表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/27

7話、タカシは根本的な対策を考えた

 パターソンの町、その中央部にひときわ大きく居座っているギルド支部の建物。

 支部の1階は冒険者たちがたむろして、壁に張っているギルドからの仕事の依頼を物色している。2階には、いくつかのミーティングルームがあって、その一室でロバート達がコボルト退治の作戦を相談していた。


「このまま引き下がることはできない」

 ロバートが力説する。テーブルの上で握ったこぶしが決意の深さを物語っていた。白いシャツにスマートなズボン。鼻筋が通った青年は剣士にしておくのがもったいないような美貌だ。

「その通りですよ、ロバートさん。絶対に復讐してやりましょう!」

 イスから腰を浮かせて賛同したのはトーマスだった。パーマをかけたような癖のある茶髪。引き締まった体の冒険者だ。ロバートの絶対的な信奉者で彼を深く尊敬していた。

 ああ、いいなあ。タカシは離れたテーブルからロバートたちに羨望の視線を送っていた。ロバートさんのように強くてスタイルが良い男になりたいなあ。そう願うが、どうしようもないことが世の中にはたくさんある。

 コボルトからの逃走劇で九死に一生を得てから1週間たつ。ロバートはコボルトごときに殺されそうになったことを恥だと痛感し、自費を使って冒険者を集めたのだ。しかし、有力な冒険者たちは中央の激戦地に行ってしまったので人材には限りがあった。

 長いテーブルには議長役のロバート、それにパーティのメンバーのカリーナとバロンが座っている。さらにトーマスと長身のニコラスが席に着いていた。離れ小島のような壁際の小さなテーブルにはタカシとジョディ、それにパトリシアが何も言わずに座ってロバートたちの議論を聞いていた。

 タカシのパーティの役目は荷物運びと食事の用意であり、戦闘に参加することはない。だから、コボルト掃討作戦に意見を求められるはずもなく、今はオブザーバー役だった。

「よし、あたしが敵をかき回して引き連れてくるぜ」

 カリーナが不敵な笑みを浮かべて自信ありげに言う。キャミソールのような露出の高い服に短パン。引き締まった腕や足には小さな傷が無数に残っていて、百戦錬磨であることを信じさせる。

「やってきたコボルトの群れを俺たちがせん滅すればいいということだな」

 テーブルに響くような低音でバロン。大男は裸の上半身に革のベストを羽織っている。

「コボルトどもをおびき寄せて殺す。それを繰り返していけば遺跡のモンスターもいなくなるだろう」

 ロバートの力強い言葉にニコラス以外の皆がうなずく。

 ニコラスは疑問を示すように、首をかしげて薄い赤毛の長髪を揺らせた。彼は兄のトーマスよりも一回り背が高く物静かで冷静。暴走しがちな兄を押しとどめるという沈着な性格をしていた。

 タカシはニコラスが自分を見ていることに気がついた。

「君はどう思う?」

 ニコラスに声を掛けられ、タカシは動揺して背筋を伸ばす。

「タカシに聞いてもしょうがないだろ」

 トーマスはタカシを認めていない。戦闘力の低いタカシを見下していた。

 ニコラスは、少し黙っていろというように横のトーマスを睨んでから、もう一度聞く。

「タカシ君には何か考えがあるかい?」

 皆の視線が集中し、目立つことに慣れていないタカシは赤面した。

「えーと……、その……、コボルトを引きずりだす作戦はうまくいかないと思う」

 気温が下がったかのように場の空気が張り詰める。ロバートは腕組みをしてイスの背もたれに体重をかけた。

「普通に戦ってもかなわないことにコボルトは気が付いたんですよ。だから昼は全く出てこなくなった。こちらがいくら挑発しても敵は逃げるだけで戦闘にはならないと思います」

 タカシは自分の意見がどう思われているか不安で皆の顔色をうかがう。

 そんなものかなとロバートは小さくつぶやいた。

「少数では勝てないからコボルトは集団で行動するでしょう。こちらが油断しているところを大勢で奇襲してくると思います。そうなれば、いくら強い剣士がいてもパーティは全滅してしまいますよ」

 皆は沈黙した。タカシの分析が正しいと納得したからだ。

 ロバートがため息をつく。

「では、タカシ君には何か良い作戦はあるのかい」

「うーん……」

 ロバートの問いかけに、迷うようにタカシはコップの水を飲んだ。

「えーと……、前回の戦いで僕たちはピンチに陥りました。だから、またコボルトは同じやり方で来ると思う。それを利用して罠を仕掛ければ良いと思います」

「罠? というと」

 ロバートは身を乗り出す。

「遺跡の中央に噴水広場がありますよね」

「ああ、確か水の枯れた噴水があって、3方向に道が伸びているところか」

 ロバートは上を向いて、その地形を思いだす。

 そこは半径が20メートルほどの広場で、四方に道が走っているが、一方向だけは建物が倒壊していて通ることができない。十字路の交差点に噴水広場があるという場所。

「そこの西側の道を枯れ木などで封鎖して、南側の道で待ち伏せするという作戦ですよ。周りの建物は高いので、コボルトは登れないと思うんだ」

 そう言って、自分に確信させるようにタカシはうなずく。コボルトはオオカミ男のような体形なので木のぼりなどは苦手だった。

「がれきで東側は通ることはできないから良いが、北側はどうするんだ」

 ロバートが身を乗り出して聞く。

「北側は多少の障害物を置いて、通りにくくしておけばいいと思います」

 しばらく話していたのでタカシは冷静な口調になっている。

「完全に道を閉ざしてしまえばいいじゃないか」

「うーん……、そうすると逃げ道を失ったコボルトは必死に攻撃してくる。こちらの被害が大きくなると思うんですが」

 戦いの経験が少ないので、断言するような口調になれないタカシ。

「いくら突進してきても、狭い道なんだから襲ってくる数は少ない。一度に相手をする数が少なければ私なら負けることはない」

 ロバートは力強く言いきる。戦闘には、それだけの自信があるのだ。

「うーん……、モンスターでも人間でも、あまり追い詰めるのは良くないと思うんだけど……」

「どういうことだよ」

 カリーナが首をかしげてタカシに言った。

「えーと……、僕は日本にいたときに学校でいじめにあっていたんだ」

「日本というと、タカシ君が転生する前の世界ということかい」

 ロバートの問いにタカシがうなずく。

「そこで僕以外にもいじめられていた生徒がいたんだけど、あまりにも陰湿な嫌がらせで僕でさえも気の毒と思うほどだった……」

 タカシは言葉を止める。皆は何も言わずタカシに注目していた。

「ある日、その生徒が学校にナイフを持ってきて、いつも自分をいじめていた不良を刺してしまったんだ……。幸いなことにケガはひどくなかったんだけど、刺した生徒は保護観察の処分になった」

「ふーん、だからどうしたんだ?」

 カリーナがほおづえつきながらタカシに言う。

「いや、だから……、あまり相手を追い詰めない方が良いっていうことで……」

「いじめられていたんだったら、ぶっ倒すのが当然じゃないか。タカシはどうして相手を殺さなかったんだ。あたしだったら許さないぜ」

「いや、そういった世界じゃないんだよ、日本は……」

 道徳観が違うのだから日本の社会制度を理解させるのは難しいなとタカシは感じる。

「学校というのは公共の機関が管理している場所ですわね。それでも、人をいじめる行為が放置されているのはどうしてでしょう。変な世界ですね、日本というところは」

 タカシの横に座っていたパトリシアが発言した。着物に似た服を着て、腰を帯で結んでいる。

 そう言えば変な社会だなとタカシも思う。

「いじめる人間というものは自分で創り出すことができないのですわね。夢とか将来の希望とかを自分で見つけて達成しようとする能力がないから他人をいじめて刹那的な楽しみで自分をごまかしているんですわ」

 パトリシアの説明に、そういうことだったのかとタカシは腕組みをして考える。

「とにかく、この誘い出し作戦に逃げ道を作ってやる必要はない! この機会に全滅させてやる」

 ロバートがきっぱりと言い放った。

「賛成です。この際、コボルトをせん滅するべきだ」

 トーマスが同調する。

 その後の議題は、具体的な準備などに移行してしまった。

「この戦いの目的はせん滅戦ではなく、モンスターの排除だと思うだけどなあ。遺跡からコボルトがいなくなって町が平和になれば目的は達成されたというじゃないのかな」

 タカシは独り言をつぶやく。それに耳を貸すのは横のジョディとパトリシアだけだった。



 夜の廃虚。遺跡の頭上では半月が弱く照らし、枯れ木などが散乱している噴水広場には気の早い秋の虫が鳴いていた。

 その広場は直径が40メートルくらいで、中央に水の枯れた噴水のプールがある。

 プールの側にテントが張ってあり、その支柱に吊るされたランタンが薄暗く辺りを浮かび上がらせていた。馬車もあったが馬は繋がれておらず、放置されているような状態だ。

 テントに向かってゆっくりと近づく影の群れ。それはコボルトの集団だった。テントと馬車を囲むように音もなく押し寄せる二百匹以上のモンスター。その中でもひときわ大柄のコボルトが遺跡で拾ったセラミックの棒を持ってテントに近寄る。

 遺跡の建物にはセラミックのような建材が使われており、それは長い年月を経ても風化することがなかった。

 いつの間にか虫の声が消えていて、ひんやりとした夜風が広場に流れる。

 コボルトのリーダーである、大柄のモンスターは毛むくじゃらな手をテントに伸ばした。

 ぐいとテントをつかみ、思い切り引き倒す。ガラス製のランタンが割れる音が響いた。テントの中には誰もいなかった。他のコボルトが馬車に乗り込むが、そこも空だ。

 ランタンの油が広がり、同時に炎も広がって周りの枯れ木を燃やす。

「よし、やれ!」

 ロバートの合図が静寂を破り、タカシたちは建物の上から火炎瓶を投げつけた。タカシたちは北側の通路に投げ入れ、さらに広場の周囲に投げつける。トーマス兄弟は西側の道とその周辺に投げ込んだ。

 ガラスのビンの中に油を入れ、栓をした布切れに点火して投げつける。それは北と西の道を炎でふさぎ、さらに広場に散乱していた枯れ木に燃え移り、地獄の業火となってモンスターの群れを焼いた。

 走り回るコボルトたちの絶叫が火の中に不協和音を作る。

 タカシはジョディとパトリシアを連れて、広場に矢を放ちながら南の出口に向かう。あらかじめ燃えやすい枯れ木などを運び込んでおいたので、炎はますます激しくなり風の吹かない夜空を焦がした。


 唯一、火の気のない南側の通路にはロバートたちが待ち構えていた。道には適度に障害物を置き、脱出してくる野獣のスピードを制御する。

 炎から逃れようと数匹のコボルトが飛び出してきた。先頭にいたカリーナは両手のダガーナイフで鮮やかに喉笛を切り裂き、大男のバロンは斧で横殴りに切りつけて胴体を分断する。そこから逃れたコボルトは後ろで控えていたロバートに襲いかかった。

 彼は踊るように回り、炎を反射した剣の軌跡を作る。、そして二匹のコボルトを瞬時に切り倒してしまった。神技のような剣の舞を披露したロバートの横顔を炎が照らし、その美貌を非情に浮かび上がらせていた。


 タカシたちは南側の通路付近で、火から逃れようと奔走しているコボルトに向かって矢を放っていた。それらは脱出しようと南側に密集していたので狙わなくても当たる。

 向こう側の建物の上ではニコラスが弓を引く。彼は弓の名手であり、走り回るコボルトにも確実に命中させていた。

 火の勢いがますます激しくなり、コボルトは死に物狂いで出口を突破しようと突撃する。

 押し寄せるコボルトの勢いが強くなったのでロバートたちは苦戦し始めた。トーマスが参戦したが、四人は休む暇もなく戦い続けなければならない。

 ロバートたちの疲労の限界を察して、タカシはジョディに指示する。

「出口にスパークだ」

 魔法少女は高く杖を掲げ、短く呪文を唱えた。

 炎の中に稲妻が走って、数匹のコボルトがのたうちまわる。


 一時的にコボルトが来なくなったので、カリーナはその場に座り込み、肩で息をする。バロンも大きな斧に身を預けてしばしの休憩。辺りには肉の焦げる匂いが漂ってきていた。。

 ロバートは荒い呼吸で前方を見る。火の中に浮かび上がる無数のコボルトの死骸。

「タカシ君の言うとおり、逃げ道を作っておけばよかったか……」

 体力の限界を感じてロバートは後悔していた。

 火が空気をかき回す音がだけが聞こえる。

 突然、耳をつんざくような咆哮がしたと思うと炎の中から死骸の山を飛び越えて大きな影が飛び出してきた。

 それは大柄なコボルトで、持っていたセラミックの棒でカリーナとバロンをなぎ倒し、背中が燃えている状態でロバートに向かってきた。

 振り下ろされた凶器を剣で受け止める。ロバートの腕にしびれるような衝撃。剣げきの火花が散ってロバートの顔に降りかかる。目の前には憎しみのこもった恐ろしい狼の形相。リーダー格のコボルトは、さらに何度も打ちつけ、そのたびに剣で受け止めるが、疲労のために防御にも限界があった。

 ロバートは思い切ってコボルトの懐に飛び込み、剣を振り上げる。コボルトの右腕が飛び、セラミックの棒が石畳に転がって、その音がカランと響く。

 ひるむことなくコボルトは剣に噛みついた。そして、振り回すようにして剣をもぎ取り左腕でロバートの首を絞めた。

「ロバートさん!」

 トーマスは助けたかったが、後から飛び出してきた2匹のコボルトの相手で手いっぱい。

 苦しくてロバートはコボルトの腕をかきむしるが、首を絞められたまま持ち上げられた。カリーナとバロンは道の端に倒れたまま動けないでいる。

 ロバートは意識が遠のく中、腰のベルトを探って短剣を抜いた。腕に力を込めコボルトの上腕部に突き刺す。首を絞めていた手が緩みロバートは地面に落下した。一度、大きく深呼吸してからロバートは両手で短剣を構え、よろめいているコボルトの心臓めがけて体ごとぶち当たった。

 ドクンドクンと噴き出す血がロバートに降りかかる。コボルトは左手で宙をかきむしり、やがてゆっくりと崩れ落ちていった。

 片膝をついて激しい呼吸をする。ロバートはカリーナとバロンがのろのろと立ち上がる姿をぼんやりとみていた。

 弓を連射していたニコラスの矢が尽き、コボルトの勢いを止めることができなくなる。必死の脱出を図るコボルトたちが集団で出口に殺到した。

「ロバートさん! 逃げて」

 タカシが建物の上から叫んだが、思考がはっきりしていないロバートは立ち上がることができない。唸り声をあげてコボルトたちが怒涛のごとく押し寄せる。

 タカシは屋根から飛び降り、ロバートのベルトをひっつかんで道の端に引き寄せた。目の前を凶悪なモンスターの一団が体から煙を出しながら走り抜けていった。


 戦いの一夜は終わった。残ったのは負傷したカリーナとバロン、それに多数のコボルトの死骸。まだ広場には火が残っておりパチパチと空気をはじくような音を立てている。あかつきの空にとどまる半月は、はびこってきた雲におおい隠されようとしていた。


 すぐにパトリシアは回復魔法を使ってカリーナとバロンを治療する。

 やがて夜は明けたが、雲が厚くなってきたために朝日は見えず、しばらくして小雨が降り出した。

 タカシは広場に行ってみた。ジョディとパトリシアが後から付いてくる。

 そこには大量のコボルトの焼死体。くすぶっている凄惨な姿を見てジョディは顔を曇らせて逃げていった。

 タカシはゆっくりと広場の中央に歩いていく。ロバートが手の甲の魔法表でモンスター退治の功績を報告していた。

「やあ、タカシ君。かなりのコボルトを殺したようだ。報奨金は期待できるよ。賞金は皆で均等に分けることにした。もちろん君たちも同様だ。全員で公平に分配するからね」

 小さく、はいと答えてその場から去る。タカシは噴水の近くに行った。雨が強く振りだしてきてプールに水が溜まっていた。

 そこには夫婦と思われるコボルトが2匹、折り重なるように倒れていた。そして、その下には子どものコボルト。つがいのコボルトは自分の子どもを守ろうとしたのだ。タカシはめまいにも似た感覚を憶え気が遠くなるような感じがした。

 孤児となった農場のヘカテ。自分たちの娘を命を賭けて守った夫婦の姿が目の前のコボルトに重なる。プールには雨の水が溜まり、それはコボルトの血で赤く染まっていく。

 泣きそうになりタカシは逃げだした。小走りで戦場から逃げる。広場を抜けてしばらくしてから立ち止まった。

「大丈夫ですか」

 追いかけてきたパトリシアが心配そうに声をかけた。タカシは深呼吸してからうなずく。

「戦争に正義は存在しないんだね……」

 タカシはさびしそうに言った。

 返事に迷ったパトリシアは慰めるように訊く。

「これからどうしますか……」

「……僕は戦うよ」

 タカシは顔を上げた。

「これからも戦う。ヘカテちゃんのような子を出さないようにするためにも戦わなければならない。一般の人間が平和に、安心して生活できるようになるまで僕は戦い続ける」

 パトリシアはにっこりと笑った。

「では、私も一緒に戦いますわ。かかる火の粉は払わなければなりません。魔王軍が戦いをやめない限りタカシさんに協力いたしますわ」

 彼女の笑顔が優しくてタカシは胸が苦しくなり目を細めた。

 雨が激しくなり、服がじっとりと肌にはりつく。タカシの涙は頬を伝う雨の雫にかき消された。



 それから、しばらくタカシは勇者の宿で定型業務のスライム販売を営んでいた。

 コボルトが全滅したわけではないので、別の作戦を立てて一掃しなければとタカシは思っていた。しかし、恐れをなしたのか、コボルトは遺跡からいなくなっていた。パターソンの町の住人に被害を及ぼすこともなくなったので戦う必要がない。

 それで以前の生活に戻り、毎日のんびりとスライムを捕獲したり運送したりする仕事が続いている。


 噴水広場の激戦から2週間後。いきなりロバートが勇者の宿に訪れた。

 宿の1階にあるロビーで面会する。テーブルにはロバートとタカシ、それにジョディとパトリシアが座った。

「もう町にコボルトはいなくなったようだ。それで私は中央に行こうと思う」

 そう言ってロバートが出されたコーヒーに口をつける。

「大陸の前線では激しい戦いが続いているようですね」

 そう答えたタカシは、わざわざロバートが訪問してきた理由を知りたい。

「そう、だから私も戦列に参加して魔王軍と対決するつもりだ」

 コーヒーカップを置いたロバートはタカシを真っすぐ見た。

「タカシ君。一緒に来てくれないか。君がいると心強い」

 視線をそらすようにタカシは横のジョディとパトリシアを交互に見る。

 ジョディはうつむき、パトリシアは小さく頷いた。

「ちょっと考えさせてもらえませんか」

 タカシは迷う。一人で決めて良い問題でない。

 なるべく早く返事をくれと言ってロバートは帰っていった。


「タカシさん、どうします?」

 パトリシアがタカシの表情をうかがう。

「うーん……」

 腕組みをするタカシ。

「私は行きたくないなあ。だってスライムの仕事をやっていれば生活していけるし、この前の戦いで大金が手に入ったんだから、無理して危ないことをしなくても……」

 小さい声でジョディ。彼女は顔を曇らせ、床に視線を流す。

「このパーティのリーダーはタカシさんです。わたくしはリーダーに従いますわ。タカシさんの心は決まっているのでしょう?」

 パトリシアはきっぱりと言ってジョディの方を向く。

「あなたは残ってもよろしいのですよ」

 ジョディは激しく首を横に振った。

「タカシさんが行くなら私も……」

 タカシは席を立って窓に近づく。外は一面の野原。澄んだ青空。

 秋風が吹いて野原に風の波紋を作った。


*** 第7話、終了

 第2章が終了しました。

 2章のタイトルはイノベーションとなっていますが、スライム販売からコボルト退治に移行することは厳密にはイノベーションとは言えないでしょう。『マネジメント』によると、イノベーションとは新機軸を作りだすことを言うようです。既存に存在するコボルト退治を行うことはイノベーションではありません。

 しかし、作戦を考えて効率的な戦いを画策するということで、広義としてはイノベーションと呼んでもいいかなと思っています。


 第3章は魔王軍との本格的な戦いになります。

 構想を練るためにしばらく間をおきたいと思っています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ