表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新米勇者のマネジメント講座(ドラッカー理論)  作者: 佐藤コウキ
第1章 ドラッカーって何? それおいしいの?
2/27

2話、勇者タカシは本を持って異世界に転生した

 気がつくとタカシは冷たい床に転がっていた。

 大理石のように光沢のある広い床。上半身を起こして周りを見るが暗闇に覆われて壁が見えない。

「ようこそ、いらっしゃいました。タカシ様」

 声の方を振り向くと、そこには美少女がふわふわと浮かんでいた。

 ウェーブ状の亜麻色の髪。鼻筋がとおった美しい人だった。青を基調とした薄い生地のロングドレスを着て、銀色の兜と剣を右手に持っている。

「ここはどこ?」

 コミュ症のタカシは短く訊ねた。俺は生きているのだろうか。手に持った本は確実に質感がある。

「ここは転生の間、冥界の門。あなたは勇者として選ばれました。私はワルキューレ。あなたを導く女神です」

「俺は生きているの?」

「いいえ、あなたは死んでしまいました」

 やっぱりそうか。不幸としか言いようのない人生だったな。タカシは自分をあざけるように鼻で笑った。持っていたのがエロゲーではなく普通の本だったことが唯一の救いだ。エロゲーを大事そうに抱えて死んでいたら警官にも笑われてしまうだろう。

「勇者とか言ったっけ?」

 そう言って立ち上がる。

「はい、そうです。あなたはこれから異世界に転生して魔王と戦い、その世界に平和をもたらすのです」

 タカシは下を向いてため息をつく。

「それさあ、なんかの間違いじゃないの? だって俺は背も低いし、力もない。文化系のクラブにも入っていない帰宅部だったし……それに……」

 言葉を濁す。

「高校にも行かずに半年近く部屋に引きこもっているような男だよ……」

 自分で言ってて情けなくなった。

「いいえ、あなたは選ばれた人間です。さあ冒険に旅立つのです」

「断ったら?」

 すねるような上目使いでワルキューレを見る。

「そのときはタカシの魂は消滅します。つまり、あなたという存在は完全に無くなるということです」

「じゃあ、その魔王とやらを倒したら何かプレゼントとかあるの?」

 女神はにこりとほほ笑んだ。

「はい、そのときは新しい世界に新しい人間として転生することができます」

 タカシは一歩踏み出す。

「それって、自分の理想的な人間になって……その、つまり、女の子にもモテモテになるってこと?」

「はい、お望みのままに」

 腕を組んで考え込む。悪い話ではない。このまま消滅してしまうよりはマシか。

「分かった。俺は転生して魔王と戦うよ」

「はい、決まりですね。では、異世界に持っていく物を一つ決めてください。魔法の剣とか女神の祝福が込められた鎧とか」

 女神は剣を振りかざすと、天からの光が彼女に降り注いだ。

「えー、何にしようかな。いきなり言われてもなあ」

 引きこもっていたために優柔不断になっていた。持っていた本を抱きしめるように腕組みをしてあれこれ考える。

「はい、決まったようですね」

 天からの光がタカシの上にも降り注ぐ。

「えっ、まだ決めてないよ」

「大事そうに抱えている、その本があなたが選んだ物でしょう?」

 ハッとして「マネジメント」を見る。表紙のドラッカーが、一緒に頑張ろうぜとタカシを激励しているようだった。

「違うよ! これは違うんだ!」

 女神は両手をボリュームのある胸の前で交差させてバッテンを作る。

「ぶっぶー。時間切れです。では頑張って魔王を倒してきてください」

 タカシの体は宙に浮き、違うんだーという叫び声を残して空中から消えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ