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1話、旅立ち

お待たせしました。3章の開幕です。もう忘れている人が多いかな?

ちょっと休んでから書き始めるつもりだったが、ファンタジーものは設定が大変だ。気力を奮い起こして書き始めるまでに1年近くがたってしまいました。本当は1ヶ月くらい休んでから書き始めるつもりだったんですけどね。

これからは本格的な戦いになります。それをドラッカー理論とどう結びつけるかが難しい。軍隊は特殊な組織ですからね。行き当たりばったりの小説になるかもしれません。頑張って完結させるつもりです。あと何年かかるかな。




 澄み渡った青空。昼前の日差しを浴びて広がる金色の麦畑。地平線まで真っ直ぐに伸びる軍用道路を2台の大型馬車が連なって走っていた。夏から秋へと色を変え始めた空気。それを押しのけて西へと向かう。


 タカシは馬車の窓から身を乗り出して後方のパターソンの町を探す。しかし、その姿はすでに地平線の中に消えていた。

「勇者の宿は売らなくても良かったんじゃないかなあ……」

 タカシの対面の席に座っているジョディは不満そうにつぶやく。

 大きな目でタカシをチラッと見てから窓の外に視線を逃がす。癖のある茶色の髪。小さな口を少しとがらせている魔法少女。白いブラウスに赤いミニスカート。ジョディはタカシの戸惑う視線を知ってか知らずか、白くて細い足を組んだ。

「魔王を倒さない限りは戻らない……それくらいの覚悟が必要でしょう」

 ジョディの隣のパトリシアが諭すように言った。

 着物に似た白くて薄い衣装をまとい。レースのような水色の帯で緩くまとめている。日本人形のような整った顔。ジョディが美少女ならパトリシアは美人と表現したほうが合っているだろう。長い黒髪をポニーテールにまとめ、豊かな胸の前に流していた。

 タカシは、いつも着ているチェックのシャツに作業用のズボン。大陸の中央まで馬車に乗っての長旅なので、リラックスできる服装を選んでいる。


 ロバートに誘われて、タカシは魔王軍との戦いに参加することを決断した。

 大陸の端にあるパターソンの町から西に向かい、中央にあるギルドシティに行って軍司令部の指示を受ける。それから本格的な戦いに参加するのだ。不安は抑えきれないが、それしか自分に道はないのだとタカシは覚悟を決めていた。

 住み慣れた勇者の宿を手放すのは抵抗があったが、自分の気持ちに区切りを付けるために売ってしまった。家財道具なども売却し、全てお金に換えての参戦。現状維持は陳腐化する。安定したスライム販売から脱却し、タカシは自分の使命を非常に困難な魔王打倒と決定したのだ。

 両親をコボルトに殺され孤児となった5歳の少女、ヘカテはギルドに引き取られて事務手続きの手伝いをしている。そして18歳になったら農場を引き継ぐことになっていた。ヘカテの心の傷は一生消えないだろう。

 もうヘカテのような子を出してはならない。タカシの動機が揺るぐことはないのだった。


 タカシが乗っている馬車はニコラスが手綱を握っている。

 長身のニコラスは赤い長髪を風になびかせ、いつものように沈着な表情で馬車を操縦していた。

 乗客は8人。先を走る馬車にはロバートとカリーナ、それにバロンとトーマスが乗っていた。後ろの馬車にはタカシとジョディ、パトリシア、それから御者のニコラス。ギルドから借りた軍用の馬車に荷物を積み込んで、舗装された道路をかなりのスピードで走っていく。

 軍用の馬車には魔王石を使った特殊なベアリングが使われてあった。それにより民間の馬車よりも倍以上のスピードを出すことができ、音や揺れがほとんど発生しない。また、軍用道路は補給線として重要な価値があるので、平らに舗装され直線的に整備されていた。


 目的地のギルドシティまで約三千キロ。途中に点在する宿屋に泊まりながらの長旅だった。宿がないときはテントや馬車の中で寝るしかない。

 馬車の後ろには荷物が積んである。その上に寝そべっていた大型犬のジローが大きなあくびをした。


     *


 パターソンの町を出発して1週間ほどで中継地のアカギタウンに到着した。これで全行程の3分の2に達したことになる。

 アカギタウンは城塞都市で、町の周りを高い塀が囲っている。全体的に楕円形をしており、直径は最長で2.5キロメートルほどもある。人間軍にとって最大の要塞だ。

 昔、日本からアカギという男がこの町に転生してきた。アカギは技術者であり、自分の技術を住民に伝えたことによって文化が著しく発展した。それに敬意を表して町の名前としたのだった。


 見上げるほどの高い城壁。西日の差す中、軍用の門からタカシ達の馬車は入っていく。

 ロバートは軍に登録しているので、軍用の馬車を確認しただけで門番はフリーパスのごとく簡単に通してくれた。

 軍人専用の宿泊施設に入り、代表のロバートがカウンターの宿帳に記帳するだけで全員の個室を用意してくれる。

「久しぶりにお風呂に入ることができるわ」

 ジョディが小さい顔をほころばせた。道中、野宿だったときは小川などで体を拭くしかない。女の子にとって設備の整った宿はありがたい物だった。


 タカシは自分の荷物を3階の部屋に運ぶと、1階の食堂に降りていった。

 テーブルの上には、すでに料理が運ばれていて、ジョディが軽く手を振ってタカシを呼ぶ。

「勝手に頼んじゃいましたよ」

 ジョディはスープを飲んでいた。そこにはシチューやパンが並んでいる。席に座って隣のテーブルを見ると、ロバート達が先に夕食を食べていた。

「いただきます」

 タカシはコップの水を飲んでからパンをちぎって口に入れた。後からパトリシアもやってきて食べ始める。

「よお、久しぶりだな。タカシ」

 呼びかけられて振り返ると見知った顔があった。片手を上げてニヤニヤと笑っている。

 短パンに半袖のシャツ。痩せているが身長が高い。後ろのテーブルに座っていたのは、パターソンの町でスライムから助けてやったケントだった。

「おひさしぶりね、タカシさん……」

 そう言って頭を下げたのは、美人だが化粧が濃いデリラ。いつもの黒いロングドレス風の服だ。スカートには深いスリットが入って、イスに座っていると太めの白い足がはみ出す。

「あ、どうも、こんばんは……」

 タカシは意外に思った。どうしてこんな所にいるのだろう。

「俺たちもロバートさんと一緒に軍隊に入ることにしたんだよ。よろしくな」

 そう言ってケントはコップの酒を飲み干す。

「はあ、そうですか……」

 スライムにやられるような人が魔王軍と戦うことができるのだろうか。タカシには疑問だった。

「デリラさんのデススパークは戦いにおいて有効だと思ったんだよ」

 ロバートがにこやかに言う。

「タカシ君と一緒に補給担当をしてもらうことにしたよ」

 人材が少ないのでケントのような軽薄な人間まで仲間にしなければならないのか。しかし、ロバートの決定に逆らうわけにもいかない。タカシは作り笑顔でうなずいた。

「デススパークは一日に1回しか使えませんけどね……」

 デリラが申し訳なさそうに言って長い黒髪をかき上げた。


   *


 アカギタウンは城塞だが、都市機能も十分に持っている。各種の売店や公衆浴場、酒場、遊技場などがあり、市民生活に問題はない。元々は大都市だったのだが、魔王軍の侵攻とともに塀を築き、少しずつ城塞化してきたのだ。

 ジョディ達は身の回りの物を買いそろえて、翌日の朝に一行はアカギタウンを出発した。


 3台の馬車を連ねてギルトシティに向かう。空は曇っていたが雨が降る様子はない。

 しばらく進んだ後、昼頃に馬車が止まった。

「ここで昼食にしよう」

 ロバートが馬車から降りて全員に指示をする。

 タカシは食事担当なので、野原にシートを広げて近くの小川から水をくんできた。

 ジョディとパトリシアはアカギタウンから用意してきた弁当を広げる。皆は適当に座ってくつろいでいた。


 食事の後、タカシ達が後片付けしているとき、ロバートがケントに言った。

「デリラさんのデススパークを見てみたいんだが、どうだろう」

 ケントはデリラの膝枕から上半身を起こして振り返った。

「ああ、いいよ。デリラ、一発デカいのを頼むぜ」

 デリラは苦笑してうなずく。

「では、あの林のあたりでよろしいでしょうかねえ」

 立ち上がって長い杖を持ち、その年季の入った杖で100メートルほど先の林を示す。

「ああ、いいよ。全力を見せてくれるとありがたい」

 ロバートの依頼にデリラは微笑みながら靴を履き、シートから少し離れた。ロバートを始め、皆が注目した。

 使い込まれたことが分かる、くすんだ色をした長い杖。デリラは自分の身長を少し超える木の杖を右手に持って高く掲げた。

「この世にしろしめす精霊よ、契約に従い、いかずちをもって敵をなぎ払い給え……」

 タカシの肌が静電気を帯びたようにヒリヒリする。デリラは力強く杖を振り下ろした。

「デススパーク!」

 向こうの林に閃光が走り、破裂音とともに複数の放電が空中をなで回す。木の葉が吹き飛び、ゆっくりと舞いながら落ちていった。

 ほうっ、というため息が出る。皆は電撃魔法の威力に感心していた。

「十数人くらいは倒せるかな……」

 ロバートがぽつりと言う。実際の戦闘でどのように使うかを思慮していた。

「敵の出鼻をくじくのに有効だよな」

 腕組みをしたカリーナが言った。下着のように露出の多い服。

 デリラは少し恥ずかしそうに頭を下げた。

 タカシは初めて見るデススパークの威力に驚いた。ジョディのパラライズスパークよりもはるかに攻撃力がある。

 でも、もっと有効利用する方法があるのではないか。タカシは首をかしげる。考えよう。自分の長所は考えることだ。剣の才能はない。体力も人並みだし体格も小さい。そんな自分でも人並みにできることは思考だ。僕にとっては考えることが武器なんだ。

 スパーク系の魔法をどのように戦闘に利用するか。タカシは、この方法は使えるか、それともこういったやり方はどうかと水平思考でアイディアを考えていた。


 *


 アカギタウンを出発してから3日後の昼過ぎにギルドシティに到着した。

「やっと着きましたね」

 パトリシアがため息をつくように言う。気丈で我慢強いパトリシアだが、長旅は女性には負担だったのだ。

 ギルドシティは平地に堂々と構えている、直径が1キロメートルを超える城塞都市だ。10メートルほどの高い城壁に守られた中央都市で、周囲を小さな町が衛星のように取り巻いている。都市の中央にギルドの本部があり、大陸における全市民の政治や税収、裁判などの事務機能が集約されていた。つまり、大陸に住む人間の生活を支える中心部ということだ。


 大きな門の横にある詰め所に行くと、ロバートだけがギルド本部に向かうように指示された。

 一行は馬車を軍務省の停留所に置き、備えてある馬小屋に馬を預けた。

 軍務省は5階建ての大きな建物で、正面玄関の前に立つと威圧感を覚える。隣に軍人会館があり、その宿泊施設に皆と一緒にタカシが向かおうとするとロバートが呼び止めた。

「タカシ君、一緒にギルド本部に行かないか? 本部に行くのは初めてだよね」

 そうですねと言って、ジョディの方を見る。

「行ってみなよ。荷物は僕が運んでおくから」

 ニコラスが軽く言ってくれたので、タカシはロバートに付いていく。

 軍務省の近くにギルド本部がある。本部は10階建てのビルで、都市の中央部に凜として立っていた。ギルドシティの象徴的なビルで、遺跡のセラミック素材をふんだんに使って高層建築を可能にしていた。そのため古代の建築物と同じようなスタイルになるのは仕方がない。


 階段を上って玄関から入り、受付に向かう。

 受付にはスーツを着た女性が二人いて、ロバートを見ると今までの雰囲気が変わった。そわそわして髪に手をやったりする。

「いらっしゃいませ」

 ハンサムな青年に対して全力の笑顔。

「先日、軍に登録したロバートという者ですが、エントランスでこちらに来るように言われたので……」

 さわやかな声で、さわやかな笑顔。受付嬢はロバートを注視していて後ろのタカシには目もくれない。

「ええ、はい。議長が会いたいと言っております……」

 軽く一礼してロバートはエレベーターに向かう。

 この世界には電動機などはない。電気設備もなく、動力や照明は全て魔法石によるものだ。

 タカシ達は10階で降りて、議長の執務室に向かった。

「ねえ、ロバートさん。議長というのはどういった人なんですか」

 ロバートは困ったように笑う。

「そうか、知らなかったか。ドエル議長はギルド評議会の最高幹部さ。つまり、人間世界の中心人物と考えていいかな」

 へえー、と言ってタカシは黙り込んだ。そんなに偉い人が一介の勇者と会うのだろうか。

「以前の戦いで私は活躍したからね。表彰式のときに一度だけ会ったことがあるんだ」

 そうなんですか、と小さく言ってタカシはまた黙り込む。ロバートさんは本当に有名なんだな。

 大きな両開きのドア。ロバートがノックすると、「どうぞ」と言う女性の声がして、ドアが開いた。

 眼鏡を掛けた落ち着いた感じの秘書だった。彼女はロバートを確認すると、部屋の奥を手で示した。

 ロバートは正面の大きな机に歩いて行く。タカシも中に入って厚い絨毯の上を歩いて付いていった。

 机に座っていた白髪の老人は席から立って笑顔で手を差し出した。あごまで白い髭に覆われている。70歳を超えてるが、長身で上品なダブルの背広を着こなしている。

「お久しぶりです。議長」

 ロバートも笑顔で握手をする。

「前回の会戦以来だね。よく来てくれた。ロバート君がいれば心強い」

 そう言って応接用のテーブルに着くように勧める。

 ロバートの隣に座ってタカシは大きな窓から外を見る。最上階からは都市が一望できた。

 議長は思い出話をしていたが、ふとタカシの方に視線を移す。

「この子はロバート君の弟子ですか」

「あっ、いや。タカシ君は我が隊の補給係です。よく気がつく人間で、私は頼りにしているんですよ」

 議長は微笑みながらタカシの方を向いてうなずく。

 タカシはうれしいような情けないような複雑な気分。彼は直接的に戦いの役に立ちたかったのだ。


 タカシは、ロバートと一緒にギルド本部を出て軍人会館に向かった。

 会館には個室が用意されていたので、荷物を片付けてから夕食のために部屋を出てジョディ達を探す。

 大きな建物だったので、タカシは迷ってしまった。あちこちを歩いているとロバートの声が聞こえてきたので、そのドアに向かう。

「だから、タカシ君は役に立つよ」

 強い口調のロバートの声だった。ドア越しに部屋の中から聞こえてくる。

「でも、体力はないし剣の腕も悪い。タカシは使えませんよ。はっきり言って足手まといです」

 トーマスの声。いらだっている様子がうかがえる。立ち聞きしているタカシの足が震えた。

「そんなことはねえよ。タカシがいないと困るぜ」

 カリーナが擁護している。

「あいつが作る飯は旨いからな」

 そう言って、へへへとカリーナが笑う。

「補給担当としてはいいかもしれないが、今の俺たちに必要なのは戦闘できる人間だ。荷物持ちがいても戦いの時は邪魔なだけだ」

 トーマスはタカシを認めていない。直接的な戦闘力を重要視していた。

「兄さん、タカシ君には何かがあるよ。剣だけでは戦いに勝つことはできない。戦闘に重要なものを彼は持っているような気がするんだ」

 ニコラスの声。彼はタカシのことを何かと気に掛けていた。

「コボルトとの戦闘の時もそうだったが、なんとなくタカシ君がいると安心感がある。逆に言うと彼がいない場合には例えようもないボンヤリとした不安が拭えない」

 ロバートの言葉に皆が沈黙する。それが誰もが感じていたことだったから。

 ドアのそばに立ちすくんでいるタカシは泣きそうな気分で震えていた。自分は必要とされていないのか。必死の思いで決断してここまで来たのに、僕はお邪魔虫だったのか。

 誰も分かってくれない。誰も僕のことを理解してくれない。冷たいものがタカシの心臓を意地悪く包んだ。

「タカシさん」

 ハッとして廊下に目をやるとパトリシアが立っていた。

「何をしているんですか? 夕食に行きませんか」

「ああ、そうだね。そういえば腹が減ったなあ……。ハハハ……」

 作り笑いでごまかす。いぶかしげにしている彼女を無視するように食堂に向かった。


 夕食の後、タカシは料理場から犬の餌になりそうな物をもらって馬小屋の方に行った。

 激しく吠えて、大型犬のジローが飛び出してくる。ジローはタカシの腰にむしゃぶりついて餌をねだった。

「よしよし、落ち着けよジロー」

 タカシが餌の入った鍋を床に置くと、犬は勢いよく食べ始めた。

「お前はいいよなあ……何も考えなくて済むんだもんな」

 ジローが鍋に顔を突っ込んで食べている姿を見てタカシはつぶやいた。

 僕は要らない人間なのかなあ。パターソンに帰って、またスライム販売をやった方がいいのかな。タカシは決心が揺らぎ始めていた。

「おお、タカシ。こんな所にいたのかよ」

 振り返るとカリーナの姿。短パンをはいているので浅黒い足が強調されている。完全に腹が出ている水着のようなシャツ。いつものように布面積の少ない服だった。大きな目で整った顔をしているが、可愛いと言うよりもボーイッシュと表現した方が合っている。

「カリーナさん……」

 どうしてここに、と言おうとしたら彼女は近づいてきてタカシの肩に手を置いた。

「相変わらず、しけた顔をしているなあ。何か困ったことがあれば相談しろよ。俺たちは仲間だからな」

 その言葉はタカシにとってうれしかった。

「お前を元気にしてやろうか? ほーれほれ」

 カリーナはタカシの手を取って自分の豊満な胸をつかませた。

「なにするんですか!」

 びっくりして手を振りほどく。

「あははは! まあ、やりたくなったら声を掛けろよ。相手してやるからなあ」

 そう言ってカリーナは去って行った。

 胸の鼓動が激しくなり収まらない。もしかしたら元気づけに来てくれたのかな。しばらくしてからタカシは気がつく。

 そうだ。魔王軍との戦いは僕が自分で決定したことだったんだ。戦ってもいないのに悩んでも仕方がない。勇者が1回死ぬところを臆病者は千回死ぬ。タカシはドラッカーの言葉を思い出した。決定したのならば実行しなければならない。今は迷うべき時ではない。

 タカシは食べ終えたジローの頭をグリグリとなでてから毅然とした足取りで宿舎に向かった。


  *


 二晩泊まってから、タカシ達は前線のトルティア城に向かって出発した。

 軍務省からはロバート小隊と仮称された。総員十名の任務はトルティア城に行くこと。そこで配属先が決定されるのだ。


 また馬車の中か。タカシは正直うんざりしていた。しかし、メンバーの誰もが文句を言うことがなかったので、我慢するしかない。


 二日後の夜にトルティア城に到着した。

 それは城と呼ぶよりも要塞といった方が正しい。周囲3キロメートルを囲む頑丈そうな塀と水堀、それに城を防衛するためのトーチカが周囲に多く点在していた。

 小隊が城門を通って中に入ると軍服を着た兵士が大勢いた。

 トルティア城は純粋な軍事基地で都市機能はない。千キロメートル先のマルタ高原では常に小競り合いが続いているので、城には1万人を超す兵隊が常駐している。

 指令本部にロバートが報告に行くと、すぐに宿泊施設に案内してくれた。

 それは日本で言う社員寮のような建物で、1階が食堂になっていて2階に小さな部屋が並んでいる。部屋が足りなかったので、ジョディとパトリシア、それにケントとデリラは同室になった。


 翌々日、タカシ達を含むロバート小隊は本部のブリーフィングルームに集まった。

 1階にある狭い部屋で、正面に黒板があり、その前に迷彩服を着た中年の男が苦い顔で立っていた。

 たくさんのイスが無造作に置いてある。タカシ達は適当な場所に座った。

 タカシは男の横に立っている温厚そうな青年に注目した。痩せていてひょろ長い体。同じく濃い緑色の迷彩服を着ていた。亜麻色の髪。そして、耳は長くとがっていた。

 タカシは、その青年のことを隣の席に座っているジョディにたずねた。

「ああ、あれはエルフ族ですよ。多分、伝令係ですね」

 いつものワンピースを着たジョディが平然という。

「エルフ族? ということはモンスターということかな……」

 モンスターの種族が人間に味方しているのだろか。タカシには理解できない。

「エルフ族は特別なんですよ。基本的に中立で魔王軍にも人間軍にも協力しているんです」

 ふーんと言って、タカシはボンヤリと納得した。

「私はサマーズ隊長である。では、カイン司令官からの命令による補給作戦を説明する」

 迷彩服の男がゆっくりとした口調で告げた。

「はいっ」

 前方の席に座っていたロバートが小気味よい声でこたえる。

「ロバート小隊は、私が隊長を務める第8補給部隊に配属される」

 タカシはロバートの後ろ姿に目をやった。

 ロバートさんは落胆しているだろうな。彼は根っからの戦士で、最前線で思い切り戦いたいのだとタカシは知っていた。補給隊などの地味な任務は性に合わないだろう。

 サマーズ隊長は、のんびりとした感じで作戦を説明している。それを要約すると、ロバート小隊は補給隊の防衛要員であり、補給物資を二百キロ先のガリア砦に運ぶための用心棒ということ。

 いよいよ本格的な戦いに参加するのか。タカシの胸に緊張と不安感が湧き上がっていた。



***1話終了


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