3話、勇者タカシはゲームとは違うと思った
ドサッという音とともにタカシは地面に落ちた。
「いてえなあ」
尻をさすりながら辺りを見ると、そこはゲーム世界のような中世の街並。
石畳の広場には中央に噴水があり、そのそばにタカシは転生したのだった。
彼の服装に、通り過ぎる町の人たちは珍しげな視線を送る。
本当に異世界に来たんだ。タカシはため息をつく。
「これからどうしたもんかなあ」
立ち上がるとノロノロと歩きだした。とにかく情報だ。ゲームでは、まず現状を把握することから始まるよな。そう思って、冒険者などが情報を交換したり仕事を探したりするギルドを探すことにした。
「何、あの格好……」
仕事用のエプロンを付けたおばさんが横目で見ながらすれ違う。
どうやら言葉は分かるようだ。タカシは通りに面している店の看板を見た。文字は英語のようなアラビア語のようなものだったが、なぜか理解できる。あの女神が翻訳の魔法でも掛けてくれたのか。
しばらく歩いて、冒険者組合という看板を見付けた。
レンガ作りの建物の中に入るとロビーになっていて、机やイスが並んでいる。筋肉質の男や腹筋の割れた露出の高い女などが楽しそうに雑談していた。
奥の方に受付と書かれた窓口があったので、タカシは客たちの注目を浴びながら進んでいく。
「すんませーん」
「はい、何かご用でしょうか」
窓口に出てきたのは、20歳くらいのお姉さんだった。長い髪を軽く縛って胸元に垂らしている。メイド服のようなフリルがついた服の胸を大きく開けている。目が大きく赤い唇。タカシは自然に胸が高鳴りはじめる。引きこもりの男の子にとっては刺激の強い美人だった。
「あの……勇者……その……」
コミュ障の弊害により女性の前では口ごもる。
「勇者のご登録ですか」
彼女が身を乗り出すと胸の谷間がアップになった。
「は、ひゃい……」
赤面するタカシを気にすることもなく、女は奥からパンフレットを持ってきた。
「これが勇者の登録手続きになります。登録された場合、ギルドから1万リラの契約金が支払われます。勇者に対して特に規制はありませんが、この街に何かの脅威が迫ったときは、どんな理由があっても招集に参加する義務があります」
女はパンフレットを広げて説明する。タカシが胸からパンフレットに視線を移動すると、何やら細かい規則が書かれてあった。
とにかく契約しないことには始まらない。
「分かりました。登録します」
ようやく会話機能が正常に働きだす。
分かりました、と言って女が部屋から出てくる。手には大きなスタンプのようなものを持っていた。
「右手を出してください」
「はい?」
反射的に右手を差し出すと、甲の上にポンとスタンプを押した。直後、押された場所が一瞬だけ光り、文字が浮き出る。エクセルのようにいくつかの枠があって、項目が書かれていた。
タカシが手の甲の文字を見る。
「HPが5? ヒットポイントが5というと、どれくらいの強さなんだ」
隣の美人が形の良い唇をゆがめて苦笑する。
「お客様はかなりお弱いようですねえ……。スライムのHPが3ですから、それよりも少し強いくらいでしょうか」
憐れむような視線には慣れている。でも、この状況で彼女の視線はつらかった。登録のサインをしてくれと言うので、書類にタカシと書いて、お金など一式を受け取ると逃げるようにしてギルドを出た。
「ゲームと違うじゃねえかよ」