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7話、発動


 魔族のストラス参謀は緑色の髪を振り乱し、馬上でロングソードを振り回して戦っていた。

 ストラスの役目は参謀が主だが、司令官のはずなのに独断専行するモラクス将軍の護衛もやる羽目になっている。

 ストラスは副官のオリアスとともに3人の近衛兵を引き連れて、南門の柵を突破した。そして、ロバートを求めて見境なく戦闘しているモラクス将軍を守るべく、今は戦いながら必死に付いていくしかない。

「ロバート! ロバートはどこだ!」

 モラクス将軍は自分に群がってくる歩兵をなぎ倒しながら宿敵の名を呼ぶ。

 ストラスは将軍に近寄った。

「将軍! 今は敵の防衛線を破壊することが重要です。まず柵の手前で防戦している人間を倒しましょう」

 モラクスはストラス参謀をチラリ見ただけで彼の進言を無視する。自分の兄であるザガン将軍を守ることができなかったストラスを少なからず憎んでいたのだ。

 モラクス将軍の前方に馬に乗った人影が現れた。

「私に何か用があるのか、モラクス将軍!」

 防具を着たロバートだった。

 一瞬、モラクスの顔が無表情になり、そして不敵な笑いが浮かび上がる。

「おお、剣士ロバートか……待ちかねた」

「そんなに兄のところに行きたいか。私が引導を渡してやるぞ……」

 言い終わらないうちにモラクスが襲いかかる。しかし、ロバートは手綱を引いて逃げ出した。

「この卑怯者があ! 正々堂々と勝負しろ!」

 モラクス将軍は追いかける。ストラス参謀たちもついて行かざるを得ない。

 ロバートの馬は建物の路地に逃げ込んだり砦の中の雑木林に入ったりして追跡者を攪乱する。モラクスは追いつけそうで追いつけないことに苛立つ。

「こらあ! 待て、ロバート! 戦う気があるのか!」

 しばらく追いかけっこが続いた後、ロバートを見失った。

「どこへ行った?」

 モラクスが馬を止め、辺りを見回す。

「あそこです! 将軍」

 副官のオリアスが指さした先には疾走して逃げていくロバート。

 馬の方向を変えてモラクスが追いかける。

「危ない!」

 ストラスが将軍の前に立ちはだかった。そして、将軍めがけて飛んでくる矢を器用に剣で叩き落とす。

 その間にロバートは砦の中に逃げ込み、門が閉じられてしまう。いつの間にかモラクスの一行は砦の外に誘い出されていたのだった。

 砦に向かおうとする将軍を矢の雨が襲う。ストラスは将軍をかばいながら撤退するしかない。

 将軍たちはタカシの立案した作戦に翻弄されてしまったのだ。


 モラクス将軍たちは南門の向こうに設営してある陣地に戻った。

「南門への攻撃を強化しろ! コボルトも投入だ。こうなったら門を突破して砦を落としてやる」

 モラクス将軍の命令に従って副官が伝令係のホビット族に指示する。

 それを聞いていたストラス参謀は小さくため息をつく。

 こちらは大軍なのだから、一部分に兵を集中するよりも、砦の全体に総攻撃をかけて兵力を分散させ、南門の守備力を減少させてから一点突破を狙った方が良いのに……。だが、どうせ将軍に言っても聞いてくれないだろうなと思って、ストラスは無言を続けた。


 コボルト隊も南門に突入し、半円形の窪地は密集状態になる。

 砦の守備兵に疲れが見え始め、最終防衛線の柵もところどころ壊されてきた。

「よし、もう少しだ」

 モラクス将軍は砦に対して仁王立ちになり、柵を突破して砦を蹂躙する場面を思い描く。

 魔族の指揮官たちも勝利を確信する。

――そのときに異変は起こった。

 大きな破裂音が響き、蜘蛛の巣のような放電が窪地をなめ回す。中のモンスターたちは一斉に転倒してもがき苦しむ。

「何が起きた……」

 あっけにとられるモラクス。

「デス・スパークか……」

 ストラス参謀は前の戦いを思い出した。

 前回は湿地帯で電撃を食らわされた。そうか、今回は窪地に水を流し込んでいたのか。ワラが敷かれていたので水浸しになっていたのに気がつかなかった。ストラスは将軍の方を向く。

「すぐに撤退を。第2射が来るかもしれません」

 モラクス将軍はゆっくりと振り向く。

「撤退だと……。逃げろと言うのか」

「はい、電撃魔法は連射ができません。しかし、他のスパーク使いがいるかもしれない。すぐに兵を引き返させましょう」

 納得するしかない司令官。モラクスは撤退を命令した。

 よろめきながら窪地から逃げ出すモンスターたち。その背中に容赦なく矢を放つ守備兵。窪地にいたモンスターは、そのほとんどが殺されてしまった。

 砦の死者は十数人だったが、モラクス軍の被害はリザードマンとコボルトを合わせて1000匹以上。初戦は人間軍の圧勝だった。


 負傷したモンスターの手当や軍の再編成などが一段落した後、ストラス参謀は立ったまま砦を見つめる。

 私達をこんなに苦しめるとは、人間側には優秀な作戦参謀がいるようだ。一体どのような人物なのだろう……。まだ知らぬライバルの姿を思い浮かべながらストラスは身じろぎもせずに砦の柵を見ていた。


 それからしばらくは戦闘が起こらなかった。

 砦の方では兵の絶対数が少なかったので、門を開いて魔族に攻撃を仕掛けることはできなかったし、魔王軍の方でも罠を警戒してうかつに攻撃をすることができないでいた。

 ベイカー司令官は南門の修復をさせて、後は魔王軍の出方を見ているしかない。

 ガリア砦は、にらみ合いの膠着状態に陥った。


  *


 数日後、ベイカー司令官とサマーズ隊長、それにロバートは本部の屋上にいた。

 タカシもロバートと一緒に空を見上げている。最近は晴れた日が続き、空には相変わらず筋雲が流れて平和な雰囲気を漂わせている。

 ガリア砦の作戦本部は、砦の中央に建てられたレンガ造りの2階建てのビルで、ベイカー司令官が常駐している。

 その屋上には丸太を組んで作られた物見やぐらがあり、その上に登ると砦の全体を見渡すことができた。

 トルティア城の指令本部に向けた救援依頼の返事が伝書鳩によって到着した。しかし、詳しいことは特殊通信兵によって伝えると書いてあった。それで砦の首脳達は約束の日時に通信兵の到着を待っているのだ。


「おっ、あれではないか?」

 サマーズ隊長が青空の一点を指さす。

 タカシがその方向を見ると、小さな点のような物体が近づいてきて、それが次第に大きくなり人の形を認識できる距離までやってきた。

 それは砦の上空で体勢を変え、足を下にしてゆっくりと降下する。グレーの服に革製のベルト。そのベルトには通信書類用の小さな箱が取り付けてある。飛行魔法によって背中に視覚化している小さな白い羽は天使を連想させる。砦にやってきたのは長い銀色の髪をポニーテールにまとめた少女だった。

 丈の短い着物のような服。着地する瞬間、ふわりと裾が翻り、白い足が見えて小柄な体に似つかない大きめの胸が揺れる。

 丸顔に大きな目で幼さが多分に残っていた。彼女は整った顔をしていて、美人と表現するよりは可愛いと言った方が合っている。


「特殊通信兵のアリサです。ただ今、到着しました」

 少女はニコリと笑って敬礼をした。



*** 7話、終了


 南門の攻防は、大坂城冬の陣の真田丸をモチーフにしています。

 弱点と思われる場所を逆に戦術に利用している。

 映画の『七人の侍』でも、「良い城という物は弱点をもっている」と言うセリフがありました。人間でも欠点のない人はいません。それをどのように克服するかが重要なのでしょう。


最後に出てくる飛行少女アリサは、声優の水瀬いのりがモデルです。文章で足りない表現は、読者の脳内変換で補完していただきたい。


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