い顔と体。彼女は戦闘時の切り込み役で攻撃的な性格をしていた。なぜかタカシを見ると、いつも絡んでくる。

「毎日、スライムばかりで飽きないのかよ。それでも男か、なあ」

 引きしまった細い腕をタカシの首に回して、背後から抱きつくように豊満な胸を押しつけてきた。

「カリーナ。やめてやれよ。タカシが困っているだろう」

 近くのテーブルから、なだめるように言ったのはパーティのリーダーである、剣士のロバートだった。

 舌打ちしてタカシから離れる。カリーナのような女でもリーダーには一目置いている。ロバートは背が高く精悍な顔つきをしていた。高価な革の防具を着ていて、涼しげな視線でタカシを見ている。長い剣をテーブルに立てかけてあった。

「悪かったな、タカシ。それは俺のおごりにしておくよ」

「あ、いや、別に……いいです」

 引きこもりのタカシはロバートのような社交性のある人間が苦手。出された料理を手早く食べると、代金を払って店の外に出た。

 日が暮れて外は星空だった。近くに止めてあった荷車を引いて、宿屋を目指す。


「あの、すいません」

 呼びとめる声にタカシが振り向くと、そこには魔法使いの少女が立っていた。

 タカシと同じくらいの身長。茶色で癖のある髪を肩まで垂らし上目使いで見ている。大きな目と小さな口、整った白くて小さい顔はコミック雑誌の表紙を飾るモデルのようだった。

「な、何か?」

 可愛い女の子と話すことに障害があるタカシ。少女を見ると、魔法使い特有のとんがった帽子をかぶり、背よりも長い杖を右手に持っている。青いブラウスと膝上のスカート。

「あ、あの……」

 少女は恥ずかしそうにうつむいた。

「な、何か?」

 さっきと同じ言葉しか出てこない。

「私を仲間にしてくれませんか」

 顔を上げてタカシを見つめる。

「はい?」

 目を丸くして口を開けたまま言葉が続かない。少女のまなざしは真剣だった。

「私をタカシさんのパーティに入れてほしいんです」

 タカシはしばらく何も言えなかった。

「あの、君さあ……」

「ジョディです」

 杖を握りしめて顔を赤くしている。

「ジョディさん。俺は一人でやってるし、仕事はスライムを捕まえることだよ」

「知っています」

「さっきもカリーナさんから笑われていたけど、そんな商売だよ」

「分かっています」

 もしかしたらドッキリカメラかと周りを見回したが、人の気配はない。カリーナさんが自分を騙そうとしているのかとタカシは考えたが、意地悪な彼女でも、そんな暇なことはしないだろう。

「あの……、ダメですか?」

 可愛い娘に上目遣いで見られると、タカシは断ることができない。それに魔法使いは貴重な存在だった。

「まあ、いいけど」

「本当ですか。うれしい!」

 晴れやかな顔をタカシに向ける。

 女の子とこんなに長く会話したのは初めてだなと、まんざら悪い気分ではない。

「じゃあ、明日の朝に宿屋まで来てくれる?」

「はい! 分かりましたぁ」

 そう言って深々と頭を下げた。

 照れくさくなったので荷車を引き、さっさとその場を逃げ出す。

 俺に仲間ができたのか。これでボッチとサヨナラだ。友達ができたのは何年振りだろう。タカシの口元に思わず笑みがあふれだす。しかし、心中にはぬぐいきれない一抹の不安があった。

「俺に友達ができるはずはないと思うんだが。あんな可愛い少女が仲間に入れてくれと、向こうから言ってくるなんて、そんな奇跡が起こるものだろうか……」

 心配はあった。だが、仲間ができるということでタカシの心は空を飛ぶようだった。


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